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初冬の二ペソツ山
(2011/10/ 5)


この姿を見たかった!


 10月5日 

 2011年10月2日から5日までを予定したカムイエクウチカウシ山からコイカクシュサツナイ岳の縦走は、おりからの寒冷前線の影響で山は荒れ、まったく手が付けられずに八ノ沢カールで幕営しただけで下山し、3日目の朝は中札内ヒュッテで過ごすことになってしまった。しかし、このままでは北海道まで来た甲斐がないので、東大雪の「秀峰」二ペソツ山(2013m)に登ることにした。ところが、二ペソツ山はカムイエクウチカウシ山(1980m)より標高が高い上、2日に北海道を通過した寒冷前線の影響をさらに大きく受けていると思われ、カムイエクウチカウシ山と同様に難儀が予想された。その上、日帰りとなることから所要時間も長い。 


小天狗からの前天狗

 そこで、上士幌町糠平 糠平温泉文化ホール内の「NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンター」に電話をして、二ペソツ山へ通じる林道の状況と積雪状況を尋ねた。係の方からは「音更川本流林道から十六ノ沢林道終点までの通行に支障はないこと。」「降雪の前にニペソツ山に登ったが、登山道に異状はないこと。」「麓から見るニペソツ山は真っ白であること。」「状況に応じて前天狗までとし、そこからニペソツ山を見て戻ってきてはどうか。」とのアドバイスをいただいた。そうなんだ、前天狗でドッカ〜ンと現れるニペソツ山を眺めるだけでも万金の値がある。まるで、エサオマンベツ岳から縦走して見ることができるカムイエクウチカウシ山のように、熊ノ平らから縦走して見る塩見岳のように・・・・・。


石狩連峰

 5日は平日、水曜日。雪が降ったばかりの平日の山を登る酔狂な人はいないだろう思っていた。ということは夏山で登り4時間40分、下り3時間20分の合計8時間が予定されているコースを、一人、雪を踏み踏み行くとするとさらに所要時間は伸びるので、日帰りでは相当早く杉沢コースの登山口を出発しなければならない。夜明け前にでも出発したかったが、大雪の麓までのアプローチは長過ぎた。誰もいない登山口を出発したのは、もう午前6時30分となっていた。

 前回ニペソツ山に登った時も感じたのだが、ニペソツ山自体は比類のない素晴らしい山ではあるものの、特に登山口から小天狗までと天狗のコルから樹林帯までは情緒のない無味乾燥な登山道(あくまでも私見。)なので、この間は我慢して歩くしかない。唯一小天狗下の岩場がアクセントかなと思う程度で、この小天狗の岩場を通ると前天狗がド〜ンと姿を現すが、ここではニペソツ山はまだお預けだ。その前天狗の全景をカメラに収めて出発しようとすると、後方に人の気配を感じる。若い女性が一人たたずんでいたのだが、私が立ち止ったためにその距離を保持しようとしていたように思われたので、先に進む。(その時は、まだこの女性の魂胆は知らなかった。)


前天狗前の岩塊

 天狗のコルは、テント場として使われている。水場はないが、前回夏に登った時のように、今回も上の登山道からの水流があったから、非常時には煮沸するなどして利用できないこともない。テント場自体は無理して3張り、少し先に進んだところに1張りが可能といったところだ。すっかりえぐられた登山道を進むとミヤマハンノキのトンネルが続く。トンネルの先は岩れきになってハイマツ帯の登りとなるが、ここからは石狩岳や音更山などのすばらしい展望が開ける。なお、今回は大雪山方面は雲に覆われていて展望を得られなかった。

 さて、前天狗までは雪が吹き付けられた岩場の好印象の登りだ。降雪後前日までに2人が登った記録が登山ポストにあり、2人分の往復の足跡が確認されていた。そのうちの一人は「ニペソツ山往復」「下山時刻16:00」と書いていたので、その足跡を追って前天狗へと向かう。風は強いものの前天狗からの大迫力のニペソツ山見たさに足は快調である。累々とした岩塊を見ながら前天狗に出ると・・・・。もう言葉もない。大迫力のニペソツ山、その全容を現す。


言葉いらず

 天気予報は晴れだが、上空を雲が速いスピードでどんどんと流れていく。ハイマツ帯はダイレクトに風が吹き付けるので、寒さ対策のためザックを下ろすと、先ほどの女性が私に追い付く。「寒いですね。」と当たり障りのないあいさつをする。この人は「もう一人登ってくるんです。」と言うが、その後いつまで経っても来なかったので、そんな言い方もあるのかなと感じていたところ、その連れの人はとんでもない人だということが後で分かったのだった。  

 
ここは大キレットか?

 前天狗にある携帯トイレ用ブースで西からの強い風を除けながらにニペソツ山をカメラに収め、甘い物を食べてから出発する。前天狗からいったん下って天狗平に向かう。ここからの足跡は一人分しかない。その足跡が天狗平の手前でトラバースせず天狗平に向かってジグを切っている。おかしいな、まっすぐ巻いて行くのが正しいのではないかと思いながらも少しその足跡を追うと、どうもニペソツ山をあきらめたような感じに受け取れたので戻って、そこからは自分で雪を踏みしめながら先に進む。天狗平から大下りし、さらに細かいアップダウンを繰り返すが、吹き溜まりに足を取られるようになる。  


ズボッと行くと股下まで

 先ほどの女性は、このロートルが一足置くのに何度も雪を踏みしめてるという過酷な動作を繰り返しているというのに一定の間隔を置いてまったく距離を縮めない。その時は何も考えなかったが、よくよく考えるとこれって「ラッセル○棒」って言うんではないだろうか。下山時の足跡を見ると、すべからく私の足跡にその人の足跡が重なっている。さぞかし楽ちんだっただろうね。ちなみにネットで調べてみるとこんな記述があった。
 (ラッセルをするパーティというのは、当然進行が遅々として進みませんが、後ろからくるパーティというのは当然トレースがついているわけですから速いわけです。で、先行するパーティに追いついたら、ラッセルを交代しながら進むのが山の掟なわけです。それを、追いつきながらつかず離れずを通して、前のパーティのつけ たトレースを後ろからついていくだけのパーティをして、ラッセル○棒、といいます。まあ、泥棒されたと騒ぐほうも騒ぐほうですけど、ラッセルもまた雪山の楽しみゆえ、ただ単に後ろをついていくのはどうかと思い ますけどね。


真冬の世界

 どうにかこうにかニペソツ山の頂上が近づき、稜線を東側から西側に出ると猛烈な風が吹き付けている。その光景はまるで真冬のものだった。ようやく憧れのニペソツ山の頂上に立ち、360度の大展望をほしいままにする。カムイエクウチカウシ山では早々に退散したのだったが、風に逆らいながらゆっくりする。そのうちに女性も登ってきたので、頂上を明け渡す。下山は時間との勝負である。休憩することなくさっさと歩けば3時間程度で下りれるだろうと、黙々と歩く。そういえば前天狗で月餅を一つ食べただけであとは水以外何も口にいない。天狗平の登りで筋子入りのおにぎり一つ、小天狗からの下りで焼きたらこ入りのお握りを歩きながら食べてエネルギー源とする。

 
頂上から振り返ると石狩連峰

 前天狗へ向け下って行くとハイマツ帯で突然男性と出会う。半袖のTシャツに短パン、それにトレランシューズ履きだ。もう午後1時になろうとする時間である。聞くと「ニペソツ山の頂上に行く。」とうことだった。このような青年が健在なうちは日本社会はまだまだ大丈夫だ。前天狗を見ると人がいる。この人は年配の男性で、前天狗からのニペソツ山を見たくてここまで来たとのことだった。その後はただただ黙々と下山する。特に記録すべきこともないが、あと一歩で登山口というところで、あの半袖Tシャツ姿の男性が音も立てず声も発せず、私をひらりとかわして追い抜いて行ったのにはびっくりした。「一言声を掛けろよ!びっくりするな〜ぁ。」と内心思ったが、私が思わず掛けた声は「早いね〜。」だった。そしてあの女性も私が車のドアを開けると同時に下山してきたので、2人と少し山の話をしましたが、話をしてみると爽やかな青年たちだった。


二ペソツ山

 前回ニペソツ山に登ったのは花の時期だった。そのときの所要時間は7時間20分で、今回は9時間。やはり1人(ミニ)ラッセルは、きつかった。前回の記録は→こちらへ。


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