[HOME][][][][][

南アルプス縦走/テント泊 5日目 (2013)
(2013/ 7/12〜17)
荒川小屋〜前岳〜中岳〜悪沢岳〜千枚岳〜千枚小屋


千枚岳のミヤマムラサキ


 2013年7月16日(火) 


荒川小屋先のトラバース道のクロユリ

 今日も、待望の3,000m級の山の連続になる。そのような期待とは裏腹に、千枚小屋までの行程は6時間もかからない。千枚小屋はお花畑の見ごろの花を見てもらうために、他の小屋より1週間小屋明けを早めたというから、大いに期待する。(実際はマルバダケブキとほんの少しのオオサクラソウだけで、期待は完全に裏切られた。)そんな期待を込めて荒川小屋を最後の方に出発する。百間洞山の家で同じテーブルに着いたご夫婦の姿は見かけなかった。早くに出たのかもしれない。


荒川小屋先のお花畑(登山道下の急斜面)

 荒川小屋のテント場で幕営した者は他になかった。物好きは一人だけだったということ。でもこのような贅沢な時間と空間をわずかな料金で楽しむことができるのに、小屋泊まりなどしていてはだめだ。小屋泊まりは力が無くなったと自覚してからであり。まだまだ先だという気持ちに確信が持てたのは、あとの千枚小屋でのことだった。


前岳への登りのお花畑(保護地)

 荒川小屋を出発すると、ぼちぼちとシナノキンバイソウが咲いていて、クロユリも見かけるようになった。食害の程度は相変わらずだが、急斜面にハクサンイチゲやミヤマキンバイなどが残っている。そのうち食害を免れた花が多くなってくると、その先はネットに覆われた広大な前岳への斜面のお花畑の中をジグを切って登るようになる。ここは依然見た道南の大千軒岳の稜線の様相を呈してくる。とにかくすごいことになっている。クロユリもこれでもかこれでもかというほどあって、しかし、花の時期にはもう少しというところだった。


前岳から中岳を望む

 お花畑を抜けきるとその先はガレ場のトラバースと急登りで前岳と中岳のコルに出る。前岳にちょっと寄ってあいさつし、中岳に登る。中岳のピークに避難小屋が建っている。荒れたら厳しそうな場所にある。小屋の先の斜面は雨が降ると流れが出来そうな地形でそこだけ緑が濃い。見るとクロユリがハクサンシャクナゲの中にもバイケイソウの周りにも群生している。このような群生はこれまで前岳のお花畑にあっただけで、特筆すべき規模と言える。


中岳避難小屋先の緩斜面のクロユリ

 中岳からいったん下り、登り返す2,973mはどうっていうことのないものだったが、その先の東岳(悪沢岳)はきつかった。たかだか200m程度の登り返しがこれほど体にこたえるとは、年は取りたくないものだ。その代り、岩場を埋め尽くすように咲く花々には何度も足を止めて見入る。タカネビランジの蕾を多く見る。岩場のすき間を覆い尽くしている様は、日高のカムイビランジを思い出す。(花のシーズンのトップを飾る岩場の花々の見ごろは1週間以上も前だったようで、どれも花びらが茶変していた。その意味で千枚小屋が先に小屋を開いていたことは理屈に合っている。)


中岳の下りで見る悪沢岳

 悪沢岳の頂上は岩石が積み重なった荒涼とした光景を見せている。岩場を飛びながら丸山に出て、その先に千枚岳を目ざす。大きな石が累々としている様は南アルプスの他の山にも多く見ることがある。


ミヤマシオガマ

 


チョウノスケソウ

 

本人 (これで5泊6日のテント泊スタイル)

 


雷鳥の親子

 丸山の先で、雛を数羽連れたライチョウに逢う。人間がいるというのに親雷鳥は登山道の脇で餌をついばんでいる。一羽の雛が逃げていく。親は動ずることなく登山道に居るので、雛に恐怖心を湧かせないように回り込んでから登山道に復し、先に進む。(今回の縦走で、子連れのライチョウ5組に逢った。)


丸山・悪沢岳を背に 千枚岳のミヤマムラサキ

 千枚岳の花に過剰な期待を寄せていたので、現実の姿を見ると落胆は大きかったが、それでもミヤマムラサキを足場の悪い岩場の先に見たときは、ほっとした。これほど長く歩いてきたやっとひとかたまり見ただけだった。画像に収めるということは、そこの植生の基盤である土石を流失させることになると殊勝にも無理して画像に収めることは諦めた。そのご褒美に千枚岳のピーク手前の岩場に次の一群が待ち受けていてくれた。北海道の花の山、アポイ岳でエゾルリムラサキを見て魅せられてしまったが、この長大な尾根にたった2グループしか見ることができなかったミヤマムラサキを見ることができただけで本望だ。千枚岳の地質は、花との相関関係にこれといった特徴的なものは、アポイ岳と違ってなさそうだが、地質では分からない特異性があるのかもしれない。

千枚小屋周辺のオオサクラソウ

 千枚岳への登りの足場の悪い岩場をクリアし、これといった特徴のない山頂をすぐにスルーして千枚小屋に向かって高度を下げる。眼下に見える千枚小屋は遠かった。縦走5日目で蓄積疲労が残っていたからかもしれない。花から見放されたからかもしれない。最後の望みを小屋周辺のお花畑に期待したが、小屋に近づいて見たものは、わずかなオオサクラソウ、シナノキンバイソウにおびただしいマルバダケブキだけであった。


クロユリ(前岳のお花畑〜参照画像)

 昼ちょっと過ぎに小屋に着き受付を済ます。テントを張る必要もないから、食堂を借りて一人宴会を始め、延々と居座る。その間、小屋の本を何冊か読んだが、中でも前川佳彦著「神々が宿る『魔の山』トムラウシ」は考えさせられるものだった。同種の本としては「トムラウシ山遭難はなぜ起きたか」というものがある。その中で2009年のトムラウシ山での大量遭難事故死の原因は「ガイドによる判断ミスと低体温症によるものと結論づけられた」としているが、そのようなことは大量死の遠因でしかあり得ない。どのような判断ミスがなぜあって、低体温症はなぜ起きたかの直接的な要因を提起しなければ意味の薄いものとなる。その点、前川著はさまざまな状況を描写し、なかでも着衣と摂取した食料やそれぞれの場面で待機した時間着目している。

 何度かの北海道の山、なかんずく日高の山の登山経験から、夏場でも雨具以外のしっかりしたアウターやイアバンドや防寒防水の手袋の必要性、また、ザックの中身が濡れないようにする十分な対策が身を守ることを実感している身からすると、そのようなことへの備えがあったのかなかったのかによって明暗を分けるこということは、一つも大げさなことではない。


小屋は緩いL字形で3層構造になっている

 食堂で夕食の支度が始めることになってあてがわれた就寝スペースに場所を移動する。徐々に人々が到着して1階はほぼ埋まった。テント泊の寝具があるので、小屋泊まり2食付寝具なしに変更してもらって、がら空きの2階に陣取る。内容豊富でおいしい夕食をいただいた後、消灯時刻まで再び本を読む。1階では石油ストーブの大きいのが3台も用意され暖房に供していて、それでちょうどいい加減である。消灯で一回寝付くが途中でガサゴソやり始められ、おまけにヘッドランプの光を振り回すのですっかり目が覚めてしまった。1年半ぶりの営業小屋泊はそんなことやらであまり快適な睡眠を得られなかった。やっぱり自由気ままなで安眠が約束されるテント泊が一番!



[HOME][][][][][