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酉谷山避難小屋に1年間滞在したときの放射線被ばく量(推計)
(注意)個人の考え方・判断です。懸念される向きには細心の注意をお勧めします。




その小屋のすぐ向こうに見える尾根で高い放射線量が検出されています。


1 酉谷山が・・・。

  奥多摩の深部の山、それに接する秩父の山には我が家からは、車でも電車でも好アクセスであることから、天気が悪くても、また、縦走後のリハビリ登山としてもよく登っている。また、この山域のとある場所に広大なフクジュソウの群落地があり、最近は年に通算20日以上もこの山域を登ることになっている。中でも酉谷山は、奥多摩からも秩父からも何本もの登路があり、さらに廃道同然の道もあることから道迷いによる遭難や滑落事故なども多く、そのことがかえって緊張感を増し、何度登っても飽きのこないところとなっている。そんな奥多摩の深部の山を、その時々の体力や気分に応じて登ることで、山登りのバリエーションが増えてくる。
  
  秩父・奥多摩の山を、ほかの人はどのように登っているかネットでチェックする机上登山も、暇な時間を潰す楽しみの一つである。「酉谷山避難小屋」をキーワードに検索する。すると、青梅市でシフォンケーキを作っている「ちゃんちき堂」のてつさんが、2011年10月に、奥多摩を歩き放射線量を計ってきたという記録に行き当たった。
 
 このルートは、埼玉県秩父地方と東京都奥多摩地域を分ける稜線を歩くルートだが、標高1600m〜1700m内外の稜線は、気象の変化が里より半日ほど早く現れ、「午後から雨」という予報なら稜線では朝から雨が降ってくると思ってもよい。朝、酉谷山避難小屋で目を覚ますと曇が南方向から流れてきて次第に黒っぽい雲に覆われ、稜線はガスで覆われる。冬の稜線は、秩父側からの強い風に晒され、雪が吹き付ける。

 そのよう地形と大気の流れが、周囲の山に比べて比較的多い放射線量が検出されたことに影響があるかもしれないし、この山域の放射線量が高いと言うこと、そのことが自分の登山に対しどのような意味合いを持つのかについて考えてみた。

2 航空機モニタリング結果

  文科省は福島原発事故を受け、航空機による放射線等モニタリングを行っており、その結果はホームページで公表されている。このモニタリング結果を酉谷山についてフォーカスすると、酉谷山を中心とする稜線は比較的線量が高いことが分かる。

 その中でも、酉谷山避難小屋から長沢背稜を東に進んだ日向谷ノ頭から派生し酉谷に延びる尾根周辺が異常に値を示しており、その値は福島第一原子力発電所から30kmの警戒区域外と同量の毎時3.8ないし9.5マイクロシーベルト(μSv)の高放射線量を見ている。

3 てつさんのブログ「遥か...」からの計測結果の借用

  文科省の航空機モニタリングの結果から、奥多摩の山で高い放射線量が確認されたことがきっかけに、2011年10月21日、てつさんが東日原〜一杯水避難小屋〜酉谷山避難小屋〜雲取山〜鴨沢の間を歩き、放射能測定器(Radi)を用いて放射能を測定した結果は、次のとおり。なお、次のデータ(いずれも地上1mのもの)はてつさんの許しを得て使わせていただきます。引用元のてつさんのブログ「遥か...」に地表の数値ほかが掲載されていますが、、こちらで。

 東日原の登山口=0.087μSv
 一杯水避難小屋=0.195μSv
 七跳山分岐=0.446μSv
 酉谷山避難小屋=0.348μSv(同小屋内床=0.154μSv)
 同水場=0.333μSv
 水松山分岐=0.336μSv
 桂谷ノ頭=0.247μSv
 三峰との分岐=0.070μSv
 雲取山荘テント場=0.085μSv
 同水場=0.094μSv
 雲取山山頂=0.064μSv
 ブナ坂=0.269μSv
 堂所=0.092μSv
 鴨沢登山口=0.084μSv

 これを見ると、いつも歩く長沢背稜の七跳山〜酉谷山間が総じて放射線量が高いこととなっている。そして、その原因が酉谷山避難小屋、ゴンバ尾根、七跳尾根、大栗尾根、ハンギョウ尾根と言った広葉樹が美しく、人の少ない静かな場所に集中していることに、放射能の問題を身近に感ずることとなる。

4 酉谷山周辺の放射線量

  埼玉県秩父市は、「放射性物質等汚染対処特別措置法に基づく汚染状況重点調査地域の指定に係る秩父市の考え方」において、省令で定める指定基準は放射線量が1時間当たり0.23μSv以上で、航空モニタリングによる測定結果、酉谷山周辺標高1、600mの国有林において指定基準を超えるか所があったが、セシウム134、137の空間線量率において3年で半減すること、風評被害が拡大するなどの理由を挙げ、指定を希望しないとしている。

 つまり、秩父市は、高放射線量が検出された酉谷山周辺標高1,600mの場所の放射線量は、1時間当たり0.23μSv以上あるが、その高い値の数値は明らかにしていない。
 
 
 
 奥多摩側の放射線量に対しては、環境省奥多摩自然保護官事務所及び東京都が運営する奥多摩ビジターセンターとも表面上は無関心を装っているが、モニタリングの結果を見ると、日向谷ノ頭から酉谷に派生する尾根、ゴンバ尾根、七跳尾根、ハンギョウ尾根の南面にでは、3.8マイクロシーベルト(μSv)〜9.5マイクロシーベルト(μSv)と顕著な数字を示している。

 航空機モニタリングの結果の全体は、文科省の資料「放射線量等分布マップ」参照。

5 酉谷山避難小屋の年間放射線量

  物体に照射された放射線の量を放射線量といい、放射線による人体への影響の度合いを表す単位をシーベルト(Sv)という。シーベルトが被ばくの総量を表すのに対し、毎時シーベルトSv/hは被ばくの強さを表す。

 1シーベルト(Sv)=1000ミリシーベルト(mSv)=1000000マイクロシーベルト(μSv)

 専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う国際学術組織国際放射線防護委員会は、年間の被ばく量について次のように助言している。
@ 緊急事態時 20〜100ミリシーベルト(mSv)
A 事故収束後の復旧期間 1〜20ミリシーベルト(mSv)
B 平常時 1ミリシーベルト(mSv)以下

 年間の積算線量は、
(測定結果−自然放射線量)×(24時間分の16時間×0.4+24時間分の8時間×1)×24時間×365日
で推計する。

 自然界放射線量の東京都の過去の最大平常値0.079マイクロシーベルト(Sv)、屋外に8時間、木造家屋内に16時間いると仮定し、木造家屋内にいるとき(16時間)の放射線の低減効果(係数=0.4)で計算し、酉谷山避難小屋で1年間滞在し、うち毎日8時間を小屋の外にいるとすると、被ばく線量は
(0.348μSv−0.079μSv)×(16/24×0.4+8/24×1)×24×365=1436.64マイクロシーベルトμSv
となって、これをミリシーベルト(mSv)にすると、約 1.4ミリシーベルト(mSv)である。(※)

 なお、てつさんの実測値ではなく、航空モニタリングで得られた数値を使用してみると、0.5マイクロシーベルト(μSv)で年間約2.5ミリシーベルト(mSv)、1.0マイクロシーベルトで(μSv)で年間5ミリシーベルト(5mSv)となるので、文科省のモニタリング結果からすると、酉谷山避難小屋に1年滞在すると被ばく量は最高で5ミリシーベルトとなる。

 (※ 放射線・放射能を表す単位:シーベルト(Sv)とベクレル(Bq) )
 放射線による人体への影響度合いを表す単位を「シーベルト(Sv)」、放射性物質が放射線を出す能力を表す単位を「ベクレル(Bq)」といいます。放射性物質にはさまざまな種類があり、放射性物質によって、放出される放射線の種類やエネルギーの大きさが異なるため、これにより人体が受ける影響は異なります。このため、放射線が人体に与える影響は、放射性物質の放射能量(ベクレル)の大小を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける身体の部位なども考慮した数値(シーベルト)で比較する必要があります。(東北電力のホームページ「原子力ハンドブック」から引用)

6 酉谷山避難小屋水場における放射能の影響

  水や大気の環境について所掌する環境省や、都の環境局では、登山者が利用する水場の放射能の検査は行ってはいないが、山間部の檜原村では水道のほか、原水を水道としているか所の放射能の測定を行っていて、「いずれも放射性ヨウ素、放射性セシウムともに検出されず安全性が確認されています。」と発表している。その結果から類推して解釈すると、酉谷山もだいじょうぶ(?)。

 檜原村は奥多摩の西側山地にあるが放射線量は長沢背稜に比べ低く、使用している原水も酉谷山避難小屋の水場のように、100m上は稜線といった場所の原水ではなく、十分濾過されて湧出する水が使われていると思われる。一方、酉谷山避難小屋の水場は、雨が降ればすぐ水量が多くなるので、その点において若干の懸念が残るが、その懸念は水場を利用する年間わずかな登山者のものである。 

 長沢背稜には、一杯水と酉谷山に水場があるが、水場の放射能検査は行われていないので、心配の向きは、自分で担ぎ上げれば事足りることであり、ことさら問題視する必要はない。稜線の水場をそのまま使いたくないというなら、一杯水避難小屋利用なら塩地谷へ下り、酉谷山避難小屋利用なら小川谷林道方向へ酉谷へ下った右手斜面から流れ出る湧水が得られる。(ただし、いずれも高い放射線量を示す範囲内にある水場であるというこは認識しておく必要がある。)

7 今後の酉谷山周辺の登山

 「奥多摩の酉谷山周辺から埼玉県にかけて、10万ベクレルもの放射線が観測された。」「酉谷山から埼玉県に関しての、山歩きは事実上不可能」「落ち葉の上は危険」「マスクをつけて歩かなければ」などに代表されるネガティブな意見、感想はそれぞれ個人の感想だから、その思いは尊重するとして、1年に1,2度長沢背稜を歩いて放射能がどれだけ登山者に影響するのかというと・・・。

 てつさん測定の酉谷山避難尾小屋における放射線量は0.348マイクロシーベルト(μSv)であったが、この数値が長沢背稜周辺における数値として、年に1回8時間歩いて、全国平均の自然放射線量0.05マイクロシーベルト(μSv)/時間の地域の戸外で活動するより1日2.38マイクロシーベルト(μSv)、10日間で23.84マイクロシーベルト(μSv)=0.024ミリシーベルト(mSv)上昇するに過ぎない。

 ただし、稜線をはずれた七跳尾根などの4か所に見られる比較的高い放射線量(文科省の調査では3.8〜9.5マイクロシーベルト(μSv)の範囲と区分されているところ、実測値は5.2マイクロシーベルト(μSv)であった。)の最高値である9.5マイクロシーベルト(μSv)を用いて計算すると、1年間の積算線量は49,669.2マイクロシーベルト(μSv)、すなわち約50ミリシーベルト(mSv)となるということは、前述の国際学術組織国際放射線防護委員会が助言する緊急事態時の年間の被ばく量である20〜100ミリシーベルト(mSv)の範囲にある。しかしながら、高放射線量の場所を通過するだけの登山において、何ら留意すべき数値でないことは明らかである。(と言うより、今なお緊急避難地域の30km圏外に隣接する地域において生活せざるを得ない皆様に対して、安全圏内の奥多摩・秩父での山遊びを嗜好するものがこの数値がどうのこうのと取り上げる自体が失礼千万な話であることをお断りしておかなければならない。)

 レントゲン検査で受ける放射線量は、バリウムを用いた胃部検査で3.3ミリシーベルト(mSv)、上腹部のCT検査で12.9ミリシーベルト(μSv)であるが、これに比べたら長沢背稜の登山で得られる線量は誤差の範囲の微々たる量である。つまり、いわゆるホットスポットである酉谷山及び特に線量の高い七跳山(分岐)など長沢背稜周辺の山々は、御心配の向きには敢えて立ち入らないでいただければ、これまで以上の静かな山歩きを楽しむことができるので、かえって願ったりである。


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