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仙塩尾根テント泊縦走(塩見岳を目指すが・・・)
仙丈岳〜熊ノ平小屋〜間ノ岳〜北岳
(2010/ 9/20〜22)


 9月21日(2日目) 

高望池〜三峰岳〜熊ノ平小屋

 雨だれが時おりテントに落ちるが、それは木の枝に付いたガスが風に吹かれ水滴となって落ちるものであった。高望池周辺はガスがかかっている。昨日の疲れが残っているし、今日は熊ノ平小屋までだからと高を括ってゆっくり出発することにした。出発する前に、次の縦走の際の参考にと、高望池の水場を見ることとした。下り2分弱、登り3分弱という距離に水場があり、水はしっかり流れていた。ただ、ビバークポイント(テント場)が真上にあり排泄物のことを考えると、そのまま飲んでいいものかとの疑問も?2口飲んでみた。

 
高望池


高望池直下の水場 (画像劣悪ながら水が出ていたことを確認するため貼り付け)

 高望池からすぐ樹林帯の緩やかな登りに入る。程なく単独の若い女性が下りてくる。三伏峠から塩見岳に登り、昨晩は両俣小屋テント泊とのこと。無駄のなさそうな出で立ちからは過去に山岳部に在籍していたようなご様子である。明日の希望的計画を話すと、「日帰り往復はきつそうですね。」と心配される。確かに!

 2499m独標までは淡々と来た。横川岳で大きく左に折れて野呂川越に下る。野呂川越から両俣小屋に下る道はしっかりしているが、三峰岳(みぶだけ)に登る道はそれと比較すると踏み跡が薄く、道がぐ〜んと細くなる。2367mからはもっぱら登り一辺倒となる。喘ぎながら登り一息ついていると、外人さんが登ってくる。


横川岳(2478m)

 その男性は、日本語が上手なオーストラリア出身の人だった。MSRのテント、ハバハバ(hubba hubba)2人用ををザックに括りつけている。「私の憧れ、いいテントを使っていますね。」と言うと、居住性が気に入っているが重いという。ザックに中に納まらないようではね・・・。でも今はアライのテントがほしいとか。(この夜、この人が北岳で強風によってテントを飛ばされてしまったことを後で知ることとなる。)彼は、熊との遭遇を非常に恐れていた。日高での熊との遭遇体験を話すと恐れは最高潮に達したようだ。そういえば、オーストラリアに蛇はいても熊はいないと、のちに熊ノ平で会うこととなったカナダ人に、この男性が話していたのだった。


三峰岳手前の尖がり 奥に間ノ岳

 外人さんとすっかり話し込んでしまった。今日は天候も変わるから北岳まで歩きテントを張るという。「先に行って下さいね。」と休憩を続ける。外人さんの熊鈴が、樹林帯をチリ〜ン、チリ〜ンとこだまする。あまりにものんびりしていたので、計画の時間を大幅に遅れている。間ノ岳に登って北岳まで行ってしまおうか、大いに悩む。三峰岳からは近い距離にあると思った熊ノ平小屋までは、実際には地図上でも1時間30分の距離にある。北岳まで行ってしまえば明日は楽なんだがなぁ〜。

 森林限界に出ると、北海道の山岳と同じ風景が広がる。何のために仙塩尾根を選んだのか。それは天候の状況によって塩見岳には行かれなくても、熊ノ平小屋でテントを張るのが目的の一つであったのではないか。ここで楽をしてはいけない。今日の目的地は熊ノ平であると気持ちを再確認する。さあてと、標高2999mの三峰岳までしっかり登るとするか・・・。


三峰岳南面

 極端に背丈の低いハイマツ、岩稜、深い谷まで落ち込む斜面は、日高の山を彷彿とさせる。三峰岳手前のピークから派生する尾根を越えてようやく三峰岳直下、間ノ岳分岐に出る。外人さんは間ノ岳までの中間に達している。三峰岳に登って南面を下る。累々と岩場が続く。地図からは間ノ岳の添え物のようにしか見ることができなかった三峰岳は、振り向くととんでもないいい山だった。この斜面を一人下りて来る。


三峰岳南面から三国平

 三国平でゴアテックスのレインウェアーを拾う。明日から天気が下り気味となるのに、持ち主が縦走中だったら大変だ。この時間、間ノ岳へ向かったのは外人さん一人で、間ノ岳から下ってくる人の影は一つだ。熊ノ平に向かった人の物との可能性が大なので持って歩く。三国平(2761m)から熊ノ平小屋(2500m)までの下りを甘く見ていた。崩壊著しい井川越は開けている場所なので携帯電話のアンテナを確認する。アンテナは3本立つのでメールを入れる。井川越からすぐ、憧れの熊ノ平小屋のテント場に着いた。


三国平手前から農鳥小屋へのトラバース道

 小屋でテント場代を払い、缶ビールを仕入れる。まだ小屋に宿泊する人がいないので、結局レインウェアーの持ち主は分からずじまいで、ご主人は「天気が悪くなるから可哀想だな。」といいつつも、「今度はもっといいものを拾ってきてや。」という。

 テント場は数か所に分かれている。湧き水が何か所も出ている。西農鳥岳が真正面にある。テント場は稜線からしばらく下がったところにあって、かつ、背後が鬱蒼とした木々に覆われているので、折からの長野県側からの風を塞いでくれていて、この上ない環境である。テントを設営し終えるころ、間ノ岳から下りてくるのが見えていた人がやってくる。この人も外人さんで、とりあえず日本語能力試験を試みる。「こんにちは。」とあいさつすると「こ・ん に・ち・は。」とあいさつが返ってくる。こりゃだめだ。


憧れの熊ノ平のテント場

 彼は韓国で英語を教えている山好きなカナダ人青年である。韓国にはソラク山、チリ山、ハルラ山などの山があるが、標高が低く、登っていても満足できないという。日本は初めてで6日間の休暇を取り、北岳から塩見岳まで歩くという。地図は日本語のもの、日本語はできない。「日本の山では英語ができる人がいて大丈夫です。」とのこと。でも仙塩尾根は歩く人も少ないと思うけど・・・。そういえば、この外人さんのテント代を取り立てに来た熊ノ平小屋のご主人の英語はうまかった。

 ビールを飲んで、湧き水で冷やしたワインを飲んで、しっかり夕飯を食べて西農鳥岳の上に懸かる中秋の月を見ていると、外人さんが「明日6時に出発したい。アラームを忘れてしまったので6時に起きていなかったら声をかけてほしい。」という。塩見岳に登ったのちの交通機関に遅れては困るとのことだった。月の光だけで十分に明るいテント場で、カナダの登山の話を聞き、北海道の山の様子を教える。テントに入って携帯電話のアンテナを確認すると、ときおり圏外になるが、ここでもアンテナが立ったので再度メールを送ってみる。


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