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花三昧の北アルプス 朝日岳〜雪倉岳〜白馬岳縦走

2006/ 7/22〜26


 2日目 (7/23)


ほぼ登山者用 瀬戸川に架かる橋

 予報は午後からの天候の悪化を伝えている。今日歩く五輪尾根の単純な標高差は1,000mほどだが,沢を2度渡らなければならず,標高を上げてもいくつもの高原湿原を通るコースは長い。予定より遅れて04時50分に出発する。

 アヤメが咲く兵馬の平を過ぎ急坂を下りると瀬戸川が轟々と音を立てている。渡渉はどのようにしても無理な流れであるが,崖をトラバースして進むと,よくぞこのような場所にこのような橋をと思うような頑丈なコンクリートの基礎の鉄の橋が掛けられている。登山道の両脇の草はどこまでもきれいに刈り取られていて,橋といい,登山に対する国や地元自治体の力の入れ様が強く感じられる。


オオサクラソウ

 白高地川の流れ自体は瀬戸川より少なく,北海道の山なら覚悟の上渡らざるを得ないところではあるが,それでも階段から流れ落ちるような勢いの沢の迫力は満点である。川の両側に巨岩がそれぞれ一つずつあって,この巨岩を覆うように建築の足場が掛けられている。つまり,この五輪尾根から朝日岳に登るにはこのような地元のサポートが欠かせないものなっていて,心から感謝するばかりである。

 白高地川を渡ってカモシカ坂に取り付くと急登となり一気に苦しさが増すが,薄いピンクのショウキランやコケイランが苦しさを慰めてくれる。坂もピークに近づくころ,朝日岳を日帰りするというアスリート姿の青年が追いついてくる。


ヨツバシオガマ

カモシカ坂の途中に登山道をほとばしるように水が流れている。蓮華温泉を出発する前に摂った炭水化物が少なかったせいか,シャリバテを感ずる。この清冽な水を利用し,お湯を沸かしてラーメンを作りお腹の足しとする。

 カモシカ坂から稜線直下まではところどころに湿地があり,湿地はどこも木道が敷設されている。花園三角点付近では,初めてお目かかるオオサクラソウが今咲いたばかりである。オオサクラソウの花はエゾオオサクラソウより端整である。思いもよらないシラネアオイも咲いていて心が躍る。


五輪高原

五輪高原にはニッコウキスゲが広がり,木道の足元の草に隠れてトキソウが咲いている。木道は,よくもこのようなところにまでというぐらい敷設されていて,雪渓が溶けた大きな湿地にはミズバショウやハクサンコザクラやイワウチワが広がっている。


ハクサンコザクラ 五輪高原

 向かいの雪渓をカラフルな服装をした2人の女性が下りてくる。望遠レンズを首から提げている。足取りはしっかりしていて,ザックの容量からみると前日は朝日小屋に泊まったのだろう。

 登山道が樹林帯や湿地を抜けると,赤紫のミヤマアズマギクがちょうど咲いたばかりであった。 どの花にしてもそれぞれ自分の立ち位置で咲いていて,一つの例外もないように見える。赤男山の頂上はすっぽり濃いガスに覆われているが,ガレ場にシロウマアサツキが咲き,ハイマツ帯に差し掛かると咲き残ったピンクの鮮やかなタカネバラが出迎えてくれる。


ミヤマアズマギク

 五輪の森を過ぎ五輪山の山腹からの水を飲んでいると,朝方追い抜いて行った青年が戻ってくる。しばらく山行のスタイルの話などをしていると,今来た道の脇にキヌガサソウが咲いているのが見える。今年初めての花だが,登山道がところどころ悪くガケとなっていたことから目に入らなかったようだ。下山しようとする青年の後ろについて花の写真を撮りに行く。前の青年の足元を見ながら進むと,青年の右足に掛けた土砂が滑り青年はもんどりを打ち,岩場を何回転もして滑落していく。


赤男山から派生する尾根を遠望する シロウマアサツキ

 平らとなった登山道脇に横たわった青年に「大丈夫か。」と声を掛けると,「なんともないようです。」と言って立ち上がり,あちこち体を動かして異常のないことを確かめる。テント装備の単独行,携帯電話は通じない山域である。今日はまだ一日目であり,慎重に歩かなければならない。


タカネバラ

青年によるとここからは雪渓が連続し,稜線の千代の吹上に上がるにはアイゼンが必要だが,先の女性がどうしても着装せよと言って渡してくれたそうである。雪渓を3か所渡ると栂海新道分岐の稜線に出たが,稜線に出た途端ガスが強く吹き付けてきて,天候の悪化が顕著となってきた。

明日往復する予定の栂海新道方向を見やると長栂山が鋭角に聳え立ち,登山道は濃い樹林帯を縫っているようなので,このままの天候ならば新道には入らないことに決める。

千代の吹上のコルから朝日岳の頂上へと向かう。シナノキンバイが斜面を覆い,イワギキョウが登山道脇に咲いている。そしてなにより,花期はとうに過ぎたとはいえ,ガレ場はウルップソウで覆われている。しかし,ウルップソウが見られるころの6月中旬では,相当熟達した者でなければこの地には達することができないと思う。


親子連れもいた 朝日岳への登りで ライチョウ

ガスは相変わらずである。登山道もそんなに先までは見通せない。だが,見てはいけない生き物に出会ってしまった。小さい体なのに,重い荷物を背負った人様より速い足取りで登山道を進み,ハイマツの中の岩にすくっと立った。デジカメを望遠にし見当をつけてシャッターを押すと,ライチョウの勇姿があった。「良く来ることができたね。」と言っているような,「邪魔されたな。」とでも言って怒っているような物怖じのしないライチョウから離れた。

朝日岳の頂上は北側がハイマツに囲まれ,南側はガレ場となって広がっているが,展望はまったくない。今日の現在位置確認のメールが通じたところでイブリ尾根に進み,朝日小屋を目指す。


水谷コル近くで キヌガサソウ

抉り取られた登山道を雨水が流れる。湿潤なところにはキヌガサソウが群落をなし,サンカヨウが純白の可憐な花を咲かせている。水谷コルからは木道が敷設され,ハクサンコザクラが新鮮な花を付けている。朝日小屋は目の前となった。それにしても五輪尾根は花の大回廊であり,類を見ない。

 重いザックをベンチに置き,テント場使用の申し込みをするために小屋に入る。時刻はちょうど午後4時となっていた。

朝日小屋の管理人が女性であることは知っていたし,HP上で雪倉避難小屋の使用を厳しく諌めている人であることも知っていた。
  「どこを何時に出たの?」
  「8時間が標準なのに遅いね。」
   「お歳はいくつ?40代?」
   「荷物を持ちすぎなのじゃないの。」
   「これがあなたの山の実力なのよ。」
   「グリーンパトロールがもう一人上がってくるという話を聞いたというが,あなただったの。」
   「明日はどうするの?」
   「今日のことを考えると,明日はもっと早く出て行きなさい。」
   「何?天候が悪ければ雪倉避難小屋に泊まるかもしれないって。あそこに泊まってはだめよ。」


ロケーションはいいが 小屋番は手厳しい

 ここまで言われながらテント場使用代の500円を黙って払い,テントを設営するのであった。さらに缶ビールを買おうと小屋の戸を開けると,管理人は週末なのに数少ない登山者を相手に,
  「装備は厳選して持たないと重くなって遭難するのよ。」
  「死の寸前ということよ。」
などと,まだ話している。

 例年より積雪が多い上に,北アルプス周辺地域の集中豪雨が登山客を遠ざけ,宿泊予定者1,000人のところ,7月に入って70人だけの宿泊者では,儲けにならないテント泊者に辛くあたるのも仕方がないのだろうが,いただけない。


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