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静寂の東稜に咲くヒメイワカガミ 滝子山
2007・5・18



南稜の岩場に咲くイワカガミ
 この春に転勤となって職場が変わってからは,片道2時間以上の通勤にエネルギーを割かれ,また,日々の仕事に追い回されて,すっかり山に行く気力と体力を奪われていた。しかし,6月にはカムイコザクラを見たくて日高・ヌカビラ岳〜北戸蔦別岳にテントを担いで登るし,7月にも憧れのエサオマントッタベツ岳〜コイカクシュサツナイ岳の縦走が待っているので,それまでの間何度かロングランできる山に登ってトレーニングをする必要である。そしてそのためばかりではなく,何より,愛しの滝子山が新緑をまとって待っている。お気に入りの寂?尾根(南稜)のイワカガミは今年も待っていてくれるだろうか。

 今回は,ほとんど紹介されてはいない東稜から滝子山の頂上に出て,南稜を下りてみることとした。東稜には南稜同様にヒメイワカガミが咲くというし,駅から登山口が近くコースタイムが8時間というのも,関東近郊の日帰りコースではなかなかお目にかかれない。

 滝子山といえば南稜しかないと勝手に決めていつも同じコースを登っていた。これに東稜コースを加えると歩程は約8時間,東稜は登る人もほとんどなく登山道が明瞭でないということから,GPSにパソコンで国土地理院の2万5千分の1の地図に落としたルートをアップロードして備えた。


東稜1380mの岩稜地帯

 平日ということもあってか初狩駅で下りた登山客はおらず,一人藤沢集落の藤沢子神社に向かう。集落の掲示板には「6月10日 殿平及び鎮西ヶ池の登山道整備を行うので鋸・鎌などを持って集合」などと書かれたポスターが張ってある。登山を楽しむ者の陰にはこのような地元の方々の無償の行為,奉仕があることを覚えておかなければならない。また,この集落の人々は,ただ過ぎ行く登山者に対し挨拶をしてくれて,心が温まるのである。


寄り添うように

 藤沢子神社から812.0mの殿平に向かうと杉林の下にイカリソウやチゴユリが咲き,南面の広葉樹が伐採された跡にはアマドコロが咲いている。殿平からブナの木のほか,コナラを主体とした広葉樹が稜線を覆っていて強い日差しを遮り,道も適度に付けられていて楽しい歩きができる。

 途中見られる花はほとんど何もなかったが,滝子山東面から発生し恵能野川に流れる沢が見えるコルをしばらく登るとゴツゴツとした岩稜となって,イワカガミがびっしりと付いている。まだ開花には時期が早いとみえ,ほとんどが蕾のままであった。


殿平への道すがら


南稜を下る

 滝子山の頂上に着くと,合せて10人ほどの人がいて賑やかしいが,いつもの頂上で新緑に囲まれながらのんびりとした時間を過ごす。南稜に道をとって,秋にはヤマトリカブトが咲くコルを過ぎ,リンドウが咲く急な道をいったん下ると程なく1500mの岩場に出る。断続的に100m以上続く岩場にイワカガミがあるが,東稜と同じくほとんどが蕾の状態であった。

 登り始めたころの滝子山南稜・寂しょう尾根は、道もそれほど明瞭ではなかったが,今ではおせっかい者によってあちこちの岩にけばけばしいペイントで印だとか×印を付けられてしまって興醒めである。ただ,滝子山は細かい稜線が四囲に発達しているので,中央線花ハイキング(山梨日日新聞社刊)の著者のように下山中にルートを外れてしまってあわやという事態にもなりかねない。

 首都圏から電車で2時間と少しで登山口に着くことができて,その上他の山と違って登山道のほとんどが自然林が覆う中を,7〜8時間も歩けることは大変に貴重なことである。滝子山は,これまで同様に大切に歩きたい心の山である。


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