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伏 美 岳
2006/6/15〜18


 6月15日


(伏美岳のテント場)

 毎日毎日,週間天気予報を見ても北海道の予報は好転しない。しかし,航空券は手配してあるし,テントも新調して日高の稜線で泊まることを夢見ている。レインウェアーもレインスパッツも併せて新調したから多少の雨ならいいかと,帯広空港でレンタカーを借りて伏美小屋までの林道を走る。

 降水確率90%,それも平日の日高の山に人は入っていないだろうと思ったが,小屋の先の登山口まで行って登山ポストを見ると2組が入山していて,うち一組は稜線に泊まりピパイロまで行く予定となっている。こんな天気に山に入っている自分と同じような好き者もいるのだと,ほっと安心感を覚え,いったん小屋に戻って仕度を始めると1台の車が下りてきて,運転者が挙手をして過ぎ去る。「雨だよ,がんばりな。」と言っているようだ。

 3度目の日高の展望台への登り道,この景色,この沢の流れ,この花,この樹木,この香り,どれもが懐かしい。山中3泊の装備はいつもと同じで30キロもあって肩にずしりと重いが,今まで感じていた重さではない。体調がいいせいか軽快な足運びが可能で幸先はいいなと思っているころ,登山道脇に新鮮な掘り返しが見られ,標高が間もなく1,315mに達する場所では激烈な獣臭が南の風に乗って襲ってく
る。
どうやら熊笹の中に身を潜めているようだ。


雨が激しく眺望がまったくない伏美岳頂上

 昨年,奴はトムラウシ山の冬眠場所を離れて6月15日に登山道を横切ったと古老は言っていた。沢沿いにはエゾノリュウキンカ,登山道にはギョウジャニンニクが若芽を出していて,山菜を食しながら夏の住処に移動していく途中なのだろうか。

 俺は登山中だ,山菜取りではないぞとばかりに熊鈴2個をガシャガシャと鳴らして足早に悪臭の場所を離れる。でもこれが日高なのだ,北海道なのだと気持ちに余裕があるのは,やはり稜線にパーティが入っているからだと思う。なぜなら,その後すぐその2人が下りてきて,「この雨では如何ともしがたいですね。ピパイロまで行くのは無理なので,水場のコルで1泊してあきらめて戻ってきました。」と言って去って行った後,急に寂寥感に見舞われてしまったからだ。

 元気なつもり,怖くはないつもり,大丈夫なつもり,雪渓は何とかなるつもり,天気は好転する場合もあるつもりではあっても,伏美岳に到着してまったく遠望どころかちょっと先の登山道もガスで見通せなくなると,急に弱気がもたげてきた。それでも,幌尻岳までは無理でもピパイロまでは行くんだと,今夜の宿作りに精を出す。


伏美岳登山口先 最終水場の斜面に咲くエゾオオサクラソウ 稀少な白花も見える

 夜の帳が下りてくるとともに,風雨が強くなる。テント場はハイマツに囲まれていているから風は当たらないが,強い雨でテントがもたず雨が入り込んでくる。ラジオの天気予報を聴くと,明日は雷雨があると知らせている。多少の雨でも進もうと考えていたが,雷雨には勝てない。明日は下山して小屋で濡れたものを乾かしながら寝ようと決める。いくら強がりを言っても,やはり花を見ながらの山登りは晴れがいいに決まっている。


 6月16日

 一晩中雨が降り続いていた。ピパイロ方面はまったく視界がきかない。朝食を済ませ,雨の中,テントを片付けて下山の準備を始める。
 雨に濡れた登山道は急斜面でいったん滑ると制動が利かず尻からすべり落ちしまう。その登山道脇には,ツバメオモト,シラネアオイやムラサキヤシオツツジなどのほか,登山口近くではエゾノリュウキンカ,エゾオオサクラソウなどが盛期を迎えていて,ツクモグサを見ることはできなかったが,春の北海道の花を十分に楽しむことができた。ようやく着いた伏美小屋では,ストーブに火を入れて暖を取って一息入れる。

 中札内美術村ではちょうど,柏林の中の花の見ごろとなっていて,スズランやベニバナイチヤクソウを見ながら,あるいは400年間もの間,斧を使っていないという音更の河岸段丘の自然林を散策し,コケイラン,ベニバナイチヤクソウなどを見て回った。        

 その他の花の画像


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