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カムイエクウチカウシ山 (八ノ沢カールから札内川を下山)
(2011/10/ 2〜3)



日高の我が家


 10月 3日 

 夜中吹いていた風も収まったようだ。テントに明るい兆しが射している。起き出してみるとシュラフがシュラフカバーとの間で濡れている。身体から出た蒸気がゴアテックスのシュラフカバーを通り抜けることができず、シュラフを濡らしてしまったものと思われる。昨晩違和感のあった指を見てみると「しもやけ」になったようで、右手中指が赤く腫れている。湯を作って温めるほどでもないが、モチベーションは急激に低下してしまっている。空模様は一進一退を繰り返していて予断を許さない。進むことにも引くことにも決断が必要だ。


ピラミッド峰

 このまま稜線に上がってピラミッド峰に進んでも、着雪によって危険となるようなナイフリッジなどはなかったとは思うが、それは憶測で考えていることだ。一方、八ノ沢を下る場合は、1500mから1400m、1300mから1000mまでの間は夏場でも気を抜くことができない急斜面である。加えて今朝の寒さですからどのような状況が待ち受けているか容易に想像がつく。テントの中に入れた沢靴はカチンカチンだし、汲み置いた水は1/3ほど凍ってしまっている。


目まぐるしい天候の変化

 決断は「八ノ沢を下山」だ。一応防寒対策用の装備は準備してあるが、肝心の防寒防水手袋が役に立たないのでは、稜線では持たないのは必定だ。ただ、八ノ沢を下るとしてもアイゼンや細引きの用意はないので、どうなるかは分からない。今日中にヒュッテに着けばいいという気持ちでゆっくりテントをたたみ、八ノ沢カールに別れを告げる。登山靴は冬山用のグリップがしっかりしたものだったのだが、これに用心のために持参したシュロ縄を幾重にも巻いてスリップ防止とする。(これは効いた。)


八ノ沢の最初の一滴(ジャージャー流れ出てはいましたが)

 いつものとおり慰霊碑から沢をクロスして下山路に入る。源頭に出ると急斜面に雪が一杯着いてはいたのだが、かえってこの方がブレーキが効いて下りやすいと感じた。たぶんシュロ縄のおかげもあったのだろう。そんなことを言っていられるのもフィックスロープがある岩場のトラバースまでだ。ここは本当に身の危険を感じるところだった。次は2番目の古いフィックスロープのあるところだ。ここで滑ったら体重とザックの重量を2つの手で支えることはできないだろう。


一見平和な八ノ沢

 第3の関門は、約10メートルほどの一枚岩だ。傾斜上部に木や笹の手がかりがあるが、滑ったら支えきれるものではない。右に傾斜しえぐれた斜面の下部はホールドできるものはなく、この岩で滑ると10メートルの距離を滑落すること間違いないし、今日の寒さで一枚岩全体に薄く氷が張っているので、どうしてもここを避けて通る必要がある。そこで、沢の本流との間の踏み跡のない藪を漕ぎながら下り、どうにか一枚岩の下に出て、ようやく緊張から解放される。あとは、どんなに急斜面であっても一つ一つのステップを慎重に下りればいいだけだ。


平和な札内川本流

 どうにか三股に到着すると安堵感で一杯となる。その後は沢靴に履き替え、河畔林の中の踏み跡をたどり沢を渡りながら八ノ沢出合に出て、テント場でようやく休憩となる。この先は、昨年は増水で悩まされた札内川本流だが、昨日と同様水量も少なく、またほとんどを河畔林内に発達した踏み跡を辿って七ノ沢出合に着いたときは、この2日の苦労は忘れ、やはり日高の山はいいなぁなどとのんきなことを考えながら、車を停めている幌尻覆道手前のゲートを目指す。


前日の予報

 七ノ沢出合からの林道には昨日はなかったヒグマの落し物があった。その形状からあまり大きくないヒグマのものと思わる。まだまだ彼らの活動期は続いている。この2日間、行程管理人に連絡が取れていないので大急ぎで携帯電話の通じるところを探しに車を走らせる。すると札内川ダムまで出ると急に携帯電話にアンテナが立ち、無事下山の報告メールを打つ。その後、札内川ヒュッテに戻ってストーブで薪を燃やし、快適で贅沢な一夜を過ごすが、下山後のこのような楽しみもいいものだ。なお、薪については一度中札内の街に出てホームセンターモリタで買おうとしたのだが、そのようなものは置いていないと言うので、ヒュッテ床下に貯蔵されている薪を使用させていただいた。なお、札内川ヒュッテは、利用者のマナーがあまりよろしくないとみられ、室内で靴を履きかえる者をがいたり、ごみの散乱、トイレの清掃不足などが目に付く。ただで使っているのだからもっと勤労奉仕があってよかろうと思う。


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