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前穂高岳〜奥穂高岳〜大キレット〜槍ヶ岳/テント泊縦走(1日目)
2013/ 9/20〜22


奥穂高岳から下山中の姿


 9月20日 (1日目)  


岳沢からジャンダルム

 2012年8月23日〜25日、槍ヶ岳から奥穂高岳を縦走していたとき、ひょんなことからジャンダルムを経て西穂高岳まで歩き通してしまった。そのときの緊張感と達成感は、これまでに経験したことのないものだった。それと同時に、一歩誤れば死と言う大きな危険を伴うコースをたまたま無事に歩けただけという思いも常に感じていた。そうだ、もう一度あの岩稜稜線をしっかり歩こう。今度はきちっと準備をして・・・。そんなわけでヘルメットを購入し、天気が3日間続けて安定する週末を何度か待った。テントを入れたザックを背負い、岩場を歩くのに、すり減った夏山用の登山靴で濡れた岩場を歩く自信はない。この稜線からの眺めが最高な好天のときに歩くのがいい。場所は、前回横目で通り過ぎた前穂高岳を起点に槍ヶ岳までとする。(2012年のジャンダルムの記録はこちら


岳沢小屋

 沢渡大橋の駐車場に、午前3時に着く。少しの仮眠後、バスに乗り換え上高地へ移動する。早朝の上高地は、登山者の別天地。一般の観光客の姿はない。河童橋を渡り樹林帯を岳沢に向かって前穂高岳登山道を行く。バスターミナルで出発前にもたもたしていたことから、先にも後にも人の姿は見えない。登山道脇にはゴゼンタチバナの赤い実とヤマトリカブトの花が目立つだけで、紅葉も始まっていない。天気は快晴・無風。ウールのTシャツ2枚重ねは暑いが、すぐに岳沢小屋に着くし、標高も高くなることから、我慢して歩き続ける。


重太郎新道から見た焼岳(右に西穂高岳)

 岳沢小屋には、先着した登山者が少しと、前日からの宿泊者、それに小屋周辺のテント場にテントを撤収している人が見られる。いったんベンチに腰を下ろすが、ほどなくして重太郎新道に取り付く。くねくねとした急斜面を切り開いた登山道を次々と登っていく人に追い着く。休みを取るのを見て先に進み、あるいは追い付かれると道を譲り、淡々と標高を上げるが、その歩みはとろい。今夜の幕場である穂高岳山荘までの所要時間を休憩を含め9時間50分と計画した。慌てる必要もないが、ゆっくりもできない。


ロバの耳を舞う救助のヘリコプター

 上から単独の中年?初老?の男性が下りてきて、すれ違いざまに「ずいぶんと大きなザックを背負って。重いだろう。」と嘲弄した口調で言ってくる。ハーハーヒーヒー言いながら登ってくる者を見ると自分が優越的な立場に見える輩に取り合ってもしようのないことだ。そういえば、朝日小屋の清水ゆかりさんにも同じようなことを言われてしまったんだっけ。「どこを何位に出たの?」「8時間が標準なのに遅いね」「お歳はいくつ?40代」「荷物を持ち過ぎじゃないの」「これがあなたの山の実力なのよ」「装備は厳選して持たないと重くなって遭難するのよ」「死の寸前と言うことよ」と、よくも初対面の人間にここまで言えるなと言うようなことだったが、一つ大きく間違っていることは、その時は50歳の後半にさしかかっているときであったことであり、正鵠を得ていたことは75リットルのザックを背負っていたことであった。そして最近は、夏山の縦走は、数泊でも50リットルのザックで間に合うように心のゆとりもできてはいる。(山小屋も山岳遭難事故防止、救助などの重責を担っていることから、登山者への啓発・啓蒙、マナーへの助言などは当然あって然るべきである。しかし、弁えるべき言質・言動を忘れ、ややもすると自分がなにかしらの権力を握っていると勘違いするきらいがなきにしもあらずだろう。


吊尾根から見た奥穂高岳(右奥に涸沢岳 左にジャンダルム)

 そんなことを思い出しながら、長い鉄梯子にさしかかる。ここは滑落事故の多発地帯であるようだ。梯子を上っていったん手掛かりの少ない丸く円を描いた岩場を右に移動するが、下山時の事故が多いようだし、それはこの岩場の形状からも頷ける。岳沢小屋のホームページ2012年の記述に、以下のようなものがあった。

「夏山シーズンが始まって約一ヶ月、その間に岳沢周辺で8件の遭難事故が起こっています。そのうちの4件はなぜか重太郎新道の下部にあるこのハシゴ場周辺で発生しています。」「しかも皆さん、同じようにこのハシゴの上の普通の岩場部分で転んで遭難をしています。昨日のニュースの女性は運悪く120mも転落してしまい、亡くなってしまいました。」「 そして今日も同じ場所で中学生が転落しました。」「登山者の皆さんにあってはくれぐれも安全登山に留意して、登山を楽しんでいただきたいと思います。お願いだから・・・」


吊尾根から前穂高岳と北尾根

 ザックが重かろうが、歩みが遅かろうが、そのようなことは人に言われる必要のないことだが、遭難事故については常に自戒の念を持ちながら自重して歩くことは当然のこと。しかし、自分がいつどこで当事者になるか、こればかりは分からない。かもしかの立場でザックを下ろし休憩したのち、岩場を進んでいるとヘリコプターが飛来し、ジャンダルム周辺を旋回しロバの耳で何度もホバリングを繰り返している。場所的には滑落事故しかないだろうと思っていたが、前穂高岳を登って吊尾根の途中で休憩していた際、隣り合った人から、捻挫した人を救助したものだったことを聞く。彼曰く、「死亡事故でなくてよかった。縁起でもないよね。」 (2013年8月の一か月で、今回計画のルート上と西穂高岳までの間で8人が滑落死している。)


前穂高岳から奥穂高岳〜西穂高岳の眺望

 紀美子平に着くと多くの人が休んでいる。水だけを持って今回の縦走の目的の山である前穂高岳に登る。明神岳に続く岩場に踏み跡が見える。吊尾根から見る北尾根とともに一生涯足を踏み入れることのできない聖域である。ハイキングにでも来たような姿の青年が紀美子平に下りて行く。もうそろそろと続いて下りて行く途中、その青年が落石を起こした。他の登山者が大声で「ラクゥ〜」と叫ぶ。その石は割れながら吊尾根の登山道に、ガラガラと音を立てて落ちていく。今回の縦走の最終日(9月22日)に、奥穂高岳(穂高岳山荘の取付き口)で落石事故に巻き込まれ頭を割った人が出たとのことだ。(「紀美子平」の「紀美子」は、穂高岳山荘2代目今田英雄氏の妹の名から採ったもの。」 


吊尾根から奥穂高岳

 紀美子平でザックを背負い吊尾根を歩く。尾根とは言っても前半は岩場のトラバースが主体であり、緊張感ありありの場所であった。8月中の滑落事故死が吊尾根で1件発生したことも肯ける。3人の登山者と相前後しながらこのルートを歩く。うちの一人が熊鈴をリンリン、チリリーンと2種類の音を騒がしく立てている。まったくこの岩稜稜線を歩くのに相応しくない間延びのした騒音にしか聞こえない。緊張感から解放される場所に着いたとき、「奥穂高岳が見えてきましたね。人も多くなるから熊鈴はいったん外してはどうでしょうか。」とお願いした。(彼の名誉のために言うと、今回の縦走中、最高の数は熊鈴4個を鳴らし続けていた女性、次点は2個の熊鈴とそれに干渉するアルミカップをガシャガシャ言わせていた男性で、概して中高年者である。トレランに近い姿あるいはUL装備の者も鈴を鳴らして歩く者が多いが、これらは道を譲れとのサインと見た。なお、登山道にツキノワグマの自生地であると書いてあるが、そこは樹林帯であって、3000mの稜線で熊が出るとはこの歳になるまで知らなかった。)


穂高岳山荘を目前に岩場をへつり梯子に向かう登山者

 熊鈴の鳴らなくなった静かな吊尾根を奥穂高岳への最後の登りをがんばる。奥穂高岳の南東斜面でクライミングを楽しんでいると思われる人の声が聞こえる。人の姿は見えないが、岩壁にキバナシャクナゲと思われる黄色い花がところどころに群生している。この時期に信じられない光景だ。そこを重いザックを背負って淡々と、淡々と岩場を登って行く。かもしかの立場で、紀美子平で、吊尾根の途中で長居して休憩している人を横目に歩いた結果、(その範囲内で)先頭を切って奥穂高岳山頂に着く。山頂の表示板には多くの人が座って動くことがない。まぁ。休憩はいいか。早くテントを張ろう、と頂上を通過する。


今宵のねぐら(手前から2番目)

 ここからも事故多発地帯である。昨年、幕営した際に聞いたのは、知人が梯子から落ちた人の巻き添えを食って死亡したということだった。もうすぐ小屋だというところの岩場のトラバースと梯子の面倒なところで、グル―プが団子になって先行している。その岩場から見える穂高岳山荘のテント場には、まだ空きがある。特等席に場所を得た。ザックを下ろしてプラティパスを見ると、約1.5リットル持ってきた水がほとんど残っていなかった。(このほかにポカリスェットが250cc)
 今夜の夕飯は小屋食。指定の時間までテント内で、待ちに待った一人宴会である。このためにもザックは重くなった。あっと言う間に酔いが回って、気分よく入眠する。指定の時刻の少し前に目覚め、食事のために小屋の食堂に行く。小屋食は3回分けての2番目であったが、前に座った男性との話しが弾み少し長いすることとなった。


行程・タイム)

1日目 (9/20)   2日目(9/21)    3日目(9/22)
 着  場所   発  着  場所  発  着   場所   発 
   上高地    0650    穂高岳山荘     0635    殺生jヒュッテ  0345
 0745  風穴  0750  0655  涸沢岳  0655  0415  槍ヶ岳  0530
 0905  岳沢小屋  0910  0840  南稜分岐  0840  0640  殺生ヒュッテ  0800
 1000  カモシカの立場  1005  0850  北穂高岳山荘  0900  0905  天狗原分岐  0905
 1135  紀美子平  1140  1040  飛騨泣  1040  1030  槍沢ロッジ  1030
 1205  前穂高岳  1215  1150  南岳小屋  1230  1150  横尾山荘  1215
 1240  紀美子平  1145  1250  天狗平分岐  1250  1305  徳澤園  1315
 1420  奥穂高岳  1420  1335  中岳  1335  1400  明神  1410
 1500  穂高岳山荘    1410  大喰岳  1410  1450  上高地BT  
       1425  飛騨乗越  1425      
       1435  槍ヶ岳山荘  1450      
      1515  殺生ヒュッテ        
 総行動時間  08:10    総行動時間  08:50    総行動時間  11:05
 うち休憩時間  00:35    うち休憩時間  01:05    うち休憩時間  03:10

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