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遥かなりしペテガリ岳 東尾根コース

2003/10/11〜12


                       ペテガリ岳東尾根コースへの林道の状況について(2013/ 1/ 7現在)
 ポンヤオロマップ岳及びペテガリ岳への登山口へのアプローチとなる歴舟川林道は、決壊により通行止めとなっています。通行止めの場所は、
歴舟川本流林道交点から1.2km入ったところで、そこから登山口のペテガリ橋までの8kmについては、歩行者の徒歩による通行は可能です。
 林道を管轄する十勝西部森林管理署においては、2013年6月以降に補修を予定しており、「7月には車両の通行が可能になるよう」工事を進
める計画中ですが、2013年の積雪の状況あるいは融雪災害などの新たな事象の発生によっては通行の再開が遅れることもあるとしており、6
月下旬になれば見通しが分かるので、問い合わせてほしいとのことです。
                             (問い合わせ先:北海道森林管理局 十勝西部森林管理署 電話番号(0155)24−6118)


ペテガリ岳の頂上から国境稜線を見る


 (1日目) 2003/10/11 

 北海道の山に登る機会を得るようになった。いつかは挑戦してみたい日高の山々ではあるが,体力,自分の知識・経験からして、日高の核心部はおろかその他の山々であっても,現実的には今しばらくは,はるか遠くから仰ぎ見るだけの存在である日高の南端に位置するピンネシリに登った。端正な山容の楽古岳,そして,楽古岳に続く北の山々がパノラマとなって見える。いつかは登ることもあろう日高の核心部の山が連綿と連なっている。

日高の地図をみるたびに,日高の本や写真集を見るたびにピンネシリの頂上で飽きるまで見た日高の山への思いが募る。くしくも10月の3連休の天気予報は,安定した気圧配置を示している。中年の単身赴任という立場で、いつまでも北海道で自由に山に登れことができる生活を送られるとの時間的な約束はない。決心する必要がある。


まだ東尾根の真実を知らない

ここ数年,日高側からペテガリ岳へ登る登山口までのアプローチとなる道々静内中札内線は,崩落が激しく通行止めとなっている。そのようなこともあって,ペテガリ岳へのコースを十勝側からの東尾根コースをたどる計画を進めた。

ペテガリ岳登山の計画を進める上で,東尾根コースの情報を見てもそれほど多くないが,内容が充実しかつ旺盛に日高山脈に足を踏み入れている「秘境日高三股へようこそ」の「たかやなぎ」さんにあつかましくもメールを差し上げて状況を直接尋ねた。これに対し,たかやなぎさんからは非常に好意あふれるアドバイスをいただいたが,日高の未経験者が初めて単独で入山する上で,大いに参考になり,また心理上も非常に助かった。


程なくして登山道は酷い熊笹に覆われる

このコースはとてつもないロングコースであり,途中に水場もない。コースタイムは,北海道夏山ガイドでは登り11時間30分,下り8時間50分の合わせて20時間20分となっている。単純な標高差は,ポンヤオロマップ岳までの1000mとポンヤからペテガリまでの300mほどとなる。しかし,この間に大小のコブが17か所ほどもあり,これを越えることとなると,獲得標高は単純に計算できない。極めて難しいコースである。

 東尾根コースの登山記録をあれこれ参照すると,きちんとした準備を整えて臨めば,単独行でもやってやれないことはないとみる。何のゆかりも面識もない管理人さんから心温まるアドバイスも受けて,万全の準備を整え,ペテガリ岳東尾根縦走コース登山口へと車を走らせた。日勝道路を経て道道清水大樹線に入り,大樹町拓進から歴舟川に沿って林道を進む。途中,ポンヤオロマップ川との合流にある登山口への案内板にしたがって,暦舟川を離れて進む。
(ゲートの閉鎖情報:大樹町森林管理センター 01558−6-2171 Fax01558-6-4407)(トップの情報が最新です。)


1058mからポンヤオロマップ岳

登山口へ至る林道は,あちこちに台風による鉄砲水で大量の土砂に覆われた痕跡が見られる。ところどころに尖った岩石が落ちている。パンクを気にしながら木の葉がさらさらと舞い降りる深夜の道を低速で走る。林道は,二つの沢の合流地点で終わっており,そこが登山口となっている


汗びっしょりのシャツを乾かす

 ペテガリ岳は,岳人があこがれる日高を代表する山のひとつである。天候に恵まれた10月の3連休だ。登山口にはすでに駐車する車があって,何人かが車中泊しているだろうとの予測ははずれた。そこには1台の車もなく,森閑としている。


ポンヤオロマップ岳を振り返る

沢水の流れる音,絶え間なく車のルーフに落ちてくる木の葉の音は,寂しさを倍化させる。主要道路からは20kmほども入った山の中,心細さを感じながらも,明日の出発に備え眠りに就く。午前3時ころ,狭い駐車スペースにヘッドライトが迫り、2台の車が駐車した。そのまま眠りに就いたようなので,仲間ができたことにホッとして,うとうとしながら夜明けを待つ。

 2台の車中の人たちはなかなか目覚めない。すでに5時近くになり,そろそろ出発の準備をしないといけないと支度にとりかかると,車中の人も起き出す。仮眠していたのは,若い男女5人パーティーで,早大尾根分岐の1518mで2泊し、ペテガリを往復するとのことであり,のんびりしていられる訳が分かった。後に帯広勤労者山岳会の所属と分かる。この5人は,若者の乗りで朝早くからテンションを上げてふざけていて,なかなか支度に取りかからない。


登山道は消失している 遥か彼方にペテガリ岳 Cカール ルベツネ山を望む

 しかし,この乗りは,実はペテガリ岳への挑戦を前にした集団となった若者特有のテレ隠しと見て,心中,難コースへの挑戦に対する賞賛を送った。にぎやかな声を背にして,午前6時,一人緊張気味にポンヤオロマップ川とペンケヤオロヌップ川の合流地点に位置する,標高400mの登山口から始まる胸突きの急登をゆっくりゆっくりと登る。 

  登山口から25分,640mの地点でヒグマの掘り返しを見る。木の幹には爪を研いだ跡が見られ,糞もその周辺の3か所にあったが,糞の表面は乾燥しており取りあえずは安心する。843mで休憩し,1121mを越え,1058mで再び休憩していると地震で山が揺れた。休憩していた場所は,山の斜面の狭い登山道に横たわる木の幹の上だ。山と木が同時にゆっさゆっさと揺れると,登山道が崩壊するのではないかとの不安がよぎる。


登山道はまったくないと言っていい。特に登り斜面はあきれたほどの藪となっている。

ここから350mの急な登りを経て,11時,ポンヤオロマップ岳頂上に立つ。それまではポンヤオロマップ岳に隠れていたペテガリ岳が,ここでやっとその姿を見せる。あまりに壮大な累々とした日高の山並みである。眺めがよかったこともあるが,ポンヤオロマップ岳までの1100mの登りで体力を消耗していたことから,ここで1時間もの長時間の休憩を取らざるを得なかった。

風はあるものの,縦走装備でアップダウンを繰り返すと想いのほか汗が流れる。ポンヤオロマップ岳の頂上で,汗でびしょびしょになったシャツを潅木の上に広げると,休憩中にすっかり乾いてしまった。このときは,さらに待ちうけている幾重にも連なるコブの手ごわさに気付いてはいない。ポンヤオロマップ岳頂上から早大尾根へと向かう下りの登山道は,それまでのとは違って急に細くなり,踏み後も少なくなる。

ポンヤオロマップ岳頂上からしばらく下りたコルに,テント2張り分ほどの気持ちのよい平地がある。だれが使ったのか,ブルーシートやビニールシートが木に括られている。その先には動力付きの草刈機が放置され腐っている。旧営林署のときには,登山道の草刈が行われていたものと思われる。


1518mコブから見た早大尾根 (右奥はソエマツ岳方面)

 ポンヤオロマップ岳の陰にコブがあって,これを乗越えると地図にある1231mのコブとなり,コブの先は傾斜のきつい下りとなる。ここにはフィックスロープがあるが,ロープは古く,その上途中で切れている。一瞬の気の緩みで滑ってずり落ちてしまい,張り出した枯れ根で向こう脛の皮膚を2か所大きく傷つけてしまった。少し我慢して歩くが,傷がズボンに擦れて痛い。大型のバンドエイドを張った上に包帯を巻いて固定する。 

 さらに次の1417mのコブを越えると,テント2張り分の平地がある。そのすぐ先には,東尾根唯一の水溜りがあるものの,水は腐っている。まったく飲用には耐えない。東尾根上では水の補給が一切できないことをしっかり銘記すべきである。水は5リットル持っている。尾根の日の当たらない所には最近降った雪がところどころに残っていた。帰路はこの雪を溶かして飲用にすべく,下りやすい斜面の場所にある雪を確認しながら進む。(注)後日、プラティパスの容量を計ったところ、表記上の容量が入らないことが分かり、実際は、水は5リットルは持っていなかったことが分かった。現在は表記は直されている。


国境稜線1573mはまだまだ先の先

  15時になってようやく早大尾根が派生する1518mのコブに到達する。今日の目的地の国境稜線の1573mまでは,さらに大きなコブを2か所越えなければならない。ポンヤオロマップ岳からここまでは,ヤブやハイマツをかき分けかき分けながら進んできた。単にアップダウンのある登山道を歩くのと違って,エネルギーの損失がはなはだ著しい。 

早大尾根は積雪時に使われた尾根と言う。1483mのコブは鋭角の頂を持っており,どのようにしてここを通過したのかと考えさせられるほどの厳しさを感じさせる。1518mのコブから少し進むと,登山道の上ではあるが1人分のテントを設営する場所がある。しかし,稜線の上であり強い風に吹かれた時には逃げ場がない。さりとてここから当初予定の国境稜線の派生する1573mのコブまでの一般的な所要時間は3時間30分であり,思案する。


国境稜線1573mのすぐ下 風は強く巻いて吹き付けてくる

  ここでどうにか停滞したとしても,その場合,帰路を考慮に入れると翌日にペテガリ岳の頂を踏むことは困難である。次の機会があるとの約束はない。天候は安定している。照明は予備電池,予備球ともに万全である。月明かりもあって,日が落ちても足許をしっかり確認できる。これらを考えると前進するに問題なしと判断する。途中,日陰側の雪の残り具合を確認しながら,ナイフリッジとなっている尾根の,所によっては登山靴の幅にして2つ分もない道を慎重に進む。 

1573mまでの中間地点で既に日没を迎え,ペテガリ岳がその残照の中に浮かんで見える。夕闇迫る尾根の静寂の中を進む。長時間の歩行で,体に疲れは感じるものの,今すぐにでも野営して休みたいというほどでもない。ただ,日は既に落ち,常識的には野営の時間ではある。テントを広げたいと思っても,テントを張れる場所は尾根の北側のわずかな窪みしかなく,踏めば水が染み出てくるところばかりだ。結局はライトを頼りにナイフリッジの稜線を進み,18時50分,ようやく国境稜線と交わる1573mに到着する。13時間を要した。


これが国境稜線1573mの様子

1573mのコブ直下には,無理をすれば2張り分のテントを張れるスペースがある。強い風に悩ませられながらようやくテントを設営し,簡単な夕食後,シュラフにもぐり込む。日高側から吹く風は,大きな風の塊となってひとつひとつ押し寄せてくる。風はペテガリの山をなでながら越えてくる。1573mのコブとテントをゴーっと音を立てて揺らし,ひとときの静寂をおいて,ふたたびゴーっと音を立てていく。テントはそのたびにぶるぶるっと震えるが,もはや疲れきった体にはそれを恐れとも感じることはない。13時間歩いた体へのご褒美は熟睡に限る。


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