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カムイエクウチカウシ山〜コイカクシュシュサツナイ岳縦走を終えて
2009/ 7/27〜7/31



夏尾根の頭の快適なテン場からコイカクシュサツナイ岳を見る。
今年の日高ともお別れ・・・名残り惜しい朝。

 カムイエクウチカウシ山は、標高は1979m、200名山の一つに選ばれている日高の山である。この山には、2007年にエサオマントッタベツ岳〜カムイエクウチカウシ山を縦走し、また、2008年のエサオマントッタベツ岳〜カムイエクウチカウシ山を縦走したのに続き、今回(2009年)で3年連続、3回目の登山となった。計画したルートは、カムイエクウチカウシ山〜コイカクシュサツナイ岳〜ペテガリ岳〜ポンヤオロマップ岳だったが、気力・体力・天候の関係でコイカクの先には行くことができなかった。これまでの登山で得られた自分なりの準備、注意点などについて若干記してみたいと思う。

 この山での事故としては、「増水」、「滑落」、「ヒグマ」が予想されるところだ。(参照:十勝支庁管内の山岳事故状況) 最近ではカムイエクウチカウシ山までは多くの人が入山し、登路も(日高の山としては)しっかり付いているので間違いようのないようにも思うが、稜線に上がってからは激しい藪漕ぎが待っているし、単独行なので地図や高度計及びGPSを使って慎重に歩いた。

 カムイエクウチカウシ山では、道迷いによるもの(八ノ沢カールからの下山時の道迷いや三股から八ノ沢カールまでの間)と岩場や沢沿いの斜面をヘツる際の滑落が主と事故原因だろう。登山道をふさぐハイマツの処理を誤って滑落未遂事故を惹起したのはペテガリ岳からコイッカクシュサウナイ岳に向かって歩いていた1600m峰付近のことで、それはカムイエクウチカウシ山登山の際にも十分起こり得ることである。

 なお、今回の登山の後の2009年9月23日、ポンヤオロマップ岳山頂から西に約450メートル離れた地点で、男性が滑落死している。この方は9月18日から22日の予定で、コイカクシュサツナイ岳からペテガリ岳を経由し、ポンヤオロマップ岳までのいわゆるペテガリ岳東尾根コースを縦走する計画だったとのことである。これまで何度も悪天候や藪漕ぎにより気力と体力が失われてきた。中年から始めた山歩きの限界である。このようなときに自分の実力の限界と、身近な危険を感じるのである。

 増水については、急峻な山肌から一気に沢に水が流れ込むことから、そのような状況下では停滞し減水を待つべきであるが、2005年夏、減水を待たずコイカクシュサツナイ川で濁流にもまれた苦い経験がある。今回は、直前の数日天気が悪かったものの、増水後の減水が始まっていたと判断し札内川及び八ノ沢に入ったが、十分な見極めが必要である。


1444mから尾根に出たが夏尾根の頭まではまだまだ遠い

 ヒグマについては、昭和45年の福岡大学生3人がカムイエクウチカウシ山・八ノ沢カールでその尊い命を失った事故がある。山菜採りに山に入りヒグマの事故に遭った件数は多いが、カムエク以降の北海道内における登山中の事故は寡聞である。熊鈴を鳴らすことの適否はともかく、登山中に実際に熊に遭った事例は少ないのではないだろうか。しかしながら、日高の山では残雪期から夏季、稜線及びカール周辺に出没するヒグマが多く見られるのも事実である。また、伏美岳からピパイロ岳にかけて、ペテガリ岳西尾根コースの藪で猛烈な獣臭を何度も嗅いでいるが、これはヒグマが登山者の通り過ぎるのをじっと隠れて待っているのだろう。カムイエクウチカウシ山では、八ノ沢カールで毎回ヒグマを見ている。

 見通しの利かない所では、大きな熊鈴を鳴らし、いったんヒグマを見つけると(距離によって)それ以上の刺激を与えないようにし、進路が妨害されているときやテント場から離れてほしいときには警笛を必要な回数にとどめて吹鳴し、その場を離れさせるようにしている。しかし、ヒグマに過度に注意を払い、せっかくの大自然の中の登山が楽しめないということは、本末転倒と言わざるを得ない。なお、至近距離でヒグマに出遭って襲われるようなことがあったら、それは寿命と思うしかないが、かすかな生存の望みをつなぐために、お守りとしていつも鋸を持参している。 


夏尾根の頭から1823峰(うしろにカムエク

 カムイエクウチカウシ山・八ノ沢カールからの下山時、往々にして下の画像、赤色実線の踏み跡をたどって滝上に出てしまう人が少なくないと思われる。ガスに巻かれたとき、夕暮れ時などに注意が必要である。慰霊碑を基点とするとカールからの水の流れとクロスした道が山側に向かって付いているので、そこを忠実にたどるのが正しい走路であり、決して流れに沿って下りてはいけない。


八ノ沢カールからの下山路詳図

 ヌカカやブヨ、アブなどの虫刺されを軽視することはできない。大きく腫れて強い痒みが長引きく。あらかじめ抗生物質が配合された軟膏などの薬の持参を強くお勧めします。(塩野義製薬の「リンデロンVGクリーム」を使っているが、万一腫れても2日程度で直る。これは医師の処方により購入したものだ。なお、今回持参した金鳥の渦巻ミニサイズは携行性もよく汗を一杯かいてテントを設営しているときに群がるヌカカ等に極めて有効であった。ハッカ油は持続性に難があるが、長めの休憩時間中に役に立つ程度と思っている。


ハイマツが行く手を遮る ここを1823峰へと進む

 今回は5日間の縦走であった。初めてSKINSのタイツを着用して歩いてみた。日高の山では、ハイマツ対策としてズボンは厚めのものが必要なので、LATERRA(ラテラ) ボルダリングWRパンツ L-T6094の下に着用した。ただこのズボンは(2010年に廃盤となっています)綿33%混紡なので濡れると十分に水分を含む。濡れてテントに入りラテラのズボンを脱いでみると、SKINSのタイツに顕著な濡れはない。テント内を濡らすこともなかった。それ以上に、SKINSのタイツは足腰の筋肉をすっかり包んでくれて筋肉痛は見られず、下山後少しのストレッチで全身の倦怠感もあっという間に霧散してしまった。※日高山脈縦走装備一覧表は、こちら(旧バージョン)とこちら(新バージョン)で!なお、ハイマツ漕ぎをすると、ズボンやスパッツはすぐ松脂で汚れ、ハイマツの枯れ枝でぼろぼろになる、お気に入りの新しいズボンなどは着用しないほうがいいだろう。

 降雨のときに、合羽(レインウェアー)やゴアテックスの靴などが雨に濡れないで快適な環境を保ってくれるとの幻想は、いずれの登山においても期待すべきではないだろう。降雨時でなくても、早朝のハイマツ漕ぎ、雨後のハイマツ漕ぎではいくら防水処理をしていても登山靴内はしかるべき時間を経過すると大いに浸水してしまう。このことの原理は、SIRIOのパンフレットに記載されている、参考に。

 以上のような心構えと準備をして出発した2009年のカムイエクウチカウシ山〜ペテガリ岳縦走は、天候の影響と気力の減衰でカムイエクウチカウシ山〜コイカクシュサツナイ岳(カムエク〜コイカク)の縦走に終わった。折りしも北海道の山では大量の遭難者が出た直後(とかち毎日新聞から)であり、周囲の人からはさまざまなご心配をいただい。安全登山に努め、おかげさまで無事縦走を終えることがでた。


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