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大ドッケのフクジュソウ (2013)
2013/ 2/22〜23


フクジュソウ (2013)


 2月23日(土) 2日目  

  夜明け前に湯たんぽが冷たくなって目が覚めると、雲取山へ行くと言う先着の方が身支度を整えている。寝ぼけ眼で見送り、そのまま寝込む。もういくらなんでも起きなければと決心してシュラフから出る。だんだんガスが取れてきて富士山が顔を出していい光景が広がる。今朝の外気温はマイナス8℃で、外に出ると身が引き引き締まる。こんな寒さの中なのに、こんなに標高が高いところなのに、こんなに稜線からすぐ下なのに、水場からは水が昨夕より多く流れている。

 
タワ尾根と富士山

この小屋の水場は、2012年11月の工事により流れが悪くなってしまいました(流れなくなってしまいました)。しかし、冬場はこれまでも水の流れはポタポタとしか流れていなかったので、それでも満足すべき状態であったと言えます。昨年、流れが無くなってから樋の位置を直しましたが、その樋は抜かれて放置され再び水が採れなくなり、次に樋の位置を直し水の流れ出しにゴムシートを当てて水量を回復させましたが、そのゴムシートも引き抜かれてしまって、水は三度採れなくなってしまいました。そこで、今回樋とゴムシートを水が採れるように調整し直しました。特に冬場はもともと水量が極めて少ないので、無闇矢鱈とさわっても水量の増加は望めないばかりか流れが止まってしまいますので、樋やシートを触らないでください。 (張り紙から)


回復した小屋の水場の流れ

 天祖山を下りると言う方も出立したので、そろそろ腰を上げなければとパッキングし、お世話になった小屋を後にする。長沢背稜に出ると太陽に温められた樹氷がダイヤモンドダストのようにキラキラと降り注いでくる。空気はとても冷たいが快晴無風で気持ちよく、ふわりふわりと言うように足が進む。しかしそれも束の間のこと。長沢背稜の登山道から離れて七跳山へと方向を変えると足跡はなく、深く積もった雪に加え傾斜がきつくなる。さらに七跳山から大平山への尾根には雪が深く積もっていて難渋する。


右 矢岳

 今年の特徴的なことは、過去にあれほどあったツキノワグマの足跡がまったくないことである。それほど寒く雪が深いからということだろうか。大平山の頂上でエネルギーを補給した後、バラモ尾根の分岐まで突き進む。ここでミネラルを補給しつつ坂を下るとそのうちにフクジュソウ群落地への下降点に着くはずだが、その分岐点に目印として付けておいた印はなくなっていて、もう一つの目印のコンクリート杭も見当たらない。少し進んで振り返ってみるとこの場所が分岐点であるはずだが、沢方向に少し下りてみてもピンとこない。そこで尾根の雪を登山靴でかき分けながら探るとアイゼンがコンクリート標識をガリッととらえる。


この杭を見つけられなければフクジュソウ群落地への下降点は(私は)分からない

 やはりここが下降点だとの確信を得て、転げ落ちるような急斜面を20分ほど下りる。そこは、最盛期には黄色い絨毯となるところだが、一面雪に埋もれていて、フクジュソウの芽でさえも望むべくもない状況である。しかし、何度も通った勝手知ったる沢なので、こんな状況でもフクジュソウが芽を出しあわよくば開花株が見られるであろう場所へと移動する。すると芽を出した株が一つ、そして少し移動して開花株が2株・・・。がんばってここまで来て本当に良かった。


春を待ちわびているフクジュソウ

 実は、北海道の日高地方に2月に入ると、どんなに極寒の日が続いても、どんな吹雪にまみれようがフクジュソウが咲く場所がある。ここ秩父の山中も同じで、日高の山のフクジュソウと同じような環境の場所があって、間違って咲いているのがあるだろうとの目論見があってのことだった。(2005年3月5日の日高の山のフクジュソウ


2013年の初お目見え

 待望のご対面を果たして、疲れも辛さもすっかりなくなった。本当は尾根を一面覆い尽くす咲き誇ったフクジュソウも見たいのだが、最近はカメラ小僧ならぬ分別あるべき大人がフクジュソウを踏み付けながら撮影に夢中になっている醜い姿や、フクジュソウの絨毯の中を縦横に散策(勝手気ままに彷徨)する人たちとは違った環境でこの場に居たくて、たった一輪のフクジュソウとの出逢いだけで満足・・・。


2輪目

 さあ、これから700m下らなければならない。沢筋に溜まった深い雪を漕ぎながら下りるが、どこに岩があってどこに足を取られる穴があるかも分からず、せめて骨折だけはしないようにと注意しながら、ときに股下までの雪と格闘する。これまでがもう少し暖かければ両サイドの斜面の雪が滑り落ち切って危険は少ないのだろうが、今年は斜面の雪がまだ雪崩れておらず、いつ巻き込まれるか分からない。(この時期のフクジュソウ見物は自己責任が大前提である。)


フクジュソウ群落地の今

 どうにか沢を下り、沢を横切り、崩壊斜面から最後の鹿除けネットを出ると、最後の崩壊斜面は渡り切るのが恐ろしいことになっている。と言うより足の置き場が崩れ落ちていて通行不可能なので高巻をして通り過ぎる。(ここの通過は、篤志家がシャベルで道を切ってくれるまですべきではない。峠尾根から大ドッケを経由し尾根から下りて峠尾根を戻るのが無難である。過去に滑落事故も発生し、警察官が麓で入山を規制していたこともあったが、影森派出所の警察官が交代してからは指導してくれる警察官はいなくなってしまった。)


まだ雪崩が起きていないので細心の注意が必要

 泥んこになって無事川俣の集落に出ると、(たぶん)この山の持ち主のNさん出てきて「どうだったの?」と聞いてくる。「雪は深かったのですが、咲いていましたよ。」とデジカメの写真を見てもらうとたいそう喜んで「出逢えてよかったね。」と興奮気味であった。「大日そば」(現在休業中、上影森で「蕎麦いんなみ」営業中)の前を通りかかるとおかみさんがいたので「山から下りてきました。咲いていましたよ」と報告し、フクジュソウの画像を見てもらうと「このフクジュソウはいい子だね。」と液晶のフクジュソウを撫でるのであった。それは、Nさんにしてもおかみさんにしても、この山のフクジュソウを我が子、我が宝のようにして慈しんでいるといった感じがするのであって、ただ花を見られればいいと言ったフクジュソウを踏み付け、あるいは柔らかな落ち葉の下にフクジュソウの赤ちゃんがいると言った想像も働かず、幼苗を蹴散らかしてしまう人たちには地元の人たちの気持ちは分かりようもない。この集落の人たちは毎年とフクジュソウの咲く前に途中まで道普請をしてくる人を迎えている。そんなお蔭もあって群落地が保たれているということに、感謝するばかりである。


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