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カムイビランジ
Silene hidaka-alpine
or
Melandrium hidaka-alpinum




厳しい稜線歩きを忘れるひととき

 カムイビランジ(Silene hidaka-alipine)は、日高山脈(中部日高及び南部日高)の岩場稜線上に咲く日高山脈の固有種です。花期は7月下旬から8月中旬とされていますが、これまでのカムイビランジを見るための登山の経験から、おおむね8月初旬が見ごろと言っていいでしょう。気象庁の統計から、7月の上札内での気温を調べ、20度になる日が何日か続いたら見ごろと判断するのですが、そのようなときにピッタリと登山をすることは休みの関係などもあって不可能なので、結局、行って見なければ分からないといったところが本当です。

 カムイビランジの生育地については、 「この地域でとくに基岩との結びつきの強いのはカムイビランジで、花崗岩質の岩石であるミグマタイトにのみ稀産し、赤石山脈のタカネビランジの花崗岩との関係に類似している。」と文献(*)に記されています。この点については、北岳のタカネビランジ、鳳凰三山のタカネビランジの生育地の地質とも似ていると言っていいと思われます。(参考:@北岳のタカネビランジ A鳳凰三山のタカネビランジ )
       * 「北海道日高・夕張山系における高山植物の植物地理学的研究」(渡辺定元 1971/11/30 国立科学博物館専報)

 カムイビランジはミグマタイトを基岩とするということですが、花崗岩質の岩石であるミグマタイトが日高山脈のどこに分布するのかは、新潟大学理学部のホームページに「日高変成帯の概略図」が、日高山脈固有種のカムイビランジが咲く岩場の写真とともに紹介されているほか、日高山脈館が発行の地質図も参考となるものと思われます。

 日高山脈のカムイビランジの生育地と言われる岩場稜線を、2005年、2007年、2008年、2009年、2010年と5回にわたって歩き、稜線上のほぼすべての岩場を見ました。その結果、カムイビランジが生育するいずれの場所も
                 ア 南向きの岩場
                 イ ある程度大きな岩
                 ウ クラックがある岩
                 エ 過不足のないクラックの大きさ
との共通点が見受けられました。ただ、南日高においては岩を覆う他の植物と共生している場所が多く認められました。 

 カムイビランジの個体数は、中部日高では極めて少ないものと見られました。これまで中部日高の同じ場所を3回歩いてみて見ることができたのは、北から@の場所で5株(5つの塊り、以下同じ。)、Aの場所で1株、Bの場所で1株 Cの場所で1株のみでした。南日高では1か所にしか見られなかったものの、ある程度の株がまとまっていることが確認できました。ただ、ほかの方のホームページや文献での花の株の画像を見ると、私が見ていない株も当然のことながらたくさんあるものと思われます。このことについて梅沢俊先生は札幌での講演で「カムイビランジは珍しいと言われているが、結構たくさんある。珍しい理由の一つに厳しい場所にあるということが挙げられる。実際は厳しい沢の源頭に多くあるが、このような場所で目にふれないだけである。」と述べています。

 
確かにこのようなところでは歯が立たない

 2010年の山歩きで分かったことですが、カムイビランジの花弁は非常に薄く、風雨にさらされるといっぺんで痛んでしまうようだということです。この花のいい状態を見るには、登山する前に2〜3日の風の弱い晴天が続いていることが必要とだと思われます。

 なお、この花を見るためには、長時間の沢の遡行、ヒグマとの遭遇、天候の急変、沢の増水、滑落などあらゆるリスクが待ち受けているので、経験者に同行してもらうか、ガイドを雇うなどして周到な準備の下、登山する必要があることを強く認識していただく必要があります。本ページでは、カムイビランジの生育地の詳しい場所の特定は差し控えますが、この山域を歩かれている方には画像でその場所がお分かりになるものと思われます。


南日高及び中部日高におけるカムイビランジの様子

 カムイビランジが日高山脈の岩場稜線以外の場所に生育するかもしれないことは十分にあり得ることでしょうが、沢登りやロッククライミングの技術のない一般登山者にとって、そのような場所に立ち入ることは不可能に近いことです。まして、稜線であってもナイフリッジの岩稜地帯の左右の岩場のすべてを掌握することは危険過ぎて実際上困難です。ただ、5年間5回にわたる日高山脈核心部の縦走の結果、探し得たカムイビランジの生育場所は、次の5か所となっています。これらの場所は、ミグマタイトの分布場所と符合するものと思われます。各生育地におけるカムイビランジの画像は、それぞれをクリックの上ご覧下さい。

■ 南日高      
 中部日高の@ 
 中部日高のA 
 中部日高のB 
 中部日高のC 


梅沢俊の北草花樹(朝日新聞2009年12月31日付け)によるカムイビランジの紹介記事


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