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神々の遊ぶ庭 
大雪山縦走

天人峡〜化雲岳〜トムラウシ山〜五色岳〜忠別岳〜白雲岳〜間宮岳〜中岳温泉〜旭岳温泉

2003/ 7/19〜23

 第5日目(7月23日・水)


白雲岳のテント場

  縦走最終日の今日も最高の天気である。7月も下旬とはいえ,山の上の朝は寒い。テントに下りた露が氷となって張りついている。寒さに震えながら,避難小屋脇の小屋に行くと,アズマギクが身を寄せ合って朝日を浴びている。抜けるような青空のもと,きのうまで花三昧を堪能しながら歩いてきた高根ヶ原から忠別岳,そして化雲岳,さらにはトムラウシ山までが遠望できる。テント場裏の白雲岳が,朝日によって下から上えと徐々に白雲岳を染め上げられていく。厳かなときが過ぎる。今日は縦走の最終仕上げ,標高1898mにある中岳温泉に入ってのんびりする行程を組み入れている。

北海道は,明治政府のお達しにも関わらず,混浴文化が今でも残る土地柄との認識でいたが,今は平成の世の中,道産子もすっかり「内地」の文明に毒され,混浴の温泉に入るのに水着を着用するのだとか。中岳温泉でもご多分に漏れず,キタキツネでもヒグマでも水着を着けるか,水着がないときは足湯だけで済ませるそうである。ならば,人のいないときに入ればよいのではないかということで,早めにテントを畳んで,まずは白雲分岐へと早朝の登山道を歩く。テントに氷が張ったと同様に,登山道に流れる水も凍っていて,氷を踏みしめるとバリバリと音を立てる。

  白雲分岐からユウセツ沢川に徐々に下るにしたがって,登山道もゴロタ石から土に変わってくると,雪渓が溶けた登山道沿いにエゾコザクラが咲き,エゾノツガザクラが山の緩やかな斜面一杯に広がるお花畑が出現する。朝日に暖められた清浄な空気が心地よく顔に当たる。ユウセツ沢川から北海岳までは,なだらかな登りとなっている。その名も結構な有毒温泉や御鉢平を見下ろしながら,あるいは黒岳を振り返りながら,岩混じりの砂礫の中を間宮岳へと足を進める。


チシマノキンバイソウ

  大雪山の最高峰である旭岳は,北海道の最高峰でもあり,標高は2290mである。今回の縦走では,中岳温泉入浴の誘惑によって,旭岳を通らないが,間宮岳から眺める旭岳は,後旭岳を従え,雪渓と緑のコントラストが美しい。 間宮岳から中岳分岐へは下り一辺倒となり,登山道の足許も火山礫でザクザクとした状態で,注意しながら進む。登山道脇の花は,高根ヶ原と同様に,イワブクロやチシマギキョウが主体であるが,花の一つ一つのかたまりは大きい。 中岳分岐からしばらく下りると,ハイマツやナナカマド主体の樹林が中岳温泉近くまで続いている。樹林が切れると中岳温泉が見え,急傾斜の崖を落ちるように下る。

 中岳温泉は,ピウケナイ川の源頭部に湧く温泉で,“天国に一番近い温泉”と呼ばれている。そのいわれは標高の一番高い温泉ということであろうが,大雪の麓を遥か見渡せる最高のロケーションにあり,そのような環境の中での温泉入浴に期待が高まる。白雲岳キャンプ場から温泉までは,前後左右まったくの一人旅であり,旭岳ロープ−ウェイからも,そして愛山渓からの入山にしても,早朝にここまでたどり着くのは無理なので,湯船は一人占めと思っていたが,実際は先客の青年男性1名様がご入浴中であった。

 思い返せば北海岳で簡便な朝食兼休憩中,黒岳方面から来た人が通り過ぎて行き,黒岳を右に曲ったのであった。その青年は烏の行水らしく,自分の入浴シーンをセルフタイマーでカメラに収めると,湯船から出て下山していったので,その後はまさしく一人天下,お天道様の下で硫黄分たっぷりの温泉を,のんびりと堪能するのであった。 この中岳温泉は,ピウケナイ川の横にこんこんと湧く源泉を,川の水を源泉に誘導して湯の温度を調節している。


エゾノリュウキンカ

 湯船は,川床の砂をスコップで掘り,寝そべると湯が体を隠すぐらいの深さであるから,いかに北海道には混浴文化が面々と息づいていようが,衆人監視の中での入浴ははばかれるのかもしれない。 当然のごとく,縦走も最終日の4日目となると,登山姿から放たれる芳香も,自分自身には芳しく感じられないだけであり,上皮に堆積した疲労物質の残滓も結構なものとなっているはずである。 天上の楽園で,そよ風に吹かれながらの入浴,5日間の山歩きで堆積した芳香も残滓もすっかり下流へと流れて極楽気分を満喫する。

 すっかり長湯をしてしまった。そろそろ上がろうかなと極楽の湯船を出て着替えていると,女性二人が登って来て,「私らが入るから早く下りてくれない?」とあまりにストレートな物言いをする。がさつな奴めと思っていると,「裸で入るのを楽しみにしていたの。若くない肌を見てもしょうがないでしょう。」というので,それも一理ある話なので先のものの言い方は許すこととして,下山準備に取りかかる。天上の極楽温泉を満喫したあとは,裾合平に下りてチングルマの大群落の眺めを楽しんで,あとは旭岳温泉に下りるのみとなる。


中岳温泉

裾合平には,チングルマのほか,エゾコザクラやハクサンイチゲ,キハナシャクナゲが咲いているが,時期的には遅い。裾合平へは,木道が整備されていて,旭岳ロープウェイを使えばハイキング気分で来ようと思えば来られる所ではあるが,ロープウェイの駅から木道が敷設されているまでの間は長く,結構なアップダウンも何か所もある。また,雪渓も横断しなければならず,雪渓のあるところは付近の登山道がぬかるみ状態となっていて歩きづらい。

 ロープウェイ駅の「すがたみ」に近づくと,人がどんどん多くなってくる。山歩きをしなくても,姿見平付近を散策するだけでそれなりの高山植物を間近に楽しむことができるので,多くの人を引き付けている。お昼時のこの周辺では,縦走装備のザックを背負っていると場違いのように感じる。野菜不足もあり,体は新鮮な野菜を,喉は水分を欲しているので,さっさと下界へと直行するため,ロープーウェイに乗って下界へと下りる。


高根ヶ原

 旭岳温泉には,ホテルはあっても,食堂・レストラン単独の施設はない。旭岳ビジターセンターで食事ができる場所を聞いて,ロッジ・ヌタプカウシペが食堂を併設しラーメンを食べさせてくれることを知る。ロッジはログハウス,テーブルも自然木を削り出したもので,入浴もさせてくれ風呂も天然木をたくさん使っている。食堂を切り盛りしている夫婦は,関西系の人にしてはおとなしいというか,愛想がないというか物静か。

 さっそく水分を頼み,一気にごくごくと飲み干してしまうが,まさに体に浸み込んでいくような感じである。無性に野菜が欲しいので注文するが,冷やしトマト以外はメニューにないので出せないという。それもしょうがないことであり,トマト2皿のほかに再び水分を注文すると,つまみのピーナツを小皿に山盛り付けてくれる。愛想のない女将が,ここが本当は心の優しい関西系の本領か,家で食べているものでよかったら出すと言ってくれ,茹でたブロッコリーや,乱切りにしたキュウリなどをたっぷり出してくれる。そしてその分の勘定は受け取らないのである。そして,旭岳温泉で消費した場合のプレゼントとしてバスの無料乗車券までいただいてしまう。


登山口は天人峡温泉  

車の回収のために登山口の天人峡へ戻らなければならないが,バスが来るまでにはまだまだ何時間もある。ロッジの近くのキャンプ場に木陰のベンチがあるので,のびのびと寝そべってそよ風に吹かれて午睡に入る。天人峡までのバスは,途中でブレーキが燃え煙を出して代替バスに乗り替え,駐車場に停めてあった車の窓は開けっぱなしなどと,締めくくりに当たって多少のハプニングはあったものの,2003年の夏山は,晴天に恵まれ,また,お目当ての高山植物にも囲まれて充実したものとなった。

行程及びタイム
 1日目 札幌13:00〜旭川〜旭岳温泉18:30(旭岳青少年野営場テント泊)
 2日目 旭岳温泉
06:00〜天人峡温泉06:40(公営駐車場駐車) 化雲岳登山口07:00〜滝見台08:00〜木道入口10:00〜第1花園10:20〜8kmポイント12:30〜第2花園12:4010.5kmポイント14:30〜化雲岳15:20〜ヒサゴ沼キャンプ 場(泊) 8時間20分
 3日目 ヒサゴ沼07:00〜トムラウシ山09:45〜ヒサゴ沼分岐12:20〜五色岳14:30〜中別岳避難小屋分岐15:10〜中別岳キャンプ場15:30()  8時間30分
 4日目 中別岳キャンプ場05:20〜中別岳06:4007:20発〜平ヶ岳08:50〜白雲岳キャンプ場12:00=出発13:30〜板垣新道分岐14:10〜緑岳14:30〜白雲岳キャンプ場15:30   8時間40分
 5日目 白雲岳キャンプ場05:40〜白雲分分岐06:13〜北海岳分岐07:17〜間宮岳08:00〜中岳分岐08:20〜中岳温泉08:20=入浴=10:00〜裾合平10:40〜すがたみロープウェイ駅11:45〜あさひだけ駅11:55(ロッジ・ヌタプカウシペで昼食休憩後札幌20:00着) 6時間35分


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