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神々の遊ぶ庭
大雪山縦走
天人峡〜化雲岳〜トムラウシ山〜五色岳〜忠別岳〜白雲岳〜間宮岳〜中岳温泉〜旭岳温泉

2003/ 7/19〜23

第3日目(7月21日・月)


姿を見せてくれたナキウサギ

太陽が昇ってくるころ,隣にテントを張った単独行の男性が出発の準備をしている。午前4時ころテントをたたんで静かにキャンプ場を離れていくが,その後に続く人はいない。ヒサゴ沼キャンプ場の朝は,以外に遅かった。朝日の当たるヒサゴ沼,後背地にある山や雪渓に目をやりながら思い思いに朝食の用意をし,女性のグループは化粧に余念がない。そう,ヒサゴ沼は他のテント場と違って,女性が占める割合が高い。トムラウシ山を始め,五色ヶ原のお花畑がその人気の理由の一つかもしれない。

天人峡からの登りは,重いザックを背負って時速1km,約9時間を要した。北海道での始めての縦走ということもあり,また,素晴らしい天候の朝を迎えて,気分は最高であり,ヒサゴ沼キャンプ場ではゆっくりした朝を迎える。なんともぜいたくなロケーション,上々の天気である。本来の計画では,今日は,五色岳を経て中別岳避難小屋までのコースを取ることとなっている。しかし,歩程を考えると昼前に避難小屋についてしまう。また,ヒサゴ沼に荷物を置いて,サブザックでトムラウシ山に登る人も多い。

そこで,計画を変更し,テントは畳んですべての装備を担いで,いったん南に向かって,日本庭園,ロックガーデンを通り,トムラウシ山に登ることとする。それでものんびりとした出発準備になる。
 午前7時,ようやく居心地のよいヒサゴ沼を離れることとする。ヒサゴ沼に沿って整備されている木道を通り,化雲岳への分岐を右に見て,雪渓へと直進する。

 雪渓の始まりは,ヒサゴ沼に落ち込むようになっており,滑り落ちないように慎重に進み,縦走路の尾根に登る。トムラウシ山へ登るには,天沼,日本庭園,ロックガーデンを通る。
 天沼手前の木道が始まる所に大きな岩が鎮座し,適当な日陰を作っている。この登山道脇の岩場の日陰に荷物を置いて,空身でトムラウシに登ることとして,しばし日陰で休憩する。


チングルマ

ガイドブックなどで見る日本庭園の写真は,まさに天上の楽園そのものの美しさである。 ヒサゴ沼から日本庭園までの間には,様々な花が咲いている。底の浅い水溜りのような池であるが,池の真中に設置された木道を中心にエゾコザクラが咲いており,その周囲をチングルマやエゾツガザクラが取り囲んでいる。日本庭園は,ロックガーデンに連なる道すがらにあり,池の周りは大小の岩が折り重なっている。岩には苔がはえており,この苔を土壌としてチングルマやエゾツガザクラの植生となっている。この様子は,まさに日本庭園と呼ぶにふさわしい眺めであり,チングルマやエゾツガザクラの織り成す花の饗宴に足を止める。

日本庭園の前後は足場の悪い巨岩の上をしばらく渡り歩く。特に日本庭園を過ぎる平らな場所には巨岩が延々と続き,トムラウシ山への登りとなる岩場では,氷河時代から生き残ったナキウサギの,チチッ,チチッという鳴き声が聞こえてくる。 鳴き声の方を見るが,ナキウサギはなかなか姿を現さない。幸い回りに他の登山者がいないので,静かにしていれば姿を見せてくれるだろうと,じっとたたずむ。鳴き声のする方をあちこち見渡すと,遥か遠くで,ナキウサギが岩の間を出たり入ったりして回りを警戒しているのが見える。そのうちに草のじゅうたんの上に乗って草を食べ始めた。その距離10数メートル,さっそくデジカメの望遠を最大にし,シャッターを3回ほど押すと,もういいだろうとばかりに岩の中に姿を消して行った。

大雪山は6か月の間雪に閉ざされるが,ナキウサギはこの時期,その間の食料をせっせと岩場の間に運んで貯め込むそうである。ナキウサギは,氷河期の生き残りといわれる稀少な動物である。氷河期の生き物であるナキウサギが,氷河期の去った現在までも生き残れる理由が,岩場にあるそうだ。岩場は,夏の太陽の熱をさえぎる断熱材であり,岩の下には冬場の冷気が残っていることから,ナキウサギの生育環境が保たれているというわけである。納得。


ガスに曇るトムラウシ山頂上

ナキウサギの住むロックガーデンからトムラウシ山へ連なる登山道を登り,ピークを越すと北沼に出る。北沼はトムラウシ山を巻いてキャンプ場のある南沼に至る分岐点となっており,ここの水は煮沸すれば飲用できる。北沼からは,トムラウシ山の北斜面を登ることとなり,岩の上に乗って進み頂上に立つ。

朝の早い時間には縦走路からトムラウシ山の頂上が見えていたものの,頂上に立ったころには,十勝側から猛烈に霧が流れてきて,展望はまったくなくなってしまった。しばらく霧の晴れ間を待つが,十勝側から間断なく濃い霧が流れてきており,展望をあきらめて下山することとする。しかし,人気の山だけあって,多くの人が頂上に留まっている。トムラウシ山から下山し北沼を見渡せる場所まで来ると,霧はときおり取り払われるようになる。

北沼の先に,雪渓上部から溶け出した水がガレ場と雪渓の間に溜まり「熊の目」という名の沼をなしている。雪渓の上に水が溜まっていくので,それがブルーに見える原因のようである。実際には熊の目はブルーではないだろうが,登山道から遥か下のガレ場の低部に張り出している雪渓に,融解した水が溜まっていて,神秘的な色を醸し出している。ザックをデポしている天沼を目指して登山道をヒサゴ沼方面に戻ると,再び射してきた太陽の光を浴びたエゾコザクラが綺麗に咲いている。何度見てもあきのこない風景である。

天沼の手前の木道に戻ると,ザックは元のまま置かれているが,なにやらごみが付近に落ちている。このような素晴らしい環境の中にごみを放置するなんて,とんでもない人もいるものだと思いながら,木道を離れてチングルマの咲く中に足を踏み入れて,ごみを回収する。よく見ると,それは自分がザックに括りつけたごみで,烏によって持ち去られたのであり,不明を恥じる。

 北海道の山行では,ごみが出す匂いによってヒグマを誘引させないためにも,ごみをザックの中に納めるべきである。また,ごみ袋をザックに括りつけて歩くのは,自分にはごみが見えなくても,後の人の鼻先にごみ袋がぶら下がることとなり,マナーの観点からも避けなければならないと気付いた次第である。


五色が原

 日本庭園から化雲岳に至るコルの登山道で,小さな住人と登山道ですれ違った。人を恐れないシマリスであり,登山道を10mほど下ったところで石の下を掘り出した。餌を貯蔵してあったのであろうか。これ以外の場所でも,ちょろちょろと現れては消える,かわいい住人と遭遇した。 ヒサゴ沼分岐を過ぎると,化雲岳には向かわず,神遊びの庭を抜けて五色岳へと向かう。神遊びの庭は,ハクサンイチゲを主体とした花が斜面一杯に広がっており,時期が早ければ壮大な景色だったろうなと思われる。

本日のテント場は中別岳避難小屋に隣接する所であるが,ここに至るには化雲岳から五色岳,五色岳から中別岳避難小屋分岐までの長い長〜いハイマツ漕ぎを強いられ,その所要時間は3時間をゆうに越えた。途中,何か所かに木道が設置されていて,その周辺はお花畑を形成しているものの,特に見るべきものはなく,背丈を越えるハイマツ漕ぎと,下りからのガスにより辛い尾根歩きとなった。


忠別岳キャンプ場

忠別岳キャンプ場には午後3時30分に到着しテントを張ったが,全体のスペースは狭く,10張り程度で満杯になる。テントを張ったすぐそばにエゾコザクラとチングルマが花を咲かせており,このような素晴らしい環境を利用できる幸せを感じるのであった。テント場は,雪渓の間近にあり,水場はテント場から雪渓を渡った傾斜地から流れる沢水であるが,その沢水も雪渓の融水であって,次の日の朝には薄い氷が張り,流れはなかった。


忠別岳避難小屋の朝

  隣のテントは,栃木県野木町の山岳クラブの3人で,一緒に飲もうと誘われ,遅くまで山談義に花を咲かせた。クラブの山行計画書を見せてもらったが,それは活発なもので,これから,北アルプス,南アルプス,谷川岳などの山行計画が目白押しである。ついつい長々と話しこんでしまったが,食料計画など有用な話しを多く聞いた。今回は,10日間の予定で,大雪山で残った日は観光旅行に当てるとのことで,日程もゆったりとしている。


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