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未踏の場所 札幌郊外の森のヤマシャクヤク
 午前5時42分の森にて 


 2004年5月23日(日曜日)

  札幌に単身赴任中なので、仕事以外の時間は自分のためにたっぷりと使うことができる。北海道はやっと長い冬から開放され、春真っ盛り。春とは言っても本格的に登山ができるまではまだまだ時間が必要だ。とういうことで、都市周辺や、山の麓で咲く花を見るのがいい。フクジュソウは3月、地吹雪の中でも咲いているところがある。ミズバショウ、ザゼンソウは幹線道路脇の湿地でよく見ることができる。次いでアズマイチゲ、カタクリやサクラソウなどの花が咲くので、林や森の中を探して歩く。


初めて出あったヤマシャクヤク

 札幌の街から郊外に少し向かう。道路沿いに小さな森がある。森に入ると木々が葉を落とし、森の周縁からは農地や農家が見渡せる。足元にこれまで見たことがない緑色をした葉がある。それはフッキソウ、コケンランそして大群落をなしているトケンラン、おびただしい数のサイハイランだった。春が進んだらそれらの花を確かめる必要がある。


初めて出あったヤマシャクヤク(正面から)

 長くて厳しい北海道の冬が過ぎようとしている。この森の中の雪も溶け、木々の下に緑が増えてくるのが分かる。道路を分けた右の森に入ってみる。特にこれといった花はないが、さらに奥へ奥へと進んで行く。エゾエンゴサクが薄いブルーの花を咲かせていて、気持ちのいい森の散策となる。

 さらに進むとだんだん心細くなるほど倒木が多くなるが、周りより少し日が差し込んでいる明るい場所に出る。するとそこにはおびただしいフクジュソウが、ここにも、あそこにも咲いている。ここは二次林、三次林ではあっても、原始の森と呼んでもいいほど人の足跡がない。今日は十分に楽しませてもらった。  


 2004年5月23日(日曜日)

 今日は日曜日。前に見たところの左側の森も見てみたく夜が空けると車を飛ばした。特に珍しい花が見られるなどという成算はなかったが、なにか感じるものがあった。

 森に着くと、すぐコケンランの群れに出会った。あとはスミレにフッキソウ、そしてエンレイソウ、ユキザサ、ナルコランなど。右の森と道路をはさんで10mほど離れているだけ(分断されている)なのに、右の森と違って背の高いイラクサやシダが生い茂っていて、林床の植生はまるで違う。イラクサの棘に刺されながら先に進む。

 森は副交感神経を優位にしてくれるのではないだろう。本屋に入ったときに生じると同じ状況になってしまった。倒木があるのでイラクサなどがない、いい場所があった。

 ふと後を振り向くと、倒木の脇にヤマシャクヤクがあった。そのときの驚きは今も忘れることができない。初めて自生のヤマシャクヤクを見たのであった。このヤマシャクヤクはまだ蕾だったが、まさかこの森でヤマシャクヤクに出会えるとは思ってもみなかった。こうなったら森の中をすべて歩いて見たい。まだ時刻は午前5時42分、時間は十分にある。

  そこを離れるとフッキソウやマイズルソウの群落に出る。さらに反時計回りに森を回る。(入口から見て)時計の針が10時を指す場所で何本かのヤマシャクヤクに出会った。相当な数がありそうだ。次々とヤマシャクヤクに出会うが、まだ開花していない。次のために倒木や折れた木などを目印として記録したので、もう今日はいったん森を離れる。森から出るとそこは早朝の車がビュンビュンと通り過ぎて行く。


 2004年6月4日(金曜日) 

 なかなか時間がとれずやっと森に戻ることができた。蕾を見てから10日も過ぎている。ヤマシャクヤクの花期は短いというので、どうだろうか。ヤマシャクヤクはやはり時期を過ぎていた。それでも花を付けたヤマシャクヤクも残っている。ここにも、あそこにも・・・、全部で16株ほど。探せばまだまだありそうだが、この場所だけでも十分。一つ一つのヤマシャクヤクを時間をかけて対面する。

 森に差し込む朝陽を浴びてどのヤマシャクヤクもいきいきしている。「貴婦人」という言葉を用いてもいい気品が溢れるヤマシャクヤクの花を十分に堪能した。通勤の時間帯になって車の通行量が多くなった。森を出てそっと車に乗り込む。でも、そのような心配は要らないようだ。こんな森になんの用があるというのか、というように、皆、猛スピードで脇を通っていく。森の入口に咲くトケンランにも別れを告げる。さあ、仕事だ!

 


 ヤマシャクヤクが咲く森の様子


シダの間にヤマシャクヤクが数株みえる


北の都市郊外に残された秘密の花園


鬱蒼とした森に入ると倒木類は重要な目印になる


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