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キタダケソウのじゅうたん 北岳南東斜面
2008/ 7/1〜2(2日目)

                                 (参考)2006年のキタダケソウ
                                      2007年のキタダケソウ


 7月2日


北岳山荘とハクサンイチゲ 中白根山(3055m)と間ノ岳(3189m)を従えて 


富士を見ながらの幕営

 すっきりとした朝の風景
 テントの換気口から外をのぞくと富士山が雲海に顔をのぞかせている。鳳凰三山、間ノ岳など周囲の山もすっきりとした空模様に浮かんでいる。 気持ちのいい朝を迎える。吊り尾根分岐の岩場に咲く花々を見てから北岳の頂上を踏みたいが、これほどのいい天気に朝陽を浴びて咲くキタダケソウをもう一度見るのも捨て難い。そして雪渓を下ってキバナノアツモリソウを探す(前年に教えられた場所を目を皿のようにして探したが見付からなかった)のも面白い。そう決めたら簡便な朝食を摂り、すばやくテントを畳んで南東斜面に向かう。

キタダケソウ百様






 キタダケソウの守護神は誰?
 南東斜面では、想像していたとおり、キタダケソウが朝陽を一杯に浴びて今が盛りと咲き誇っている。ハクサンイチゲも負けてはいられない。早朝から南東斜面に繰り出し、キタダケソウの姿をカメラに収めている人が見える。年配の男性は、登山道から外れてガレ場をしばらく下り、群落を下から写している。斜面を登って写したと思われ、登山靴で表皮が踏みにじられた跡もところどころあって、キタダケソウやハクサンイチゲの住環境には優しくない。

 日高の南端にあるアポイ岳ともう一つの「とある地域」に、キタダケソウと同属のヒダカソウが咲く場所がある。ヒダカソウは息も絶え絶えで、いろんな方の記録を見ても、今では登山道脇に1株だとか、縦走路のどこかにあるとか、瀕死の状態となっている。ある年、「とある地域」に他の花を見ることを目的に、届けを出して入山した。管理している人は「昨日まで警察官が(無届入山者や盗掘者を摘発するために)張り込んでいたよ。」と教えてくれた。翌年のある機会で席を隣りにした警察官が山好きだとのことでヒダカソウに話が及んだとき、その警察官もヒダカソウ保護のため入山していたことが分かった。

 キタダケソウは吊り尾根上部から南東斜面のトラバース道の遥か下部まで、びっしりと尽きることがないかのように咲いている。ここでは盗掘の限りを尽くされ防犯カメラが設置されたアポイ岳幌満のお花畑のようなことはないし、踏み付けなどもほとんどなくマナーよくお花畑鑑賞がなされていると言ってよい。条例で規制され警察官によって守られるようなキタダケソウは見たくもないし、いつまでも北岳の自然環境を自由に堪能できることを願うばかりだ。

■ 日高の山のへ
  大樺沢の雪渓を休むことなく下りて、広河原11時40分発のバスかタクシーに間に合うように歩く。予約タクシーが肩ノ小屋から下りてくる客を待っているので同乗させてもらうことにして、木陰となった湧き水横のベンチで寝そべっていると、これから日高の山を3週間もかけて歩くという単独の男性が話しかけてくる。ペテガリやカムエクにも登ったというベテラン氏は、今回は日高山脈を取り巻く山々を一つずつ登ってくるという。そういえば前回の北戸蔦別岳頂上では十分な時間をとって北海道の山を堪能している男性に会った。近い将来、そのような人々の年代になって、自分が同じような山歩きができるかというと自信はないが、必要最小限の一定の収入を得て、その残りの時間を自由に使えたら・・・、と夢見るだけで楽しい。

■ イム・ホ氏
 広河原から芦安の帰り道、タクシーの運転手さんと話していると、韓国KBSテレビの取材班が20日間ほど芦安に入り、今日離日したとのこと。テレビドラマ「チャングムの誓い」で王様役を演じた俳優のイム・ホさんが来ていて北岳を紹介する取材が行われたとのことで、これからは韓国からの登山客が増えることだろう。昨年11月に肩ノ小屋に泊まった際は、百名山を登っているという韓国の大学生に会ったが、大勢の海外の登山者が日本の山を楽しんでくれたらいいと思う。

■ マイカー規制協力金 
 広河原に通じる南アルプス林道と県道南アルプス公園線は、マイカー規制がなされている。今年からは徒歩での通行は可能になったようだ。南アルプス山岳交通適正化協議会(会長・今沢忠文南アルプス市長)は本年から、マイカー規制の経費をバスやタクシーの利用者に一人片道百円の「協力金」として求める取り組みを導入し、バスやタクシーの料金を払うときに同時に協力金を納めることになった。
 
 これまで、マイカー規制により芦安では市が整備した駐車場に車を停めバスやタクシーに乗り換えるのだが、南アルプス林道の状況を見ると、自然環境の保全目的というより、交通の安全を図るために一般車の通行を禁止すべきと感じていた。広河原には山梨の数社のタクシー会社が乗り入れているが、今日の運転手さんによると、これまで「協力金」の支払いを拒んだ人は4人いたそうだ。
 
 「どのような人でしたか。」と聞くと、いずれも釣り客で、山登りの人で支払いを拒否した人はいなかったとのこと。釣り客の中には釣った魚を宿泊施設に卸したり、秋になるときのこ類を採取して売るなど、目に余る行為も少なくないとのことで、地元の資源を横取りしていると思われても仕方がない。

 深夜に駐車場に着いても、警備員さんが的確に誘導してくれている。あるとき、ルームランプを点けたまま山に入って下山すると、警備員さんが待っていてくれて、「ランプが点いたままでした。なにか必要なことがあればおっしゃってください。」とたいへん親切にしてくれた。年間に必要な警備員さんの人件費だけでも600万円になるという。このような厳しい社会環境の中で、自由に山に親しむことができる状況にあるのならば、片道100円の協力金をケチることなく収めたい。地元にはそれほどお金が落ちないのに、地域の税金が使われて駐車場の整備、看板や案内パンフの作成、警備員報酬などの負担が続けれれていたことに感謝したい。

 あとひと月もしないうちに日高の縦走で夏山のクライマックスを迎えるが、今回の状態のままの体力では完走はおぼつかない。芦安の金山沢温泉に浸かって体を休め、だましながら中央高速を走る。


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