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日高の秘峰
遂に念願の1839峰に登る
(2)

2007/10/5〜7


 2日目 10月6日 (晴れ・無風)


前衛峰を従えた1839峰(ヤオロマップ岳への稜線から)

 午前3時30分、寒さで目が覚める。換気口からのぞいて見る外は、まだ暗い。フライシートのファスナーは夜露が凍って開けづらい。霜が下りている。朝食の準備をし、行動食のアルファ米の赤飯を用意する。まだ、ご来光には早いがサブザックに必要な物を詰め、5時に出発する。稜線の道は霜で滑りやすく、ハイマツは濡れている。1752mまで登ってご来光を待つ。薄紫の黎明の中から太陽がするするっと登ってくる。とうとう、待ちに待った1839峰へ登るときがやってきた。

日の出前のヤオロマップ岳への稜線で


鋭角に細い道もあるから慎重に

 1752mから下りた鞍部にテントを一つ張れる場所がある。6時30分、ヤオロマップ岳に着く。頂上手前にテント場が3つある。十勝側の水場への明瞭な踏み跡がある。頂上にも一つ張れる。ペテガリも、手こずったルベツネも1600m見えるが、それよりなにより1839峰だ。1839峰への尾根を少し下ると広いテント場がある。特に十勝側からの風を防ぐ絶好の場所だ。南側にも若干のブッシュがあるからある程度の風除けになる。

ヤオロマップ岳からわずか1839峰へ下ったところ



1702mからの前衛峰と1839峰

 1839峰への尾根は、地図からは読み取ることが難しいコブがいくつもある。まさにノコギリの歯だ。道が南面にあるときはお花畑であろうと思われるブッシュの少ない開けた草はらで、北面を通るときはハイマツやミヤマハンノキが茂る中を通る。草を食べた後のものと思われるヒグマの糞が2か所にある。稜線には年季の入ったハイマツが多い。ハイマツは踏まれて表皮がなく、道もよく踏まれていて明瞭だ。東京からのツアー登山で1839峰を登るものがある時代である。ハイマツの枝もところどころ切られていて、コイカク〜ヤオロ間より歩きやすいと言って過言はないであろう。ただ、この尾根で、2004年7月17日に滑落事故が発生しており、道内の男性が死亡している。いずれにしても尾根筋には常に危険が潜んでいることを忘れてはならない。このニュースが流れた当日は、七ツ沼で幕営した朝に、天候の悪化で幌尻岳をあきらめた日だ。カールバンドに遮られた七ツ沼でさえ相当の風が当たっていたことから、1839峰への稜線での風雨はかなりのものだったと思われる。    

 1781mを越えると大きく下ってノコギリの歯をなんども上り下りする。1702mに取り付いて上り詰めると、それまで隠れていた前鋭鋒がその先に姿を現す。前衛峰の上りは非常に急峻で心配するが、北面の樹林の中に道が付けられていて問題となるところはない。上りの途中で休憩する。2008年夏に登ることとしている1826峰、1807峰の先にカムイエクウチカウシ山が鎮座している。実にいい眺めだ。

前衛峰をいただく1839峰



1839峰の難関を見上げる

 ここからが今回の核心部、1839峰への急登である。スラブの真横を通らなければ1839峰の頂には立てない。斜度は45度をゆうに超えている。梯子を屋根に架けたと思えばいい傾斜だ。フィックスロープの類はない。取り付いてみる。適度に足場が切られている。大股にならなければならないところもあるが、草を押さえつけてホールドし、あるいは木の枝をつかみ、概ね問題なく通過できた。傾斜が緩くなると、そこは1839峰の頂上だ。憧れの1839峰の頂上に立っている。(9時42分)

 頂上でずいぶんと時間を過ごしてしまった。1839峰から離れなければならない。もう一度、頂上から四囲の山々を眺める。ノコギリの歯まで来るとヤオロマップ岳にテントが張られているのが見える。1781mの上りの途中でナナカマドの実を撮っていると、「こんにちは」と後ろから声がかかる。朝、札内川ヒュッテを発って昼にヤオロマップ岳に着き、テントを張ってから1839峰を往復するという単独男性である。小柄で優しそうな人であったが、尾根上のハイマツをかき分ける姿はヒグマのようであった。ハイマツをバッサバッサとかき分けて、グングン進んでいる。

1839峰頂上



1781mから「1823峰」とカムエク



たった今咲いたばかりのミヤマリンドウ

 12時54分、1781mに到着。ペテガリ岳、ルベツネ山、1600m、そしてヤオロマップ岳へと続く稜線が手に取るように見える。2005年夏、展望のまったくないあの尾根を、悪天候の中をよく歩いて来れたものだ。稜線の南側(ペテガリ岳側)は、開けた草場である。季節には高山植物の花々が豊富なことだろう。今はエゾオヤマリンドウの花がらやチングルマの髭が見えるだけだ。稜線の南側を通過中、草むらに紫色の花が見える。こんな時期に何の花だろうと覗き込むと、たった今咲いたばかりだというミヤマリンドウであった。花をまったく期待していなかったことから、ことのほか美しかった。13時40分、ヤオロマップ岳の頂上に戻る。1839峰へ行っている氏の赤いテントが(広いほうのテント場の真ん中に)置かれている。

1781mからのルベツネ山とペテガリ岳


ヤオロマップ岳頂上からコイカクシュサツナイ岳

 ヤオロマップ岳の水場へは、コイカクシュサツナイ岳方面から向かった場合、ヤオロマップ岳頂上に至るほんの少し手前にあるテント場を左側(十勝側)に下りる明瞭な踏み跡がある。下りなかったので水が取れるか不明ではあったが、頂上から俯瞰した雰囲気では、この時期期待薄ではないかとの印象を持った。また、ヤオロマップ岳頂上から1839峰へと続く稜線を少し行くとテント場があって、テント場から稜線の南側に下る踏み跡があり、これが1839峰寄りの水場への踏み跡と思われるる。踏み跡はさほど明瞭ではない。これまでの記録をホームページで見ると、水が確実に取れるとの確証がないことから、自分で担ぎ上げるのが無難と思われる。

切れ落ちる「ヤオロマップの窓」

 
ヤオロマップの窓のテント場

 ヤオロマップ岳頂上から尾根伝いの1413m、1600m、ルベツネ山、南峰、ペテガリ岳を展望し、今辿った1839峰への道を振り返り、ヤオロマップ岳を後にする。1752mのコルのテント場を見て1752mに取り付き、その頂に至り、次のコブに登るとヤオロマップの窓、そして主を待っているテントが見える。そのテントに向かって男性が1人、そしてそのすぐ後ろに男性2人と女性の3人がハイマツを漕いでいる。いずれもヤオロマップ岳で幕営するという。3人のグループは、「水はどのぐらい持ってきましたか。」と聞く。水が少ないようだ。夏山と違って10月の北海道の山での水の消費は少ないだろうと思うと痛い目に遭う。天気がよければ稜線での気温は20度にも近い。2003年にペテガリ岳を東尾根コースから登ったときに水を切らして10数時間、水なしに歩いた悪夢がおぞましい。それからは、いつも厚手のビニールで包装された「クリタのうまい水」を1.5リットル、非常用としてザックに入れている。今回は、もうその水を使う必要がないことから、テント場に残置すると伝える。

 15時40分、ヤオロマップの窓に設営したテントに着く。1839峰に登ることを目的に北海道へ足を運ぶということも、なかなか簡単にはいかない。1839峰へ登ろうと計画してから、3年越しにやっと登ることができた。それも快晴という絶好のコンディションであった。満足感に浸ってウィスキーのお湯割を飲み、いつしか夢の世界に入っていってしまった。


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