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幻のオキナグサ 大展望の権現岳〜赤岳テント泊縦走
2008/ 5/26〜27


 5月26日 (1日目) 


三ッ頭から赤岳と阿弥陀岳

 5月26日
 前日に金峰山と瑞牆山を登り、その翌日に清里のたかね荘に車を停め、県界尾根から赤岳に登り赤岳天望荘に泊まって真教寺尾根を下りてきたのは2002年5月27日から28日のことであった。このときはアイゼンもピッケルも持たない(そもそも装備としては軽アイゼン以外は持ってはいなかった)で県界尾根から急斜面を赤岳天望荘に向かって雪渓をトラバースして窮地に陥る苦い経験をした。それから6年が経った今年は、そのとき自分一人では多分怖くて歩くことができないだろうと思っていた権現岳から赤岳に登って見たいことと、6月の日高山脈・幌尻岳への登山に際してのテント泊装備確認と体力の確認のためにテント泊装備で八ヶ岳に向かった。今回は、北岳の大樺沢を登るために揃えたアイゼンやピッケルがあるにもかかわらず、持たないでもいいだろうと思っていたが、八ヶ岳の登山道の情報をチェックすると登山道に相当の雪が残っていて、アイゼンやピッケルの携行を薦めている。そして、Mさんからもリスク回避のアドバイスをいただいた。


初めてお目にかかります オキナグサ

 ETC利用の通勤割引の時間に合わせて早朝の中央高速自動車道を調布から乗り、韮崎ICへと向かう。新緑に彩られた中央線沿線の山々や初狩PAで現れた富士山の姿を楽しみながら小海線の甲斐大泉から天女山(1528.8m)に車を進め、駐車場に車を停める。天女山までに至る車窓から見た三ッ頭や権現岳、赤岳の斜面に顕著な雪が張り付いていないことが見て取れたので、アイゼンとピッケルを車内に残し、登山道に入る。ミツバツツジが盛期だが、そのほかに取り立てて見るべき花はないが、登山道脇で初めての、絶滅危惧種である自生のオキナグサをたった1株見る。既に花が終わった株ではあったが、山梨にある3か所の自生地の一つであることを思い出し、他にはないかと四囲に注意を払ったが、そこにはこの老いたオキナグサ1株以外になかった。

 
唯一かろうじて群生しているといえる場所

 その後、標高を上げるうちにタチツボスミレやフデリンドウにミツバツツジの花を見るがオキナグサは見当たらず、その植生からあってもよさそうな天ノ河原にもなかった。ザレた幅が広がった登山道は並べられた小石で仕切られているところがあって、本来はこのようなところに多くのオキナグサがあったのだろう。登山道の真ん中にも、たとえば高所の登山道の踏まれやすいところに咲いているコマクサを、登山靴で踏まれないためにサークルストーンで囲うようにしてある場所が多くあるが、1本のオキナグサも生えていない。さらに標高を上げていくうちに数本のオキナグサが、そしてもう1か所に踏まれて踏まれて追い込まれたオキナグサが、わずかな小石の仕切りの先に咲いていた。


南尾根分岐先から権現岳と右奥に阿弥陀岳

 樹林帯を1859mまで高度を上げると、男女4人のグループが休んでいて、そのすぐ先からの登山道には雪がびっしりと張り付いている。「少し先まで行ってみましたが、私たちには無理だと判断して下山するところです。気を付けて登ってください。」と見送られる。ピッケルもアイゼンも置いてきてしまったが、雪は10数度もある気温で緩んでいて、スパッツを着けてキックステップを切っていけば問題ないだろうとザックを下ろしスパッツを探す。しかし、スパッツはザックに入っておらず車に置いてきてしまったようだ。ところどころで「ズボッ」っと脚をとられてしまうが、しばらく行くと雪はなくなって、前三ッ頭を過ぎ甲斐小泉駅に向かって下りる南尾根への分岐を越え三ッ頭に立つ。権現岳や赤岳など南八ヶ岳の展望が開け、登山道を覆うハイマツとハクサンシャクナゲが北海道の山の雰囲気を感じさせる。女性3人のグループが権現岳から下りてきた。観音平から網笠山を通っての日帰り登山だという。


三ッ頭から権現岳

 コルから権現岳直下の岩場の巻き道に派手な色使いのイヤーバンドが落ちている。普段から元気のあるうちに見つけたごみは持ち帰ることにしているので、いつものとおり拾うとすると、それはなんと女性用のパンティであった。そういえば、このコースは他の山と違ってところどころに白い花が咲いている。このパンティは、登山道でウ○コをした後で着用に耐えられない理由ができてしまい捨てられたものと思われるし、そのような物を持っていて不審者にも思われたくないので放置してしまった。
 この後の稜線上にも「大」の跡がところどころにあって、せめて使用後のトイレットペーパーやティッシュは持ち帰ってほしいものだと思わずにいられなかった。天気予報は午後から寒気が入って雷雨になると言っている。温度計は10度を下り6〜7度を示している。余分なことにかまってはいられない。早くテント場に着いて雨風から逃れなければ・・・。 


権現岳直下の権現小屋とギボシ


旭岳から権現岳を振り返る 左奥に三ッ頭

 ゴツゴツとした岩ばかりの権現岳の頂上に立って主峰の赤岳を望む。イメージとは違って今晩の宿となるキレット小屋のテント場は権現岳から大きく下るようで、権現岳からはその場所はまったく見通すことができない。ここまで当初のスケジュールどおり順調に歩いているが、先はまだまだありそうだ。キレット小屋に向かって進むと稜線から切れ落ちた崖を下るための長い鉄梯子が掛けられており、これを下る。その後は尾根道を淡々とたどって行くが、北面の樹林帯の急斜面は深い雪に覆われている。ズボッと腰まで埋まってしまう雪質で、スパッツのない登山靴に大量の雪が入ってしまう。一計を案じ極太のゴムバンドで裾を止めたので、ズボ、ズボっと何度も埋まってしまっても大丈夫になった。また、これまでならば雪が付着sればズボンが濡れてしまったのだがそういうこともない。それは、今回の山行にスイスSchoeller社Sのストレッチライト生地使用astriのズボンをはいていて、この生地が雪の付着をはじくためのようで、値段に見合った効用のあることが確かめられた。 


旭岳から赤岳


キレット小屋と権現岳

腐った急斜面の雪地獄から脱出して稜線をはずれキレット小屋への分岐を東斜面に降りる。すっきりと開けた小屋周辺だが、テント場は小屋から少し下りた緩斜面にあって、平らな場所にテントを張ることができる余地は少ない。小屋は冬じまいしているが、1階の板が打ち付けられていただろうプラスティックの小窓が破れていて、中をのぞくとダンボールが開けられたような跡がある。これは雪の圧力によるものではなく、人為的なものだと思われた。あまり気持ちのよくない場所なので小屋を離れ、小屋から少し下った場所にテントを張る。赤岳が正面に、清里の街が南東に見える絶好の場所だ。水場で水を取れないことも考えて予備の水を1.5リットル持参してはいた。予想どおり水場は雪渓に覆われていて、雪渓の先は下りることが困難なほど先まで続いている。テン場での生活水を得るために雪をスタッフザックに詰め持ち帰る。ついでにキュウッと冷えた発泡酒を飲むためにも冷やさなければ・・・。数分の簡易冷蔵庫の効果は絶大で、ゴクゴクと液体が喉にしみわたる至福最高のときだ!


いつものテント生活

 予定より40分遅れの午後3時の到着ではあったが、食事が済んでしまうと何もすることがない。まだ陽が沈むには早い時間だが、空が曇ってきた。赤岳の上空には高層の黒い雲が流れている。山肌に雲が当たらないので降雨はなさそうだが、気温は急激に下がっているようだ。そのようなときの時間の過ごし方は、乾燥した快適なシュラフにもぐってラジオを聴くことに限る。まったりしているうちにすっかり寝入ってしまった。テントが轟轟と断続的に吹く風で揺られている。幾筋もの風が木々の中を、テントの上を、遠くの尾根をまるでそこに道があるように通り抜けていく。


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