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キタダトリカブトもオヤマリンドウも
秋の花が満開の 北岳

2007/ 8/25〜27


 8月26日


北岳 (大樺沢出合)
 @

 7月の北海道日高山脈コイカクシュサツナイ岳〜カムイエクウチカウシ山の縦走を終えてからは、まとまった休みがなく、すっかり山とご無沙汰していた。日高の稜線での藪漕ぎで疲弊した筋肉も、そろそろ山に登りたがっている。8月に入り気温が38度に迫る日もあり、近郊の山に登ったのでは健康を害することから、お気に入りの北岳に登り、テント泊をして涼しい夜を過ごすこととする。

 北岳には2006年に4回、今年もキタダケソウの時期に登っている。なぜお気に入りなのか?
@ 自宅から北岳の登山口の一つ、南アルプス市芦安までの距離は約150km、調布から中央高速に乗れば3時間程度で着いてしまう。
A これほど近い場所にある山なのに、北岳は富士山に次ぐ本邦第二の高峰で、標高は3192mある。登山口の広河原(1520m)からの標高差は約1650mもあって、たっぷり歩ける。
B テント場が充実している。といって世俗化されおらず、真に山でじっくり静かにテント泊を楽しむことができる。
C そしてなにより、花の山として高山植物の種類と量が圧倒的に多く、全山が花におおわれていると言って過言でない。
D 登山口の芦安は温泉施設が豊富
であることが主な理由である。


ミヤマシシウド (大樺沢の樹林帯) A

 8月25日(土)の深夜に芦安に着いたが、第1から第5まである市営駐車場はどれも満車状態に近い。北岳及びその周辺の山には相当の登山者が入っていると思われる。車中で4時間ほど仮眠を取って、05時10分発の相乗りのタクシーで広河原へと向かう。広河原からは雲一つない北岳(@)の全貌を見ることができる。

 広河原から白根御池小屋分岐までを歩いて体調を確認すると、ザックもさほど重く感じず、体は軽い。気温は20度ほどでさほど暑くもなく、今日は楽しい山歩きができそうな感じである。この区間は、さほど花の多い場所ではない。樹林の下で朝日を浴びたミヤマシシウド(A)の花が面白い。

 
ミヤマハナシノブ (二俣手前の岩場)B

 大樺沢沿いを崩壊地まで歩くが、ここまでセンジュガンピが目に付く程度でこれと言った花はないが、左岸の大岩付近にはタカネナデシコ、ヤナギラン、ホタルブクロ、ミヤマハナシノブ(B)などの花が今は盛りと花を咲かせている。昨年は、大岩の上にタカネナデシコが咲いていたが、今年はまったく姿を見ない。今年は大樺沢が大量の雪渓に覆われていたから、その影響で流されたのではないだろうか。この先にミヤマオダマキが咲いていたが、その後は開花株は一つもなかった。


北岳バットレスと簡易トイレ(二俣)C

 二俣は御池小屋、小太郎尾根、八本歯ノコルへの分岐となっていて、登りも下りにも絶好の休憩ポイントである。そこにはバイオトイレ(C)が2基設置されている。動力はエンジンで、エンジンの低音が周囲に響いている。不快に感じるほどではない。搬送はヘリコプターでなされているものと思われる。山梨県と南アルプス市が管理運営しているとのことで、相当額の予算が使われている。

 北海道では、山のトイレを考える会が美瑛富士にトイレの設置を要望する活動を行っている。なぜ美瑛富士が設置対象場所として選ばれたのかは承知していないが、財政状況の厳しい北海道や地元自治体がおいそれと予算措置を講じるかと言えば疑問だ。豪華なトイレでなく、工事現場用の簡易トイレなどをイメージしたものであれば実現性は高いのではないだろうか。

 なお、北岳山荘には、バイオトイレ15基を収容する施設が建てられているが、「山と渓谷」9月号の記事にもあるとおり、トイレ内でテントが張れるような広さと豪華さを備えている。昨年は、このトイレの中でラーメンを作って食べている御仁を見かけている。


タカネグンナイフウロ ミヤマシシウド ミヤマハナシノブ イブキトラノオ (二股上部)D

 次々と登山者が登り下りし二俣に集う。まさに列をなしていると言う表現がぴったりだ。雪渓脇の冷たい空気に触れてしばし休憩をしてから二俣を離れ、大樺沢を八本歯ノコルへと向かう。左岸の傾斜を見上げると、ミヤマナデシコが明瞭な群落を作っているし、その先ではタカネグンナイフウロやミヤマハナシノブなど(D)が延々と咲き続いている。大樺沢には未だ雪渓が残っていて、これが理由で特にミヤマハナシノブなどがいつまでも咲いているのだろうと思う。クルマユリが1株花を付けている。今回見ることができたのはこの一株だけであった。


イワギキョウ(大樺沢)E

 まだ標高が2400mにも至らない大樺沢の雪渓脇でイワギキョウ(E)が群生している。稜線を除き、後にも先にもここでしか見かけなかった。万年雪となって残る雪渓の影響にって、ここがイワギキョウにとって生育しやすい気候となっているのだろうか。

 デブリがなくなると辛いのぼりが始まった。我慢しながらジグを切って梯子が掛けれられている分岐まで来ると沢は登山道から分かれるので、滑を伝わる水をたっぷりと汲む。過去、この沢の水から大腸菌が検出されているが、今は改善されているようだ。まして沢が登山道から離れるので、問題はなかろう。今晩のウィスキーの水割り用にする。 


八本歯ノコルから北岳分岐へ (吊尾根)F

 岩手から来たという登山者集団が梯子で渋滞の原因を作っている。下山者が不満そうにしている。集団に追いついた。リーダーが追い抜いてくれと言うが、自分ももうバテバテで、尻をゆっくり着いて行くからという。八本歯のコルまでもうそう遠くはないが、広河原の出合から八本歯ノコルまでの標高差だけでも1500mほどあるし、まして足場の悪い梯子が連続するところで集団を追い抜くエネルギーはもう、ない。

 この集団は10人を超えているが、リーダーの統率がよく、こまめに休憩をとっては淡々と歩いているので、結果的にはまずまずのスピードで登っている。地元の登山者から「わざわざ酷暑の北岳に来たもんだ。」と揶揄されていたが、みんな元気にがんばっている。


タカネビランジ (八本歯のコル)G

 辛い梯子を終えると、すぐそこは八本歯ノコルだが、その梯子の先にタカネビランジが咲いている。もうこの時期に、花を見ることはできないだろうとあきらめていただけに、その花を見たときは驚いた。稜線に出て池山吊尾根方向に行ってみると、タカネビランジがまだまだ見られる姿で岩場に取り付いている。(G

 大樺沢から登ってくる登山者(F)はほとんど吊尾根方向には進まない。だからなのだろうが、登山道のすぐ脇で「大」がされている。「出物腫れ物ところ構わず」で仕方ないとしよう。しかし、ティッシュは持ち帰ったらどうか。雨でも溶けないし、周りのキタダケトリカブトやミヤマナデシコ、ミネウスユキソウなどの可憐な花に失礼ではないか。

 この後に、キタダケソウを見に来た際に感動した吊尾根分岐の岩場の花の状態を確かめようとしたとき、花があった岩場のすぐ下の細い足場にウンコとティッシュが放置されていたが、山に入る人には、テッシュの持ち帰りは最低のマナー、常識として自重をお願いしたい。


タカネナデシコ (南東斜面)H

 今回の登山のハイライトは南東斜面に咲く秋の花である。トラバース分岐から南東斜面に入ると、タカネナデシコ(H)やキタダケトリカブト(I)がちょうど咲いたばかりというように、今が盛りの状態で斜面を彩っている。北海道に咲くトリカブト(エゾトリカブトやヒダカトリカブトなど)は、高さ100cmを超えるものも多いが、北岳南東斜面のキタダケトリカブトで特にガレ場にあるものは、高さ10cmに満たないものもある。


キタダケトリカブト (南東斜面のお花畑)I

 南東斜面(J)をさらに進んでも花の種類と量は変わらない。長居しているうちにガスがかかってきてしまい(K)、岩場に掛けられた梯子を渡るのが躊躇される。今回は北岳山荘に用はないし、既に午後1時になっている。北岳頂上への急登のことも考えて、吊尾根分岐に直接出ることにする。


 南東斜面のトラバース (北岳山荘方面から)J

 吊尾根分岐に着いたものの、足が重い。両俣の谷からガスが吹き上げてきていて、風に吹かれるととても心地がいい。ザックを降ろし岩場に腰掛けて、しばらくうとうととまどろむ。こんなときが山を登っているときの幸せな時間の一つなのだ。一人歩きでなければ味わうことはできない。


南東斜面のトラバース (八本歯のコル方面から)K

 北岳頂上の手前で、男性が「今行くと頂上は独占できるよ。」話しかけてくる。普段は間近に見える千丈岳や甲斐駒ヶ岳もはっきりとは姿を見せない。頂上のベンチで休んでいると年配の単独の男性が同じベンチに腰掛けるので挨拶する。

 御歳は70歳で、奈良田に車を置いて、白峰三山を縦走するとのことで、今日は広河原に6時40分に着くバスで来たという。「今日はすっかりバテてしまいました。何度も休んでやっと今着くことができました。もう年ですから、もう登山は無理かもしれません。8月に入ってから雲取山、両神山、笠ヶ岳〜樅沢岳、ロープーウェイを使って西穂高岳に登ったのですが、今回この有様ですからね。」と言う。

 あの〜、私は今日5時50分到着のバスで来て、6時10分に出発し、今やっとバテバテで頂上に着いたんですけれど・・・・。なに〜ぃ、大門沢を下るだと〜。恐れ入りました。


肩ノ小屋テント場 L

 12時間近くを要してやっとお気に入りの肩ノ小屋のテント場に着いた。学生風の集団が大きなテントを2つ張り(L)、その周辺に屯して大声でいつまでもうるさいので、離れてテントを張ることにする。そこは狭く傾斜もあるが、届く話し声も我慢できる程度になって落ち着くことができる。

 いつものように缶ビールを開けて一気に喉を潤し、アルファ米を食べているうちに眠気を催し、シュラフに潜り込むと、まだ6時にもなっていないのに爆睡し、翌朝目が覚めてテントを出ると、既に太陽が顔を出していた。


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