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ツクモグサ咲く横岳
2006/ 6/10



今咲いたばかり 

 稜線に咲く花の女王は「ツクモグサ」であり,ツクモグサを見るなら北海道日高のピパイロ岳や芦別岳と勝手に決めている。2006年,ピパイロ岳の前に,本州では北アルプス白馬岳や雪倉岳と八ヶ岳・横岳にのみ咲くというツクモグサを八ヶ岳で観賞しようと中央高速に車を走らせ,早朝,南牧村海ノ口自然郷の登山口に着いた。海の口自然郷は横岳に至る最短距離の杣添尾根に取り付く場所にある。山の地図のとおりきっちり8台分しか駐車場は用意されていないが,環境の整った別荘地の真ん中にある。

 別荘地を抜け高度を上げながら行くと,北沢を渡って南八ヶ岳林道を横断し樹林帯へ入る。樹林帯のコミヤタカバミの植生が終わったところで,林床に2か所,数株のイチヨウランを見つける。
登山道は地図上杣添尾根に沿っているが,実際は高度を上げるにしたがって尾根の北側に付いている。その登山道は,ところによっては北側急斜面の数メートルもある雪渓の下にもぐっている。登山道がいったん尾根に上がると雪はなくなり,三叉峰を見上げるところまで来ると,登山道の両側はハイマツとハクサンシャクナゲに覆われていて,稜線は間近となる。     


朝日に向かって花弁を広げようとしている

 花の季節の八ヶ岳,その中でもツクモグサやウルップソウ,さらにはチョウノスケソウが咲くという横岳の稜線には,女性を中心とした登山者が多く,オヤマノエンドウなどの撮影に余念がない。三叉峰にはツクモグサは咲いておらず,地蔵尾根寄りに少し行ってみると稜線の西側斜面に待望の黄色い花が見える。

 ツクモグサはどんどん踏まれてきたのだろう。登山道脇の株は息もたえだえで花の株が少ない。立ち入りを制限するロープが張られているものの,もう遅い。三叉峰に戻って大権現に向かうと,南西の急斜面に見ごたえのあるツクモグサが咲いている。

 登山姿とは見えないおじさんが,登山道を大きく離れトラバースして斜面に張り付いて写真を撮っている。そこに行くまでにどれほどのツクモグサを踏んでいるのだろうか。氷河期の生き残りの花であるツクモグサは,本州ではここ八ヶ岳と白馬岳,雪倉岳で,あとは北海道の深山の4か所にしかない。


ツクモノグサの広場

芦別岳のツクモグサを見るのに旧道をのんびり歩き,新道を下りて合計9時間,ピパイロ岳のツクモグサを見るに至ってはテントを担いで稜線での1泊が必須だったが,八ヶ岳のツクモグサは自宅から車で高速道路を走って,登山口まで3時間弱,登山道を4時間歩いてすぐに出会える。この幸福に感謝する。いつまでも大事に残してもらいたい。ツクモグサを十分に堪能した。岩に腰掛けて昼食を摂っていると急に睡魔に襲われる。風も穏やかで日差しも適当で午睡にうってつけだ。たっぷりと1時間も寝込んでしまった。花の夕張岳のその頂上での幸福感を思い出す。

 下山時の雪渓は,午後の日差しですっかり柔らかくなっていて,先に下りた人が踏み抜いた跡があちこちにある。ツクモグサを見たいとはやる心で登った登山道の下りは以外にも急斜面であった。
八ヶ岳のツクモグサには悪いが,南北に130キロメートルある長大な日高山脈の稜線の,訪れる人も極めて少ないピパイロ岳の稜線のほんのわずかな場所に咲くツクモグサも「今咲きました。」と言って待っていてくれそうなので今年も一番乗りで行かなくてはならない。


窮地に陥ったトラバース道もツクモグサの時期には雪渓も減少している


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