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酉谷山避難小屋から矢岳に下る (2016)
2016/ 4/14〜15


酉谷山避難小屋の水場


 2日目 (4月15日・金) 

 酒を飲み、コメを炊いて夕飯を食らい、板の間に横になると、瞬時に眠りに就いた。6時間ほど寝ると目が覚めた。まだ午前3時ごろだった。もうろうとしてラジオを聞く。熊本で大きな地震があったと伝えている。しかし、その時はこれほどの被害を及ぼすものとは思ってもみなかった。震源が「増毛町」と聞こえた。北海道でそれほど大きな地震があったのか。5月上旬に北海道の山に花探しに行くことにしている。そんなことが許される状況ではないだろうなと思う。


冬だといつも湿っぽい

 今日の下山のコースは矢岳を経て武州中川駅に出るもので、前回のコースタイムは6時間45分だった。今回は、そのときの所要時間を忘れていて、5時間もあれば下りられるだろうが、昨日の疲れがあるから30分プラスだななどと勝手な目算を立てる。なので、午前8時に小屋を出ることにしてゆっくりする。それまでの間、小屋を掃除したり綺麗なトイレをのぞいたりと時間を過ごす。


小屋にさようならを言う

 陽が高くなって、長沢背稜を歩くのにいい気温になってきた。今朝起きたときの酉谷山避難小屋の外気温はプラス1℃ほどであった。ウールのロングTシャツにウールの半袖のTシャツを重ね着し、その上にファイントラックのL4「ニュウモラップ」を着込む。風もなく、快適な長沢背稜を一杯水避難小屋方向に向け進み、最初に出会う「鳥獣保護」の看板を右手に見て、すぐさま顔を左に向けると、「この先登山道消滅です」との張り紙が見える。


長沢背稜から

 確かに、登山道はない。しかし、踏み跡はあると言えばある。ただし、ないと言えばない。難しい尾根ではない(と思う)。要所要所には赤テープが巻かれている。そうは言っても、初めての場合は事前の情報収集、机上のシミレーションは必須である上に、秩父のマイナールートを使うのに、ルートを下りで初めて使うという人はいないだろう。このルート上のテープについては、過剰感もないし、必要な場所に必要なテープがあると感じるが、ときに「論外」なビニールの荷造り紐を、それも多用している場合がある。その弊害について、常識的な話をしている人たちもいる。しかし、ビニール紐を括りつけることに何の疑問も持たない人がいるのも、このような自由気まま、勝手な世の中だから致し方ない。


長沢背稜から矢岳への進路

 長沢背稜から分かれて矢岳へのルートに入る。文字通り踏み跡不明瞭ながら地面の凹みと、屈折すべき地点や下降地点を示すテープを追うと、基本的に尾根歩きなので間違えることは少ないはずだ。「牛首」でバイカオウレンが咲いている。しかし、花の数と大きさの点で言うと、今年は例年に比べ著しく見劣りする。これは、前日の春の蘭もそうだし、イワウチワに至っては可愛そうなほど矮性化した個体しかなかった。カタクリも然りで、花を付けているものはほとんど見かけない。


牛首峠で バイカオウレン

 牛首から立橋山(1588m)に登り、しばし歩いて赤岩ノ頭(1488m)でおやつタイムとする。稜線は西からの風が強く吹き付けているが、いつも休憩場所とするここは、馬酔木などの灌木が風を防いでくれるし、ちょうどいい倒木がベンチとなっていて、気持ちのいいところである。


「魔境」の小黒と酉谷山 立橋山手前で

 赤岩ノ頭から植林帯を少し進むと川浦林道に降りる分岐点に出合う。いつかはこの林道から登ってきてみたいが、林道の様子がわからない。分岐には「酉谷山・小屋まで5時間」と書いてあるが、そこまではかからないだろう。林道は宗屋敷尾根の取り付きに沿ったところだが、その取り付き口付近には「林道はこの先1kmで通行止」とあることから、林道歩きが長そうだ。


矢岳 いつの世もコミュニストは口では戦争反対と言いながら残虐なことをするネ

 誰にも会わず、誰にもいない矢岳の頂上に着く。昔のコミュニストもどきの団体が作成したのだろう。「戦争に反対」と書かれた看板が付けられている。誰も喧嘩なんかしたくはないんだ。戦争なんかしたくはないんだ。のんびり暮らしたいんだ。それが市井の人間なんだ。それではあっても自分を守る準備はして置かないと習さんに(まずは尖閣が)やられちゃいそうな雰囲気は、普通の感覚の人は感じている。この看板は、歴史的産物としての価値はあるだろう。


矢岳とミツバツツジ

 矢岳を下ると、いつもはこの時期にはカタクリが待っていてくれるのだが、ここも今年は不作である。ほとんど花を付けていない。この尾根は、西側が雑木林で東側が檜(杉?)の植林となっている。矢岳の頂上からしばらくは急な斜面となっていて、落ち葉も多くて滑りやすいが、カタクリの植生の場所の斜度は緩やかになってくる。割と安心感を持ちながら先に進むと、尾根の左側からツキノワグマが登ってきて目の前を突っ切って左側の植林の斜面を駆け下りていく。

 

 あまりの突然の出会いだったので、カメラを出す暇もなかった。ただ、このツキノワグマはこちらの存在を認識していながら目の前を横切って行ったふしがある。と言うのは、この熊は我が家の猫、クロちゃんのようにびくびくした様子で頭を低くしていたからである。黒毛もクロちゃんのようにつやつやしていた。
 ネイチャーランド浦山の敷地が見える。篠戸山に出ればスミレやカタクリが咲き、そしてミツバツツジが満開となっているだろうなと思いながら歩いていると、前方から単独の男性がやってくる。お互いに予想もしなかったことだった。この人は、酉谷山避難小屋に泊まるつもりだったが、その小屋で同宿者が陽の高いうちからいびきをかいて寝たので、稜線に出てツェルトを立てて夜を過ごしたようだ。その気持ちは分かる。


クタシノクビレで カタクリ

 フナイド尾根の屈折点を左に取り、武州中川駅に向かう。クタシノクビレから再び無聊この上ない植林地に入ってからは、ただ先を急ぐだけしかない。汗をたっぷりかいて最初の人家に出る。離れたところで水芭蕉の手入れをしているご主人に「通させていただきますね〜。」と声を掛けると、大きな声で「はいよ〜。」と答えてくれる。このご主人の家の庭には、いろんな花が植えられていて、眺めながら通るのが、いつも楽しい。


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