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酉谷山避難小屋・自主ルール


「山と渓谷」(ヤマケイ)は、数少ない山に関する月刊誌の一つです。毎年のことですが1月号には「山の便利帳」が付録として付いてきます。その中で、登山地の情報の一つとして小屋のインフォメーションが掲載されています。2016年も同様で、避難小屋については、埼玉県とともに東京都が設置のものについては「緊急時以外使用不可」としています。文言通り受け取れば宿泊はもとより「休憩」時も利用することはまかりならぬということでしょう。

 ただ、この「緊急時以外使用不可」ということを明示的に紙媒体に載せているのは山の便利帳以外にしか目にしません。ところがこのヤマケイは、山の便利帳でこのような「教育的」な言葉で小屋の使用の制限を謳いながら、NHKでの出演でに名が知れた人が主宰する無名山塾というツアー登山を生業とするものと共催し、「安心登山者養成講座」の一環として、過去に酉谷山避難小屋を利用したツアーを計画したのでした。募集人員20人、参加費20,500円。主眼は避難小屋宿泊+ツェルト・テント泊体験というものです。これはヤマケイと無名山塾が共同企画した掟破りのものにほかなりません。このほかにも、登山ツアー会社や山岳会、趣味のクラブなどが有償・無償で参加者を募って酉谷山避難小屋を利用する計画をときどき目にしますが、その規模と金額からヤマケイ及び無名山塾の謀
(はかりごと)は、商業としての手段にこの小屋を使おうとしたシンボリック的な常識を外れたものであったと言わざるを得ません。ですから、ヤマケイの山の便利帳のインフォメーションは、避難小屋の利用形態に関する記述について言うとは、自分たちの謀がとん挫したことに対する意趣返しと感じざるを得ないという印象を持たれることもあるでしょう。

 酉谷山避難小屋は環境省の補助金を得て設置された避難小屋です。ですから、環境省がなぜ税収が豊富な東京都の事業に国費を投入したのかということを理解する手がかりを得るには、例えば、建て替えなった羊蹄山避難小屋の建築に至るまでの会議資料を参考にするとよいと思われます。このような資料からは、補助金を支出した環境省(=国=国民)が酉谷山避難小屋の利用にどのような利用のあり方を描いていたのかも知るよすがとなるものと思われます。羊蹄山避難小屋は、避難小屋ながら管理人さんが常駐する小屋で、宿泊のために多くの人に利用されています。興味深いのはこれまでは、清掃・掃除についての定めはなく、管理人さんが自主的に行ってきたという立場を採ってきたということです。「管理人」を「利用者」に置き換えると、どこか酉谷山避難小屋に似ていますね。これまで3度、建て替え前の羊蹄山避難小屋に宿泊しましたが、それはそれは素敵な避難小屋です。この小屋に泊まることのみを目的に北海道まで行ってもいいほどで、酉谷山避難小屋とは一味違った雄大なスケールの展望が得られ、小屋の雰囲気も申し分ありませんでした。

 そのようなことを念頭に、酉谷山避難小屋を利用する際の心得的なものを考えてみたいと思います。避難小屋は、正論を述べれば、緊急時に使用されるものとして設置された小屋であることは論を待ちません。奥多摩の避難小屋についていえば、人に迷惑をかけることが、ひいては避難小屋の利用を制限する口実に使われることとなることを肝に銘じておく必要があります。小屋の管理者である役所がダメと言ったらダメであることには異論をさしはさむ余地のないことぐらいは知っておくべきです。先に着いたからなどということで自分のスペースを広く確保し、遅くなった人が肩身の狭い思いをしないようにしてあげましょう。一方で、この小屋の利用を考えている人は、この小屋の週末がどのようなことになるのかの想像を働かせ、板の間もコンクリートの床もいっぱいの時はその状況を即座に察して使えるよう、ツェルトやテントを準備しましょう。いさかいを起こしたり、冷たい雰囲気まま過ごすことは、その場ではトラブルとして表面化しなくても後味の悪いものです。コミュニケーションを双方向でしっかりと図りましょう。

 平成26年度の東京都レンジャーの報告書に次のような記述がありました。
・ 避難小屋の利用
  避難小屋利用者から、先に到着した利用者が避難小屋を専有して飲食し、後から到着した利用者が土間で泊まること
 になったと申告があった。奥多摩地区には、東京都が整備する5か所の避難小屋があるが、こうした専有を目的とした
 利用がいずれでも見受けられる。本来避難小屋は、緊急時の宿泊を可とするものであり、利用があまりにも常識外れで
 あれば、周知徹底すべきであろう。

 この報告書中の「専有」「飲食」「土間」「申告」「周知徹底」という言葉に注目してみました。「専有して飲食」というのは、グループで来た者たちが自分たちだけの世界を作って楽しんでいることを言っているのでしょう。避難小屋で酒を飲みながら寛ぐことを非難される余地はありません。しかし、それが衆を頼んで閉鎖的になり、排他的に場所を専有し、他を顧みずに春蛙秋蝉よろしく喧しくするのなら何も避難小屋でやる必要はなく、下山後居酒屋でやればいいだけのことであり、そのようなことは許されるはずもありません。あくまでも公共の施設であるというところにおける「私人」としての「公」での振る舞いのあり様が求められるはずです。「土間」ということは酉谷山避難小屋の土間を指すのではないでしょうか。それほど酉谷山避難小屋の板の間は狭いのです。「申告」というのはチクリ、あるいはビジターセンターへの苦情、抗議の類のものであり、避難小屋では声も上げられずに悶々としていながら、そのはけ口として公的部門に文句を言うという、現代社会でびくびく生きている代表のようなやり口です。言いたいことがあれば屹然とした態度で、その場で直截に言えばいいのです。最後の「周知徹底」というのは「緊急時以外使用不可」という御触れを管理者管理者としての法的立場を根拠として最終的に下すということにあるという意味・意思が含包されていると考えられます。トラブルは多発するが管理者がその状況を直接に把握できないのだから、一律に使用させないのがコストもかからず、面倒もない一番手っ取り早い解決方法です。そのようなことも想像もできずに好き勝手な振る舞いをすることは己が首を絞める結果になりかねません。

 この報告書にトイレの汚れの現状についての記述はあっても、避難小屋内のゴミについての問題提起はありませんでした。そのようなことを言われるまでもなく、自分が利用したことによって生じた汚れはきれいにしていくのは当たり前のことです。しかし、早立ちが必要なこともありますし、そうしたくても掃除を始めるタイミングになっていない雰囲気の時もあるでしょう。そんなときは残っている人に言葉を掛けるなど気持ちだけ残していけばいいのではないでしょうか。もう、このごろは少なくなっていますが、それでも自分のゴミを意図的に放置して帰る人が後を絶たないのです。あまりにも人として恥ずかしいことです。誰もが「きれいな小屋」「きれいな景色」「おいしい水」などを楽しみにして来ているのです。今日は小屋の利用者は一人だから、誰も見ていないからとゴミを小屋に残したままというようなことが少なからずあるようです。以上のような当たり前のことをご理解いただけましたら、そして少しでも快適に酉谷山避難小屋の利用を考えていただけたなら、2016年の酉谷山避難小屋の利用も楽しいものになるに違いありません。(2016/1/1)

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