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南アルプスの展望台 白峰南嶺・笊ヶ岳
2008/11/10〜11


笊ヶ岳頂上からの南アルプスの山々の展望


 11月10日(1日目) 

 通勤電車の中で深田久弥の「わが愛する山々」を読み進めていると、笊ヶ岳(ざるがだけ)のページまで行き着いた。深田久弥は、1960年(昭和35年)1月下旬に保川(ほうかわ)から大武刀尾根に乗り笊ヶ岳を目指したが、頂上まであと3時間ぐらいかかるであろう地点から引き返したと書いている。さっそく地図を広げてみると、その大武刀尾根の登山道は廃道になっているが、老平から布引山を経て笊ヶ岳に登る道がある。標高差2、100mを超えるロングランで小屋なし、水場なしというのは、テント派にとってはこの上ないおあつらえ向きの山である。

 テントを張る布引山の標高は2,583mで、笊ヶ岳の標高は2,629mである。11月も中旬になろうとする時期の山の寒さを考えて、ある程度の防寒対策は必要だろうと、夏山装備に、アウトドアリサーチのイアーバンド、ヘリテイジのゴアテックス防水手袋、予備としてスマートウールのアンダー上下を用意した。水は2日間分の5リットルで十分おつりがくるだろう。


広い河原

 行程は、1日目に布引山にテントを張って笊ヶ岳を往復し、2日目はゆっくり下山し、登山口にあるヴィラ雨畑で湯にのんびり浸かることにするが、布引山へ午後2時までに到達できないときはそれ以上進むことなく、笊ヶ岳は翌日回しと計画する。

 前日深夜、中央高速に乗って河口湖ICから下部温泉を経て、登山口である早川町老平まで行くが、駐車場が工事中で停車する場所がなく、戻って、雨畑湖沿いの道路に車を停めて仮泊する。午前5時、硯の里キャンプ場に駐車できないかと向かうが、急勾配の細い坂道を延々と登って行ったものの、歩いて往復するには不向きなので、老平の集落のはずれの道にやっと1台分の駐車スペースを見つけ、身支度をする。 

造林小屋跡

 時計はまだ午前5時30分、森閑とした集落を抜けて明かり一つない奥谷沢に沿った林道を、ヘッドランプの細い光を頼りに進む。林道終点から急に細い山道となるころ空は白み始めるが、厚い雲に覆われている。程なくして廃屋があり、その先は懸崖の道となる。老平を出て2時間以上、やっと渡渉点の「広い河原」に出る。対岸上部にはテント2張りのスペースがある。

 ここから尾根に取り付くが、「山の神」まではジグザグの急登が延々と続く。歩き始めて2時間を過ぎ、体調はすこぶるよく、ザックの重さも気にならない。小さな祠のある山の神はほんのわずかな平坦地となっている。イワカガミの葉が登山道脇を覆っている中を先に進むと大木数本に出会う。この大木にはワイヤーが巻かれていて、それが幹に食い込み、樹皮を損傷させ幹を腐らせている木もある。


桧横手山

 この地帯の木という木は、ジェノサイドという言葉を思い出すほど切り尽くされていて、運び出すためのワイヤーを敷設するために使った木が数本だけ命を永らえている。伐採された跡には、カラマツが植林されていて下草は生えておらず、大部分の植林されなかった場所は雑木がモヤシのように生えて伸びている。

 再び急登が始まる。植生はトウヒあるいはオオシラビソだろうか。そこにも大木はなく、累々たる腐食した切り株が目立っている。うっそうとした木々の間を登ると、そこは桧横手山と書かれたプレートだけがある、山の頂上とは思えない場所に出る。テントスペースが1張り分あり、少し先に行くともう1張り分ある。桧横手山の標高は2,021mであるから、ここまでですでに標高差1,500m以上を登ってきたことになる。


布引山頂上間近に1張り分

 桧横手山からいったん鞍部に下りて布引山に向かうが、再び厳しい急登となって、このころにはもう太ももの筋や大腿四頭筋の1本1本がバリバリと張り詰めているのが分かるほどである。「布引大崩れ」が始まる稜線に出ると視界はない。わずかな草地がある。もう限界だと体は言っている。腰を下ろすと30分ほど眠ってしまった。


笊からの道から見た幕営スペースに4張り

 稜線から崩れている布引大崩れのヘリを伝って再び樹林の中に付けられている道を進むと、「所ノ沢越」への分岐を示す標識がある。布引崩れから1時間、14時30分、布引山に到着した。ガスがかかっていて展望は利かない。約束の14時を過ぎてしまっているし、すっかり疲れきってしまっているので笊ヶ岳には進まず、テントを立てる。

 いつものようにテントを立て、いつでもシュラフに潜り込めるように準備すると、次にすることはアルコールで喉を潤すことしかない。泡の次に熱燗をやるともう夢の中に入っている。テントを雨がたたく。テントの中の温度は2〜3度しかない。このまま降り続くと雪に変わるだろうなと思ったが、また夢の中に戻ってしまった。

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