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キタダケソウが見たくて 北岳

2006/ 7/1〜2


 7月1日(土)


登攀者を認めることができる大樺沢から八本歯のコルへの雪渓

 梅雨前線が本州の真ん中にかかっていて天気予報は相変わらず悪く,降雨確率は土日とも70%前後と高い。しかし,キタダケソウは次週に持ち越すわけにはいかず,テント泊をあきらめて小屋泊まりとして荷物を軽くし,芦安の駐車場に向かった。

 芦安に着くころには雨は本格的に降り出し,広い駐車場には車が数台停まっているだけで,いくらあこがれのキタダケソウを見るためとはいっても,二の足を踏んでいるようだ。

 芦安から広河原までの連絡バスの出発は,始発が午前5時10分なので目覚ましを4時にセットして起きてみると,駐車場には結構な数の車が停まっていて,寝ている間に続々好きな人たちが集まってきていたのだった。

 バスが広河原に着くころに雨はいったん小康状態となって,登山客は続々と広河原山荘から樹林帯に入って行くが,まったく勝手の分からない初めての山であるし,頂上までの1660mの標高差とコースの長さを考えるとあせってはいけないと,トイレに寄ったり歯を磨いたりなどして,のんびりとしんがりを行くこととした。


肩ノ小屋からの甲斐駒ヶ岳

 広河原から大樺沢の流れに沿って二股に向かうと,左股コースはびっしりと雪渓に埋もれていて,急斜面からの落石の跡も著しい上に雪渓は締まって固い。

 右股コースに進路をとって高度を稼ぐと,ミヤマキンポウゲやシナノキンバイ,ハクサンイチゲがこれから開花しようとしているし,サンリンソウやキバナノコマノツメ,サンカヨウ,ツバメオモトなどがにぎやかに咲いている。確証は何もないが,このようなところならアツモリソウが咲いていてもよさそうだなとの雰囲気を感じる。ちょうど岩場の草付にハクサンイチゲが固まって咲いていたので,雨は降っているもののコンロを取り出してお湯を沸かしてコーヒーをいれ,しばらく周りの風景を楽しむ。

 樹林帯をいったん抜けると広い草付に出て,登山道が急角度で折れるところにテントを1張置けるスペースがあって,そこから細い足跡が谷に向かっている。周辺には枯れ草の中からショウジョウバカマが花茎を伸ばしているが,その足跡が何かの目的のために付けられているように感じられる。


小太郎尾根〜肩ノ小屋間の稜線

 草すべりと右股コースの合流地点の上は小太郎尾根分岐で,オスプレイの大きなザックを持った女性が休憩している。テント泊で間ノ岳から農鳥岳を縦走し奈良田へ下りるというタフな計画であるが,飄々と歩いているようである。

 稜線に乗ってしばらくすると重いガスが強風で吹き飛ばされ,甲斐駒ヶ岳や仙丈岳が顔をのぞかせ,咲いたばかりのハクサンイチゲを中心とした高嶺の花がプロムナードを飾っている。

 北岳の頂上は再びガスに覆われて展望はないので吊尾根分岐へと急ぎ,八本歯ノコルへ向かう。分岐までの道は著しくザレた道な上,傾斜が急ではあるが,キタダケソウを見ることができるだろうかと足早に下る。

 トラバース道で誰かが大声で呼んでいる。風で何を言っているのかは分からないが,多分,キタダケソウはここに咲いているよと言っているようだ。八本歯ノコルからトラバース道に入ると,もうそこはキタダケソウとハクサンイチゲのお花畑が広がっている。


開花間もないハクサンイチゲ

 アポイ岳ではもう息も絶え絶えのヒダカソウとは違って,キタダケソウが咲くころのトラバース道は雪が登山道を埋めていて通行が禁止され,その登山道も急斜面に張り付いているような状態なので,安易な登山者は寄せ付けないであろうから,今でもこれほどのスケールで残っているのであろう。キタダケソウは終焉を迎えようとしているが,ハクサンイチゲやチョウノスケソウは今咲いたばかりという様子で,背の低いミヤマオダマキはもう少しで咲いてくれそうだ。

 気圧の谷が近づいているのだろうか。山が揺れるような感じがするほどの強風である。岩にしがみついて一陣の風をやり過ごし,キタダケソウにレンズを向けてカメラのシャッターを押してみる。

 稜線に出て強風にあおられながら北岳山荘に着くと,テント場にはすでに単独行の女性のものと思われるテントが張られている。山荘の中はストーブが焚かれていて嵐の中の別天地である。同室の諸氏と花談義山談義を交わしながら夕食の時間を待つ。

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