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タカネビランジ 雷雨の北岳

2006/ /12〜13


 8月12日(土)

 天気予報は,上空に寒気が入っていて雷が発生すると伝えているが,南東斜面にはタカネビランジやトウヤクリンドウが咲いているころであり,早発ちをしてテントを張ってやり過ごせば,翌日午前の花見は大丈夫だろうと高をくくって北岳に登ることとした。いつものテント山行に使う75リットルのザックを50リットルに変えて,持参する装備や食料を最低限のものにして身軽に行く。おかげで,背中にフィットしたザックの重さはほとんど気にならずにすんだ。

 午後10時の芦安の大きな駐車場はすでに満車状態で,ようやく駐車が可能なほどであった。週末の北岳はラッシュアワーの様相が見込まれる。広河原までの山梨交通のベテランの車掌さんは,普段はスクールバスに乗務しているとのことではあるが,ベテランらしい張りのある声で北岳や間ノ岳,農鳥岳が見えるたびにエピソードを交えたガイドをしてくれる。

 夜叉神峠に向かう山の斜面にはフジグロセンノウが鮮やかな色の花を付け,夜叉神峠の駐車場の上にはタカネナデシコが咲いていて,この時期の北岳の花が楽しみとなる。

 広河原から二俣に向け大樺沢を登ると,7月には通行できた崩壊地が通行禁止となっていて,いったん右岸に渡らなければならなくなっている。右岸の林床にはほとんど日が差し込まず羊歯類に覆われ,楽しみにしていた草花にはお目にかかれず,取り付けられた登山道はどろどろとなっている。 ふたたび左岸に戻ると渋い紫色に近いタカネグンナイフウロ,ピンク色に染まったハクサンフウロ,日高の山で見て魅入られてしまったミヤマハナシノブ,野生的な紫色のホソバトリカブト,大きな岩の上に咲いていたタカネナデシコ,ホタルブクロなどが登山道を彩っている。

 大樺沢から右俣コースに進路をとり,登山道をジグザグに登って小太郎尾根分岐に向かって登るが,キタダケソウの時期に見られたミヤマキンバイなどの花々はすっかり姿を消し,トリカブトとハクサンフウロなどが目につく程度となっている。小太郎尾根分岐から肩の小屋へとの稜線を進むが,あれほどあった夏のお花畑の花も秋の花のトウヤクリンドウにとって代わり,岩場にはチシマギキョウが咲いている。

 肩の小屋から北岳の頂上への急登を登るころ,遠くに雷鳴が感じられるようになり,西から流れてくる雲も濃い色を伴っている。それでも,まだ仙丈岳や甲斐駒ヶ岳,鳳凰三山の展望はある。天気予報からすると間もなく雷を伴った降雨が予想されることから,雨衣を着込んで天候の急変に備える。

 あと半行程で北岳の頂上というころ,降雨が始まり急激に気温が低下すると,あられがばらばらと音を立てて落ちてくる。北岳の頂上が近づいてくると北岳山荘が見えてきて,テント場には数張りのテントが見える。広河原でテント装備の人が多かったことから,頂上からの展望を楽しむのもそこそこに,山荘を目指すこととする。

 午後2時の北岳山荘の玄関は,大勢の宿泊客でごった返している。受付では,今日は2人で一組の布団を使ってくださいと,客に求めている。混み合った背中合わせの小屋がいいか,大の字で寝ることができるテントがいいか。むろん,テントがいいに決まっているが,雷がごろごろ鳴って雨も降っている中でのテントの設営は手早くしなければならない。

 テントの設営を終えてトイレに寄ると,雨を避けてトイレの床でラーメンを作っている御仁がいる。イギリス出身の青年で,ガソリンのバーナーを使っているので,テントの中で火を使えないというのだ。このトイレ,北岳公衆トイレはバイオを利用して排泄物を分解する装置を備えた新しいもので,ランニングコストは1回の使用で500円とのこと。豪華な山荘を思わせるこのトイレはすべて個室で,それが20もある。このようなトイレの利用にしても然り,登山道の整備にしても,入山料も払わず山岳を十分に楽しんでいる登山者は,税から大きな恩恵を受けているのである。

北岳山荘は,そこまでの行程から宿泊が伴う場所に作られている。宿泊者は山荘かテント場利用に別れるが,山荘にはトイレがあり,わざわざ外のトイレは使わないだろう。ならばこのトイレはテント場利用者のためのものか。朝日岳のテント場に作られたトイレも豪華できれいだった。

ヘリコプターで資材を搬送し掛けられたであろう蓮華温泉から朝日岳に至る瀬戸川の堅牢な恒久橋,その先の白高知沢の大きな岩に掛けられた仮設の端など,どれも登山者にしか使われないものである・

しかし,いくら豪華なトイレであっても,それ相当の臭いは充満しているのであって,こういうところでラーメンを作るという考えは,テントを張る場所を決めるとき,この流れくる臭いを避けられる場所はないかと考えあぐねたこの地の人と彼の国の人との大きな文化の違いにあるのだろうと思わないと,トイレでのクッキングが理解できない。

さてさて,雨も小康状態になったところで,今日の疲れを癒す物が必要だ。小屋に行きビールを仕入れてくる。缶ビールを飲み干すとそのまままどろんでしまうが,テントを雨が叩きつけていることが分かる。幕営中の雨は何度もあるが,今日の雨は普通ではない。


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