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北アルプス・フラワーロード テント泊縦走記 2011

栂池平を経て白馬大池から蓮華温泉
(1日目)
2011/ 7/15


ハクサンコザクラ (白馬大池)


 7月15日(金) 

 2011年の夏山候補地として、南アルプス・茶臼岳から北岳までのテント泊7日間の縦走を計画したものの、鹿による高山植物の食害が著しく目的としていた花が見られないことが分かった。そこで次に、北アルプス・爺ヶ岳から白馬岳を経由し栂海新道を日本海まで抜ける計画を立てたものの、直前の12日に発生した台風6号の影響を考慮し、最終的には花と温泉を楽しむ白馬大池〜蓮華温泉〜朝日岳〜白馬岳〜白馬鑓温泉のゆるゆる4泊5日(台風の影響を受けなければ鑓温泉2泊)とすることにしたのだった。


ショウジョウバカマ (乗鞍岳雪渓)

 蓮華温泉から朝日岳を経由して白馬岳へのコースは、2006年に一度テントを担いで歩いている。そのときは、前半はバテバテ、後半は強風によるテントポールの折損という悲惨な目に遭ったのだが、今回も懲りずにテントを担いで行くことにした。前回から5年が過ぎたが、ということはそれから5歳も齢を取ってしまったということなので、バテを考慮して食事は山小屋で取ることもよしとした。結果的には昼に山小屋で1食取っただけで通した。


タカネバラ (乗鞍岳)

 問題は人生最大の楽しみである登山後のビールだ。これだけは冷え冷えのもので喉を一気に潤したいので山小屋で調達することとし、お気に入りの日本酒「秩父錦」だけをザックに忍び込ませる。今は、山小屋もテント泊の者には食事を提供しないなどと言う狭量なところは(今回調べた種池山荘から蓮華温泉までの間には)どこにもなく、その点では気が楽だが、それでも全行程の食事の用意だけはして出発する。


白馬大池

 はるか以前なら、爺ヶ岳や白馬岳周辺に行くには新宿発の夜行でとか、あるいは夜行バスだったのだろうが、今は新幹線で長野駅に行き、そこからはアルピコ交通の急行バスで容易にそれらの地に疲れずに行くことができるので、朝6時過ぎに自宅を出ると午前10時前には今回の登山口となる栂池高原に着いてしまうのだった。栂池高原からはゴンドライブと栂池ロープウェイを乗り継いで村営栂池山荘に出ると、そこから天狗原までの樹林帯の登りが始まる。


チングルマとハクサンコザクラ (白馬大池から船越ノ頭)

 天狗原は高層湿原なので、花を目当てにここまで来る人も多いのだろうが、この日はほとんどが白馬大池まで行く人たちのようだった。ロープウェイの終点栂池自然園から天狗原までのコースタイムは、地図上では1時間20分だが、今日の私はどうしたことなんだろう。テント泊5日分の荷物を入れたザックを背負って1時間10分で着いてしまうし、ほとんどの登山者を追い抜いてしまった。そのようなことはあまり自慢にもならない話だが、いつもなら初日の登り始めはバテバテで最後っ屁になるのに、今日は蒸気機関車並みの息遣いではあるものの、サクサクと高度を上げていくことができる。


イブキジャコウソウ (天狗の庭)

 天狗原で小腹を満たしたのちに、チングルマが咲く湿原の中の木道を歩く。やがて登山道は大きなゴロゴロした岩に変わると、その先に長い雪渓が続く。前回は、蓮華温泉から朝日岳の間の雪渓で怖い思いをし、通りすがりの雪渓から下りてきた登山者にアイゼンを譲ってもらったという人に言えぬ経験をしたので、10本歯のアイゼンを持ってきた。アイゼンを装着して雪渓に取り付くと体力のロスなく乗鞍岳へのハイマツ帯に至る。この雪渓は、2000年に山の会で下りに歩いたことがあるが、その時はとても怖い思いだったことを覚えている。

 ゴロゴロした岩を飛びながら伝って乗鞍岳から白馬大池へと休みなく歩く。それというのも、天狗原から白馬大池を経由して蓮華温泉までの所要時間は4時間もあり、白馬大池で目当てのハクサンコザクラを見る時間も考える必要がある。また、白馬大池と蓮華温泉の中間にある天狗の庭も花を見るには面白そうなところなので、蓮華温泉到着が遅くなってしまうことを危惧する。


蓮華温泉キャンプ場

 白馬大池は、まごうことなき花園だった。その花園のすぐ脇がテント場になっていて、ハクサンコザクラやチングルマが今が盛りと咲き誇っている。何張もテントが張られているが、テント脇の流れでたくさんのビールを冷やしている登山者がいる。翌日の朝日岳の頂上で出逢った人にその話をしたところ、当人であることが分かり、朝日小屋のテント場では隣どうしにテントを張り、夕飯のご相伴にも預かってしまったのだった。

 この方は年代的にも同じで、山登りに対する嗜好も同じようだった。人生をおおらかに過ごし山を積極的に楽しんでいる姿は、まさに第一線を退いた今の自分が追い求めているスタイルで、山岳会に属し音楽を愛する方だが、自分と言えばあれほど通っていたバイオリンのコンサートにもここしばらくは行かなくなってしまっていて、偏りが過ぎるとは思うものの、今のところは如何ともしがたいのも事実ではある。


蓮華温泉 仙気ノ湯

 さて、天狗の庭は予想どおりのお花畑だった。ここはそれほどの広範囲ではないが、蛇紋岩が露出している。ミヤマムラサキ、タカネバラ、イブキジャコウソウが咲いていたが、特筆すべきはユキワリソウである。北海道日高地方のアポイ岳にタカネバラが咲くかは定かではないが、ミヤマムラサキの変種であるというエゾルリムラサキやイブキジャコウソウ、ユキワリソウの仲間のサマニユキワリが咲くので、地質・環境が同じと言えるのではないだろうか。北海道のとある場所、ヒグマが出没するところにサマニユキワリの大群落がある(ネットでは検索不可能な未知の場所)が、天狗の庭に北の山の郷愁を感じるのだった。

 白馬大池でハクサンコザクラに見とれている間に、7〜8人のグループが蓮華温泉に向かって歩いていきた。途中で何人かを追い抜いたのだが、その人たちはBSフジテレビのクルーと俳優さんにボッカの人だった。そのようなことは露知らず、蓮華温泉の露天風呂に向かうとそこではロケの準備が始められていた。責任者の方が「お騒がせし雰囲気を損なって申し訳ありません。」と謝りまるが、全速力で歩いてきた身体は「仙気ノ湯」を渇望している。撮影に勤しむスタッフをわき目に秘湯の源泉を楽しむ。ついでに何枚かスナップショットを撮ってもらったが、公序良俗の観点から使用できるのは1枚しかなかった。

 この取材は、BSフジが毎週金曜日に放映の「絶景百名山」とのことで、蓮華温泉での模様は8月19日(金)に放映が予定されているとのことだった。なお、ディレクターは山の達人のようで、私のこの先の計画を知ると、「台風6号が来ているが、鑓温泉でのんびりしすぎると鑓温泉〜猿倉間の雪渓の崩落と猿倉の林道崩壊による交通遮断に遭う可能性も十分考えられる。」とのアドバイスをいただいたのだった。

 なお、下山日予定日の19日には、南アルプスの畑薙第一ダム付近の道路の崩壊で山小屋11軒の146人と、聖光小屋への市道の崩壊で4人が孤立しているとのニュースが流れた。当日は、唐松山荘を午前4時30分に発って雨風の激しい八方尾根を下りたが、NHKラジオの天気予報は盛んに山の南東斜面に降る雨に注意するよう促していた。 


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地 点  着  発  歩行時間  休憩時間  コースタイム 
 栂池自然園   11:10      
 天狗原  12:20 12:30   01:10 00:10   01:20
 乗鞍岳          
 白馬大池  13:55 14:05   01:45 00:10  02:00
 天狗ノ庭  14:50 15:00   00:45 00:10  01:00
 蓮華温泉  16:10    01:10    01:00
 総時間     04:40  00:30  05:20