[HOME] [本州の山]


厳冬期の本沢温泉テント泊(稲子湯から夏沢峠まで)
2009/ 2/26〜27



夏沢温泉テント場からの硫黄岳

 2009/2/26(1日目)
 未明の中央高速を山梨に向かって乗ったはずなのに、だんだんとビル群が近づいてくる。調布ICで無意識のうちに首都高速に入ってしまったようだ。やはり山ですっきりさわやかに汗を流さなくてはならないと、甲州街道から再び中央高速に乗った。しかし、このところの体の疲れは隠しようもなく、サービスエリアで心ゆくまで仮眠を取ったせいで、松原湖を通り過ぎたのはもう9時を過ぎてしまっていた。
 稲子湯に向かう山道は傾斜のきつさもさることながら、路面がすっかりアイスバーン化していることから、スタッドレスタイヤを空転させながらようやく林道ゲート前に着いた。 

 空はどんより曇ってはいるが、今日の天気予報では降雪はない。完全にアイスバーン化した登山道を、アイゼンの歯を効かせて登っていくが、ここ1か月の間、「慶事の前に事故でもあったらどうするの?」との釘がグサッと刺さっていたことによる運動不足によって足腰に来る。さらに片手で背中に回せた30kgのザックも、今日は両手でないとダメだ。こまどり沢の大樹の下にザックを置いて一休止する。


しらびそ小屋

 急登をしのぐとしらびそ小屋に出た。鎖につながれた犬が吠えて、小屋の主人が出てくる。「登山道が凍っているから気を付けて下さい。」との声に送られて、ミドリ池脇を抜ける。樹林帯はスノーシューで道がしっかり付けられていて歩き易い。本沢温泉へと続く尾根に乗るため、山の斜面を巻いて本沢入口からの合流点に出る。本沢入口から登ってくる道も踏まれているが、圧倒的に稲子湯からの道の方がしっかりと踏まれている。

 本沢温泉キャンプ場にテントを張ってから、本沢温泉でテント場使用料と入浴料を支払う。本沢温泉の冬場の入浴は外湯の「石楠花の湯」だけで、混浴の時間、男女別の時間が決められている。もう午後も2時になっているのだからどの時間に入ってもいいのだろうと聞いてみたら「日帰りの人がまだ来るかもしれないのでダメだ。」と言う。
 今日は時間的に硫黄岳は無理だろうが、行けるところまで行ってみるつもりで夏沢峠に向けて樹林帯に入る。相変わらずしっかりとした踏み跡がある。平日のこの時間(の女性の入浴タイム)に温泉に来る人はいないだろうな。ずいぶんと堅苦しい小屋番だったななどと考えて登っていると、誰かが道をあけて待ってくれている。


夏沢峠

 その人は大きなザックを背負った中年の男性で、「渋の湯から黒百合平に入ってテントを張り、天狗岳から夏沢峠を越えて来た。硫黄岳に行こうと思ったが、ガスっていて見通しも利かず風も強いので止めた。登山道に踏み跡は多くなかった。本沢温泉にテントを張っての温泉が楽しみ。」とのことだった。同じようなスタイルで山を歩く人もいるものだ、元気だなと思いながら別れる。

 夏沢峠に出ると強い風と曇った空に迎えられた。硫黄岳方向にはまったく踏み跡がない。朝の出だしでつまづいたので時間もないし、夏沢峠まで来ただけでも十分と、もと来た道を引き返す。次の目的は「石楠花の湯」に早く入ること。深い雪が積もった急斜面を露天風呂に下り、湯温を確める。湯温はぬるいもののそこそこあって、長湯にはもってこいのようだ。


雲上の露天風呂

 石楠花の湯には2つの湯船があって、手前が少し湯温が高く、奥が少し低くなっている。熱い方の湯船に入ると冷えきった体がビリビリするが、これが幸福の瞬間でもある。茶色の温泉は体の芯まで温めてくれる。湯船から出て体を冷まし、また湯船に入る。あっと言う間に1時間が経ってしまった。外は暗い。ビールを飲んでまったりしようと、すっかり暗くなった雪道をテント場へと歩く。空には輝く星たち・・・・。

 冬の八ヶ岳、本沢温泉のテント場の外気温はマイナス何度までいくのだろうか。スリーシーズン用のテントで厳寒の夜を快適に過ごすにはどうしたらよいかと考えているうちに、「湯たんぽ」を使うことを思いついた。ただ、通常の湯たんぽを登山で使うのは大きすぎるから、エバーニューのポリタンにしようと探したが0.5リットルの容量のものはどこにもなかった。神田の「さかいや」で仕入れてくれるというので日にちを置いて行ったのにもかかわらず、約束は守られていなかった。


石楠花の湯

 今回の山は持っているジッポーのカイロを使うしかないかと思っていたが、「無印良品」で山で使うのにうってつけな小さな湯たんぽ(477ml)そのものが売られていた。ポリタンより厚みがずうっとある。飲料水の入れ物と思えば邪魔にもならないちょうどいい大きさだ。お酒タイムの前に湯たんぽの用意をし、いつでも寝られる体制で夕食を摂る。湯たんぽ用のお湯や夕食の準備などにガスの火を点け放しにしていたところ、喚起口としていたテント入口側のフライシートは結露に見舞われていたが、テント地そのものには結露は発生しなかった。まだ午後7時だが、ほどよい疲れが眠気を誘う。湯たんぽで温かくなったシュラフに潜り込む。



お母さんが呼んでるからもう行くね!

 2009/2/27(2日目)

 いつ寝たのかも分からないほどの即死状態で眠りに就いたようだ。足元が寒く目が覚めた。まだ午前2時30分である。カスケードデザインの3/4サイズのエアーマットなので足元の湯たんぽが直接雪面の冷気を拾ったようだ。湯たんぽを包んだオーバーズボンはすっかり冷え切っている。外気温はマイナス6℃ほどで、テントの中の水は凍っておらず、バナナが凍傷に掛かったぐらいで済んだ。
 もう一度眠りに就いて起きてみると4時になっているが、当然のことながら外はまだ真っ黒。テントのフライシートには雪が落ちている。思い切ってテントを抜け出し、石楠花の湯に行く。瞬く間に1時間近く経って、夜が明けてくる。 


しっかり踏まれている

 隣のテントの主はまだ目覚めていない様子だが、テントの張り綱用のアンカーとした買い物用のビニール袋にかぶせた雪が凍ってしまっていて、シャベルで氷化した雪を、大きな音を立てて割りビニール袋を回収する。テントの中からザックを外に(放り投げ)出す際、ザック背面に着けてあったフックがテント地に刺さり生地を裂いてしまった。後悔しても遅い!。

 雪の中を黙々と下山する。登り返しで地面だけ見ていて、ふと顔を上げると目と鼻の先にカモシカの子供がいる。びっくりはしたが、向かってくるような感じでもなかったので、デジカメに収める。カモシカの子はいつまでもそこを去ろうともせず、友好的な時間が流れる。遠くにいるお母さん?そのお母さんカモシカが鳴くとしぶしぶ?遠ざかっていった。

 早朝のしらびそ小屋の煙突から紫色の煙が出ている。犬の鳴き声がすると、ご主人が、「滑ると思って坂に灰を撒いておきました。気を付けてお帰り下さい。」と朝の挨拶に出てきてくれる。硫黄岳を臨むことができる池の傍の趣のある小屋の佇まい。もう重いザックを担げなくなったときの山との付き合いは、このような山小屋に泊まることを目的として少しの時間歩くのがいいのだろうなと思う。そんなことを考えながら進んでいくと、樹林帯を登ってくる人を見かける。

 「お早うございます。どこまで行かれるのですか。」
 「もう年だから、しらびそ小屋までです。夕べは稲子湯に泊まって、しらびそ小屋で3泊するつもりです。野鳥の  撮影でもしながらゆっくり過ごす予定なんです。」

 その人は、もう70歳は超えているだろうと思われる男性だった。自分が歩きながら考えていたような将来の山歩きを実践している人が実際にここにいる。しらびそ小屋の優しそうなご主人の作るご飯を食べながら3泊ものんびりできる人生もいいものだな、そうありたいなと思う。
 ゲートに停めた車には雪が降りかかっている。恐れたアイスバーンの下り道で試しにブレーキを何度か掛けてみると結構制動が効くようだ。清里と笹子トンネルを抜けた大月で結構な雪に見舞われた。

[HOME]