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道南の花の名山 大平山
(おびらやま)
2011/ 6/20


ミヤマキンポウゲ


 6月20日 

 今日が2011年初夏の北海道の山登りの最終日である。向かう先は道南の島牧村。昨日は芦別市の崕山(きりぎしやま)に、崕山自然保護協会主催のモニター登山会への参加として登った。下山後の反省会を終えてから芦別市で日帰り温泉で入浴したが、大平山に向かったのはもう日も暮れるころとなってしまった。今日は高速道路の「休日1,000円」の最終日。芦別市から島牧村までは約300km近く走るのだが、まさか高速道路のサービスエリア内のガソリンスタンドが夜は営業していないとはつゆ知らず、ガソリンの残量が乏しくなったレンタカーに給油する術がなかった。


チシマフウロ

 
 もう時間は夜の9時なので一般道に出ればあるだろうと思ったのも間違いであった。大平山に行くには道央道を長万部で下りるのが便利なのだが、その街のガソリンスタンドもすべて閉まっていたので、一つ先の街の八雲町に車を走らせる。そこまで30数キロほど行くと1軒だけ空いていて一安心、また同じ距離を戻って大平山の登山口がある島牧村に向かう。この山には昨年も登っているので、道も林道の雰囲気も分かってるが、林道終点の真夜中の雰囲気はさすがに怖いものがあった。


エゾスカシユリ

 狭い日産マーチの後部座席で数時間仮眠を取って夜明けを迎える。昨年は意気込んで朝4時に出発したが、コース配分も分かっているので、今年は5時出発とした。天気は徐々に良くなるとの予報だったが風だけは強く、これは海岸沿いの山だから影響を受けやすいのだろう。陰鬱とした樹林帯を縫った踏み跡(登山道とは言い難い)を辿って高度を上げるが、すぐ汗まみれとなる。それに蚊などの吸血虫が纏わりつくが、昨日の崕山ほどではない。


 森林限界から 

810mピークから1109mピークを見る

 谷筋の道を延々と登って、さらに尾根に付けられた道をこれでもかというほど登るとポコッと森林限界に出て、そこには見晴らしのいい草原が広がる。いくら花の山とはいっても、この時期に花を楽しむには1109mの石灰岩が露出した基部に達しなければならない。それでも丁寧に見て行けば何種類かの花は楽しむことができるが、気持ちは先に進んでしまっている。


ミヤマアズマギク

 第二ピークの岩場に差しかかる。エゾノハクサンイチゲとミヤマアズマギクが一面に広がっている。ハクサンチドリは多くはないが、色が濃く見事な咲きっぷりを見せている。高層草原は爽やかでこの風景を見るだけでも千金の値がある。でもこの山にはお金に換えられない固有種オオヒラウスユキソウが咲くのだが、時期的にはまだ早そうで、ウスユキソウを見かけることはなかった。


ミヤマアズマギク

 それにしてもこの山のミヤマアズマギクは見事の一言に尽きる。山の斜面を覆うミヤマアズマギクは、この日の強風とときおり日が陰ると言った条件から、山の斜面を覆うミヤマアズマギクを撮影したつもりがいい画像を残すことができなかったが、ミヤマアズマギクの展開は想像を絶する世界であった。


ミヤマアズマギク


 昨年はミヤマオダマキが最盛期の見ごろだったのだが、今年はもう鞘を付けて結実しているものがほとんどだった。それでも1109mのピークを巻くようにして付けられた北東斜面は残雪が遅くまであるからだろう、今が旬という状態で咲き誇っていた。憧れの山「大平山」のあの花この花を見ながら先に進んでいく。


ミヤマオダマキの集団



 シラネアオイは、それまでもボツボツとは咲いてはいたのだったが、ミヤマオダマキの集団をやり過ごしてからはシラネアオイの独壇場と言っても過言ではない状態となった。北海道で感激したシラネアオイの群落として夕張岳、オロフレ山、来馬岳が挙げられるが、大平山のシラネアオイはそれらの山とはまったく違った趣がある。
 それは、木陰とか沢沿いにあるのではなく、遮るもののない高所の開けた開放的な石灰岩地質の場所でのびのびとおおらかに花をさかせているということだ。この先の稜線の岩塊には斜面を覆い尽くすほどのシラネアオイが咲いている。


シラネアオイ

 大平山のシラネアオイはおおまかに、登山口からの樹林下、稜線に出てからの岩場と岩屑がたまった緩斜面、岩塊斜面、それに頂上手前の灌木地帯に分布しているが、その咲きっぷりはいずれも見ごとと言うほかない。岩場のシラネアオイはどれもが矮性で群生(密に集まってはいない)はしていないが、斜面を覆う様は圧巻で花に圧倒されてしまう。


ミヤマオダマキ

 ミヤマオダマキもシラネアオイと同様、岩稜の全山を覆っているといって過言ではない。実際は岩場に多くあるのですが、足を掛けるその岩この岩、手を伸ばすあの岩こっちの岩にと植生があって、ダメージを与えないようにするのが大変だ。これほどの群落地を見たことがないので、しまいにはため息をつくしかなかった。


ミヤマキンポウゲ

 乾性の場所を過ぎると湿性の花が現れれる。ミヤマキンポウゲが広大な斜面を覆っている。ここは遅くまで雪が残るのだろう。大平山の頂上に着くには藪を2〜3回漕ぐのだが、途中の藪の中に、そして頂上手前の東側斜面に雪が残っている。そこはカタクリと見事な発色のシラネアオイが咲いている。


カタクリ

 頂上には着いたが、そこは無味乾燥な笹に囲まれた場所である。無味乾燥とは言いながら高所に咲く花は数種類咲いている。ザックを下ろしたりして休憩するのもその時間がもったいないので、すぐ踵を返す。


頂上手前の雪田

 再び石灰岩に覆われた稜線に戻ります。途中で登ってくる男性とすれ違う。軽装でただ山歩きを楽しむだけのようであり、あまり花には興味を示していないようだ。私と言えば「のんびり」と言えば聞こえはいいのだが、だらだらと花の写真を取ながら歩くので、しまいにはその人が先に下山していく。
 ここで不思議な光景に遭遇する。私が朝一番に山を登って頂上に着き、そのまま往復してきたにもかかわらず、登りでも頂上にもいなかった3番目の人間が後ろにいるのである。この山に登る道は1本しかない。ということはこの人間は私の後に登ってきてどこかに潜んいたのか。遠目に右に左に自由にお花畑の中を闊歩している姿が見える。まるで野生のヒグマのようで、人間と分かっていてもその姿に鳥肌が立つのだった。(エコ島牧の記述を見ると、「盗掘者」は沢や登山道でないところから植生の場所にアプローチすると言うから、その所作からもその疑いが濃い人間であった。)


大平山

 今回の大平山では、最高の花見を楽しむことができたが、藪にでも隠れていただろう気色の悪い人間の姿を見て後味の悪いものになってしった。下山時に登山ボックスの記載を確認したところ3人目の者の名前は書かれておらず、林道終点には軽装の人のバイクしかなかったことから、特別の目的があったのは間違いないだろう。大平山では盗掘防止のためにグリーンサポートスタッフが監視業務に当たっているという。


清楚


 そのようなつまらないシーンは忘れよう。この無垢なシラネアオイの画像を見ていると、また大平山に行きたくなってしまった。


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