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北の花の山 大平山 (2013)
(2013/ 6/15)


810mから1109mを仰ぐ


 5月31日(金) 


ミヤマオダマキ

 大平山(おびらやま)は、標高1190.7mの山である。林道を島牧村の海岸から林道を走り河鹿トンネルを抜けると、そこで林道は行き止まりとなる。しかし、2013年6月、河鹿トンネルの出口に巨岩が落ちていることが分かり、このトンネルの手前の橋で通行が止められている。前夜の島牧の海岸での車中泊中は間断なく雨が落ちていたが、夜明けとともに小康状態となったので、林道に車を進めた。2012年はナガセ橋のたもとの基盤が露出し通行止めされていたが、その工事自体は終了したものの、落石による通行止の措置がナガセ橋で行われていた。


狩場山が顔を見せる

 ナガセ橋手前に車を置き、自転車で河鹿トンネルに入る。全長1.2kmのトンネル内は真っ暗闇で、路側にわずかに視認できる白線を頼りに進む。出口が見え牛やヒグマのような形の物が片側車線をふさいでいるが、それが巨岩であった。さらにもう一つの橋まで進んで自転車を置き、標高150mの位置にある登山口から大平山を目指す。登山口に置かれている入林届の箱はブルーシートに覆われている。


エゾノセンテイカ

 いくら2013年の北海道の春の気候が不順であっても、もう花の山は多くの人でにぎわっているだろうと登山道を進むが、誰の足跡もなく、あちこちに手の加えられていない倒木が道を塞いでいるし、残雪にも踏み跡は見られない。おかげで、登山道の真ん中にたくさんのカタクリが踏まれずにあって花を咲かせ、結実させている。シラネアオイは終わりを見せているがミヤマエンレイソウ、ニリンソウなど多くの花が咲き誇っている。広葉樹の林床にはコケンランが咲いたばかりであった。


エゾノハクサンイチゲ

 沢形地形から尾根を乗っ越すと色鮮やかな紅い色をしたウコンウツギ、ニッコウキスゲ、エゾグンナイフウロフウロ、ミヤマキンバイソウなどが草原の中に群れている。1109mを仰ぎ見る810mで一息入れる。いつも1輪咲いているスカシユリが今年は見当たらない。笹薮を分けて1109mに向け進むと、シラネアオイ、ハクサンチドリ、エゾグンナイフウロ、ミヤマキンバイソウが盛期で、ここはあの崕山かと思うような光景となる。 


ミヤマアズマギク

 さらに歩みを進めると、石灰岩が露出した1109mの中腹となり、ミヤマオダマキ、ミヤマアズマギク、オオヒラタンポポ、チシマキンレイカ、エゾノハクサンイチゲ、ミヤマハンショウズルなどのオンパレードとなる。ミヤマアズマギクが少し花期を過ぎているものの、そのほかの花はまさに最盛期である。


エゾノグンナイフウロ

 1109mの東斜面に取り付けられた登山道付近の草原状お花畑は、土砂が崩れ落ちている。それも2006年に絶滅したと言われているホテイアツモリソウがあったその場所であった。ホテイアツモリソウがあった2か所を狙い撃ちにしたようなピンポイントの土砂崩れにショックを受け、呆然としてしまった。北海道の植物写真家で、北の山の花を愛する人で知らない人はいないと思われる梅俊(梅沢俊)さんは、北の花名山ガイド(2012/5)という本の中で「大平山のホテイアツモリソウは、盗掘により2006年に絶滅した。」と書いていて、世間的にもそのように認知されていた。しかし、実は盗掘者の取りこぼしが2株あって、今回その2株に逢いにふたたび来たのだった。(※これで大平山のホテイアツモリソウは完全に絶滅した。花のマナーに厳しい梅俊さんも逡巡しながら前著で大平山のホテイアツモリソウについて言及している。これから特別の目的を持って大平山に入る人も、これ以外の花を愛でるしかないだろう。)


ミヤマキンポウゲ

 多くの花々に見送られて大平山を下る。この美しい山も、山をかじったと自負する登山者がよくするようにおびただしい数のピンク色のテープが木々に枝に巻き付けられている。美しい山、美しい花々、美しい景色・・・、これらの眺めを阻害する必要性のないテープ。この山のホテイアツモリソウが無くなってかえってよかったのかもしれない。そのほかの花々が登山者の目に輝きを増すだろう。


下山後、林道から海岸へ抜ける途中にある宮内温泉(ぐうないおんせん)で汗を流した。混じりっ気のないお湯で、湯冷めのしない飛びっきりの温泉である。雨と汗でびしょびしょになった体を温め、疲れを癒し、壮快な気分となって次の山へのロングドライブに備える。


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