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道南の花の名山 大平山(おびらやま)
2010/ 6/16


下山中の風景


 6月15日(前日) 

 望の北海道の山登りとなった。今回は、北戸蔦別岳を基点に、ピパイロ岳往復、幌尻岳往復ののんびりとした3泊4日目の計画を立てた。しかし、出発の日が近づくに従って予報は悪い方向に向かっている。直前になって、日高地方の1日目は80%の降雨確率、2日目は曇りの予報となった。

 そこで予定を変更し、雨が降ろうが1日目は長年の憧れであった、道南の花の山「大平山」を登り、テガタチドリなどの赤色系の花を見ることを楽しみにした。この山については、ガイドブックに載っていないことから、「一人歩きの北海道山紀行」及び「北海道あれこれ さっぽろ発」の登山記録、sakagさんのGPSログを参考とさせていただいた。


好きです、羊蹄山 そして避難小屋

 新千歳空港でレンタカーを借り、風不死岳(支笏湖)〜羊蹄山〜ニセコアンヌプリなどの山々を見ながら走ることができるコースを採り、寿都経由で島牧村から宮内温泉を経由し、登山口手前の河鹿トンネルを出たすぐ先で車を停める。すぐに車中泊の態勢に入る。特定の目的がある者以外訪れることのないであろう山奥のどん詰まりの場所にある長大なトンネル内は、煌々と照明がなされている。おかげで寂しさが1%ほど癒される。


 6月16日(当日) 

 まだ夜は明けきらない。空はどんよりしている。雨が降ろうが登るのだということで、気力充実である。午前4時20分、河鹿トンネルを出発し、登山口へと急ぐ。右手は大きな流れの泊川、左手の山側はうっそうとした森林だ。別に恐れることはないと強がってみても、いつでもヒグマが出てきそうな雰囲気だ。特大の熊鈴をザックに取り付け、ホイッスルを何度か鳴らす。

 この山の登山口に至る国道や道道、車の終点、登山口までの林道のどこにも案内板や登山口方向を示すものは何も設置されていない。それは地元の「この山には積極的には入ってほしくない。登ってほしくない。しかし、あえて禁止はしない。」という姿勢の表れであろう。山肌を切って道路を取り付けた、非常に険峻な林道を通って来なければならなかった昔、アクセスの非常に悪い山奥にわざわざ登りに来るには、それだけの(あってはならない)余禄があったことも関係したのでは・・・。


樹林帯の尾根を乗っ越すと広大な草原が広がる

 かく言う本人も、今ではめったに見ることができなくなった花にお目にかかりたいというのが正直なところだった。さもなくば、雨の中をわざわざ誰が登るであろうか。そのようないきさつを持って、登山道に入る。するとさっそくミヤマエンレイソウ、ニリンソウ、サンカヨウ、マイズルソウ、ナルコユリ、ユキザサにシラネアオイまでが出迎えてくれる。かつて多くに人が登ったことでえぐられたのであろう谷筋の登山道を、ブナの木が生い茂る尾根を乗っ越すようになると、結実したカタクリが目立つ。樹林から出ると雰囲気のいい草原が広がり、チシマフウロ、ミヤマキンバイ、ミヤマキンポウゲのほか、エゾカンゾウも数輪咲き始めている。このぶんだと、もしかしたらあの花に逢えるかも・・・。


1109mへの登り

 おびただしいチシマフウロの花に彩られた、気持ちのいい草原を快歩する。傾斜を増して810mピークへ、そして石灰岩質の岩が露出した1109mピークに近づく。オオヒラウスユキソウは葉を出して間もないものとみえ、花は咲いてはいない。草丈数センチメートルというところだろうか。その先では、ミヤマオダマキやミヤマアズマギクが鮮やかな姿を見せる。ミヤマオダマキとミヤマアズマギクの群落は圧巻の一言である。

 1109mのピークへ続くと思われる踏み跡があるが、トラバース状に歩かれている登山道に従って先に進む。相変わらずのお花畑で、エゾノハクサンイチゲが姿を現す。次第に猛烈なハイマツ、ダケカンバ、クマザサに覆われた道となる。明るい藪の下にはシラネアオイが咲き、藪を出ると雪が融けたばかりの登山道脇や斜面でカタクリが今が盛りと咲いている。


1109前の登山道脇で ミヤマアズマギク

 それからも藪を漕ぐと、雪田にポッとでる。そしてまた藪を越えて雪田を渡るとそのもう少し先が大平山の頂上となる。最初の雪田に乗って藪の中にあるであろう踏み跡を探す。雪田を1周しても2週してもそれらしき兆候はない。思い切って藪に突入し軽い尾根上の背に乗ろうと目論む。酷い藪だ。我慢して30mほど進んで藪が薄くなったところに出るが、踏み跡はなかった。いったん雪田に戻る。

 藪を漕いでいるとき、ウェストポーチに入れたデジカメとヘッ電が気になり、ファスナーの締まり具合を確認したはずなのに、パックリと開いていて、あろうことかラジオはあるがデジカメなどがない。もう一度藪に入ったところで、同じところを歩くことができるはずもないし、単純に藪を往復したわけでもないから、探し出すと言うことは不可能だ。札幌に寄ってデジカメを買わねばならない、時間と金が惜しい。なにより大平山の画像がなくなってしまう・・・。


新鮮すぎるミヤマアズマギクとミヤマオダマキ

 今回の北海道の山のために、ザックは75リットルを用意した。急きょ登ることとなった大平山には、フレームを使用していないポケッタブル仕様で、雨蓋に本体を収納可能な、モンベルのバーサライトパック20を持ってきていた。そして、もしものときのために雨蓋にGPSを入れログを採っていたことを思い出した。

 いくら精度のいい(と思っている)GPSであっても、完璧に忠実にトラックバックできるわけではないが、一度試してみて、発見できなければ下山しようと考えた。せっかく大平山が目前の場所まで来たのに残念至極である。ともかく藪に再突入する。


雨が強くなってきた エゾノハクサンイチゲ

 先の見えない徒労は、いかなるときでも楽しくない。2度目の藪への突入もとにかく困難だ。もう折り返し地点だ。と先に目をやるとそこになんと、デジカメなどを入れたオレンジ色の防水袋があった。あまりの奇跡的なできごとに小躍りしながら、軽やか?に藪から脱出して雪田に立つ。次なる仕事は次の雪田に抜ける道の発見だ。

 背の低い藪を選んで3度目の藪突入も、勝算のない無謀な行いだった。また戻ってじっくりハイマツの下部をのぞき見ながら雪田を周回すると、ハイマツの奥に退色したテープを発見する。雪が降り積もってハイマツなどをなぎ倒していたことから、藪の下部を探しても踏み跡を見つけることができなかったのだった。


咲き始めたばかりのミヤマオダマキ

 風雨が強くなる。午前7時50分、ようやく大平山の頂上に立った。ハクサンチドリが一輪咲いているだけで、周囲は小笹と潅木に覆われているだけの、味気のないところだった。

 頂上でわずかの時間滞留し、下山し始める。多くの花を見てきたので、帰路は一つの花に注意を向ける。どこにでもありそうでいて、どこにもない。あの、もうそのものの内容を見ることができないホームページの記述では、この辺だったのだろうか。本州のあそこの標高がこうだから、北海道の山ではもっと標高が低くてもあるのではないかと、目を皿のようにして慎重に歩くが、残念ながらご対面とはいかなかった。午前10時ちょうどに河鹿トンネルに戻る。


810mピークの登山道脇で エゾスカシユリ

 所要タイムは、登り3時間30分、下り2時間20分であった。雪田でのロスタイム、花の写真撮影の時間を差し引けば、なかなかの調子で歩くことができた。宮内温泉の主人に「もうないのでしょうかね。」と問うとあいまいな返事だったので、わずかな可能性に賭けて、機会があればまた登ってみたいと思う山である。

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