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国指定特別天然記念物 田島ヶ原サクラソウ自生地
2010 / 4/ 21


 田島ヶ原は、埼玉県さいたま市の秋ヶ瀬公園南端にある、荒川流域の低湿地帯であり、サクラソウの自生地として名高いところである。この自生地は、1920年(大正9年)に国の天然記念物に指定されているが、指定に至るには地元の方の長年にわたる尽力あってのものである。この場所は、JR武蔵野線と県道(志木街道)にはさまれていて、さくらそう公園となっているが、そのために多くのサクラソウ自生地が芝生や駐車場となったものと思われ、惜しまれる。

 うららかな春の陽気に誘われて、サクラソウを見に田島ヶ原を訪ねた。平日にもかかわらず、多くの人がサクラソウ自生地内のプロムナードを散策している。ここには、サクラソウばかりでなく、この時期にはノウルシ、アマドコロ、タンポポ、ツボスミレ、オオイヌノフグリ、フキなどが見られる。

 田島ヶ原のサクラソウは、例年、4月中旬が見ごろである。自生地には150万株のサクラソウがあって、このうち30万株が開花株ということで、当日もまだまだ観賞に耐えられるサクラソウが多くあった。背丈の高いノウルシやオギの間から、ピンクの花弁を開いて精一杯自己主張しているサクラソウを見ると、北の大地、北海道の小笹の中に咲くサクラソウを思い出す。

 北海道の開墾が進んでいない傾斜地(表土が削られていないところ)、道路と農地の隙間の地、国道沿いのわずかな場所、山すそなどに(ニホン)サクラソウが咲く場所がある。その場所の多くは樹林となっていて、サクラソウが春の日差しを十分に浴びることができ、盛夏には強い日差しを避けることができるところとなっている。
 その点においては田島ヶ原の自生地も、オギ、ノウルシ、ヤブカラシなどサクラソウより背丈の高い植物が繁茂することから生育の適地となっているものと思われる。また、荒川の低湿地を吹き渡る風が生育によい条件を与えているというようなことを本で読んだことがあるかもしれない。


 北海道のサクラソウ  

 筑波大学の鷲谷いずみ氏はサクラソウの研究を長年続け、その著書に「サクラソウの目」がある。2003年からの2年間の北海道の単身赴任時には、この本を参考に土壌や生育している樹木をヒントに多くのサクラソウの自生地を探し回った。多くの場所を巡ったが、その間、サクラソウの自生地で出合った人はたった一人であった。その方は農家の奥さまで、「こんな花が珍しいの?」と聞いてきた。ここでもサクラソウに出会えたと、ドキドキしながら群生するサクラソウに対面していたのだが、地元の人にとってはなんでもない野の花の一つなんだろうか。


この広い草地ではこれを含め2〜3の塊りしかなかったが雰囲気は最高だった

 牛が放牧されている草地を見るとサクラソウが木に寄り添って咲いていた。ここはかつてサクラソウが一面咲いていたであろうと思われる場所だが、牛が闊歩するようになってから、どうにか大樹の根元のサクラソウだけが踏み付けから免れている。ここがサクラソウの大群落であったであろうことは、少し離れた場所に一面の群落が残っていることでも想像できる。このサクラソウを写していると、数頭の牛に追われそうになってすぐ退散した。


この場所には点々とこのようは塊りがあった

 この場所は開拓から取り残された開墾地脇の原生林(または二次林、三次林)内の窪地である。北海道の樹林の中に咲くサクラソウは、周囲よりわずかに低いところ又は南に面さないところに多い。ここも東に面した斜面にサクラソウが多くあった。

 田島ヶ原のサクラソウ自生地に行くと、今年も作務衣を着たおじさんが迎えてくれる。この人は、田島ヶ原のサクラソウをそのホームページで詳しく紹介している。(こちら
 そのおじさんは、鷲谷いずみ先生のサクラソウ論を厳しく批判している。そのうちの一つが、サクラソウは湿ったところには咲かないというものだが、「鷲谷いずみ」は逆のことを言っていると、氏のホープページ上で厳しく糾弾している。しかし私は、北海道でサクラソウを探し回っているとき、例外はあるものの、ほとんどのサクラソウが窪地で周りより湿っぽいところとか、ある樹木の林床の落ち葉で適度に湿気が保たれているところにあった。そのような体験者から見ると、田島ヶ原のサクラソウ群生地は乾いたところにあるが、それは例外的なものだと思っている。そしてサクラソウが花開くころにはオギやヨシといった背の高い植物に覆われてしまうことが、乾燥地のマイナスを防いでくれているのだろうと思う。この地を訪れた時に、最初にこのおじさんに呼び止められていろいろサクラソウの話しを(結構長々と)聞かされた。たまたま覚えていた鷲谷いずみ先生の本の内容を言って「こんな説もありますよ。」とあれこれ話すとようやく開放してくれた。そのようなことはともかくとして、サクラソウは特に好きな花の一つである。


(完)


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