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2日目

ピパイロ岳〜1967峰〜戸蔦別岳〜七ツ沼縦走
2004/ 7/15〜18


戸蔦別岳と北東面カール小カール群

 2日目 (7月16日・金)

 幕営地の周囲には低木があるが風除けとはならず,ほぼ稜線上に設営したテントは,夜半から,ヌカビラ岳を越える風によって容赦なく揺らされる。明け方には雨も降ってきて,雲の流れも早くガスが稜線全体を覆っている。

 午前5時には出発の準備ができていたが,ガスが晴れず風も弱まらないので,様子を見るため7時まで停滞すると,十勝平野が明るくなってきて次第に雲も高くなりつつあった。小鳥のさえずりも賑やかで,長大な尾根を一人で縦走する意欲も湧き上がってきたことから,すっかり濡れてしまったテントを畳んでザックに括りつけ,1967峰へと向かう。(07:15)


岩峰に咲くエゾツツジ

 1967峰の手前にある1793mのピークへの登りは,腰までのハイマツに雨露がついていて,下草も濡れていることから,レインスーツを着込んで進む。1967峰のコルには仙台のツアー客が泊まっていたはずであり,この人たちも稜線を先へと進んでいるに違いないと思っていると,1793mのコブでグループの姿が見えた。聞くと,昨日は1901mまで進んで撤退したという。1901mは北戸蔦別岳の直前にあるピークであるが,この間切り立った岩場をへつり,あるいは岩場を上り下りしなければならなかったことから,失礼ながらメンバーの構成を見ると撤退を余儀なくされたのであろう。また,1967峰のコルの水場では水が採れなかったはずであるから,その要因もあると思う。
 


仙台のグループ  (1911mからズームで)
日高の山に多人数のグループ登山・ツアー登山はふさわしくない

(1911mからズームで)

 この人たちが泊まったテント場は,この稜線上ではテントが数張り張れるわりと広い場所ではあるが,10数人が一度にテントを広げられるものではない。そのため,フウロソウやキンバイソウの咲くハイマツの周辺の草場が一面なぎ倒され,一部木も切られていて痛々しい。チシマフウロ,ヒダカキンバイなどが倒された場所は,下山時には草が枯れて茶色になっていた。

 1967峰(08:40)への登りは,稜線を南面に少し下った頂上直下まで続くお花畑の中を通って行く。天候も回復してそよそよと吹き寄せる風が心地よい。頂上から1904mまでの間の道は,それまでの優しい顔と違って,岩が積み上げられた荒荒しい肌を見せているが,要所要所を注意して行けば難しいところはない。


チシマギキョウ

 しかしながら,しっかりと岩をホールドせずにいて,ザックが振られるなどしてバランスを崩した場合,間違いなく谷に滑落する場所が数か所あり,2日後の18日には,ヤオロマップ岳と1839峰の間で旭川の男性が稜線から150m滑落して死亡していて,油断してはならない場所である。伏美岳から幌尻岳までの間は,日高でも「一級国道」と呼ばれている所ではあるが,総じて歩きやすいというだけで事故の可能性はいつも存在し,ましてや天候の急変時にはそのリスクは大きく高まることを肝に銘じなければならない。

1904m(09:15)でようやく急峻な岩場を抜け,十ノ沢を左手に見下ろしながら,くの字のコブを左に折れて進む。ここからは稜線上の岩を抜け,ハイマツを主体とするヤブとお花畑を交互に通過する。コブと1856mの間のピークの途中,1856m(09:50)から1901mの途中は,一面のお花畑となっていて,その中に細い登山道がつけられている。


1856m付近の岩稜

  お花畑は,まさに百花繚乱の状態であり,谷へ至る斜面はミヤマキンバイがびっしりと咲いていて,別世界の雰囲気を醸し出しているが,登山道周辺だけでも今年の春先に掘り返されたと思われるヒグマの掘り返し跡が多くある。1901m(10:15)からは,ヌカビラ岳から北戸蔦別岳に続く登山道が見えるが,人の姿はまったくない。北戸蔦別岳からいったん下りて幌尻岳分岐まで登り返し,カンラン岩が露出している山肌を登って戸蔦別岳頂上に至る。カンラン岩のある場所には,固有種が生育していることが多いようではあるが,ここには,目立った植物はなく,ミヤマシオガマやチシマギキョウが咲き,タカネナデシコと思しき蕾が見られるだけである。 

 戸蔦別岳頂上には,戸蔦別川を遡行してきて前日から七ッ沼カールにテントを張り,今日は幌尻岳に登り戸蔦別岳にきたという男性が一人いて,写真を撮っている。「日高は人が少なくていいですよね。でもこの2日間,誰にも会わなかったので,今日は人に会えて本当によかった。ほっとしました。幌尻岳には誰もいませんでした。」と言って,七ッ沼まで一緒に行くことになった。(13:31)


カンラン岩に咲くタカネシオガマ

 幌尻岳へのアプローチとなる日高側の林道が寸断されている現状では,長大な稜線をたどらなければ幌尻岳の頂上でたどり着けず,1793mからは誰にも会うことがなかたから,こちらとて同じ想いであった。戸蔦別岳から見た七ッ沼にはテントが一つ,ポツンと置かれていた。

  七ッ沼は,幌尻岳と戸蔦別岳に挟まれたカールにある沼で,稜線からは急なガレ場を30分ほど下る。ここが今回のハイライトであり,北海道の山に登るようになってあこがれていた幕営地である。この自分に七ッ沼でテントを張ることができるだろうか,いつかは必ずこの地にあって,沼と高山植物に囲まれて夜明けを迎えたいとの希望がかなえられる瞬間である。(14:00)このテントを張るために要した2日間の疲れを癒す雪渓を流れる水は,清冽を極めている。手ですくって口に含みじっくりとその味を味わう。十分に喉を潤したあとは,ゆっくりと水を顔にもっていき,水の冷たさを感じる。あ〜,ようやく七ッ沼に着いた。よくやったと自分を誉める。


七ツ沼

 テントを設営すると,チングルマやハクサンイチゲ,ミヤマアズマギクが盛りとばかりに花咲く沼の周辺を散策する。幌尻の肩が沼に映え美しい。いく筋もの雪渓の水の流れが音を立てて沼に吸いこまれていく。たった2つのテントでは,それぞれ夕食の支度が始まり,そして眠り就く。(19:00)


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