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日高の秘峰
遂に念願の1839峰に登る

(1)

2007/10/5〜7


 1日目 10月5日 (晴れのちミゾレ混じりの雨)


降雨後の夏尾根

 2005年7月に、ペテガリ岳からコイカクシュサツナイ岳を縦走した際、当初計画にあった「1839峰」は、連日の降雨のため体力も精神力も疲弊し、登ることはかなわなかった。2006年は年間計画として、10月に1839峰を計画し、航空券やレンタカーの手配も済んでいた。しかし、太平洋上に2つの台風が発生し、台風の北側には低気圧があって大雨が予想されたので急きょ中止した。このとき、各地の山で遭難事故が相次ぎ、7日にはえりも岬で歴代1位の38m/sが記録されている。

 1839峰は、北海道の岳人の間でも憧れの山である。ヤオロマップ岳の西の1839峰に延びる稜線の両側は日高山脈の中でもその峻険さは随一といわれている。そのような山にいつものようにテントを担いで単独で挑戦するには、気力が充実し体力もそこそこ残っているときしかないと、2007年夏、エサオマントッタベツ岳〜カムイエクウチカウシ山を縦走した際に心に秘めたのであった。

札内川ヒュッテ


下二股(左の堆積部分が沢に続く)

 今回は、時期的にヤオロマップ岳頂上直下での取水が必ずしも可能とは限らないので、水は十分に背負い、その代わりに食事の内容を簡素にすることとした。また、天候が悪化すれば当然に降雪するであろうからと、ゴアテックスの手袋やオーバーパンツなどの防寒具を用意した。

 場違いな登山スタイルで羽田空港から新千歳空港に着き、レンタカーを借りる。登山口の札内川ヒュッテは、今年は雪崩による建物の一部崩壊で宿泊が禁じられているので、トイレと着替えだけに利用した。なお、前泊が必要な場合は、札内川ヒュッテ下流の日高山脈山岳センターで、低廉で宿泊することができる。登山届を見ると10月に入って入山の記載はない。登山計画書をポストに置いて午前6時20分、ヒュッテを出てコイカクシュサツナイ沢に入る。沢の水位は低く、高巻きの連続であった2005年の沢はなんだったのかというぐらいで、拍子抜けというか、安堵感を覚える。沢の水は冷たいが、ネオプレーンの沢靴は、すぐに温まって冷たさを感じさせない。

二つ目の函 ここは右岸を高巻するしかない

 7時5分、沢の真ん中に2本の大木が立つ「下二股」に到着する。沢は今年は余り増水したことはないものと見られ、踏み跡が一条となって上流に続いている。8時20分、順調に「上二股」に到着する。二股にジョギングシューズ、手袋、トレッキングポール、日本では入手不可能なような真鍮製の四角い熊鈴が置かれている。沢で、3日分の水9リットルを汲んでザックに入れる。ザックを担ぐと腰にぐっと重さが圧し掛かる。 

 二股となっている沢のY字部にテントを張った跡が2か所あり、そこの右手を沢からほんの少し(数メートル)離れてV字部を行くと右手に確固としたテント場(1張り)がある。テント場をほんの少し過ぎた左手の木の枝にピンクのテープが巻かれているので、そこを登るとクマザサの中に踏み跡がある。踏み跡が二つに分かれるようなところがあるが、いずれも右に右にと辿っていくと急傾斜の尾根の入口に取り付くことができる。


紅葉の夏尾根

 尾根道は、場所によっては背丈ほどのクマザサに覆われている。尾根道の傾斜はきつく、ザックも重いことから、歩みは非常に鈍くなる。11時15分、やっとのことで「1305m」のテント場に着いて大休止を取る。1305mは紅葉、黄葉に囲まれ、周囲の山肌の紅葉も見ごろとなっている。夏尾根の頭に向かって進むと、空が急に曇ってくる。ぱらぱらと降っていた雨がアラレの混じった雨に変わり叩き付ける。雨を避けてしばらく待機する。小康状態となって本日の難関の露岩の急登に取り付く。

夏尾根の頭からの1839峰(テントはカムエクからの縦走者)


コイカク南面からヤオロの窓を遠望

 雨は上がり、紅葉の谷に虹が架かる。ちょっとでも足を外したら奈落へと落ちる露岩を慎重に進む。フィックスロープがあるが、その助けを借りることなく登り切ることも可能ではある。夏尾根の頭にもう少しというところで、尾根に人影が見える。こちらには気付いていないようで、すぐ見えなくなる。14時30分、稜線に出るとその人影は、カムイエクウチカウシ山から縦走してきたという単独の若い女性であった。2つあるテント場の西側の方にテントを張っている。稜線で激しいアラレに打たれたという。この時期にそれも女性が単独でカムエクからの稜線を歩いてきたことに畏敬の念を覚える。

ヤオロの窓から1560〜コイカク


ヤオロの窓から1569m〜1600m

 1839峰から南側の山々は上部が黒い雲に覆われ、雷鳴も轟いている。当初計画ではヤオロマップ岳でテントを張るのであったが、今のペースでは明るいうちには行き着くことはできなさそうだ。計画を変更して、「ヤオロの窓」にテントを張ることにし、雨が上がった夕暮れの稜線を急ぐ。コイカクシュサツナイ岳の南面からのどうってことのないハイマツに難儀してしまい、結局16時23分にヤオロの窓に着く。テント設営後、ウイスキーを飲んでから夕食とする。日高の山々に沈む夕陽、満天の星、天の川、北斗七星、十勝平野の街々の明かり・・・。

ヤオロの窓からの夕陽


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