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栂海新道の核心部を進む(2012)
 7月15日 



犬ヶ岳からいったん大きく下って黒岩山へ


 案の定雨風が吹き付けています。青年はとうに出立しましたが、若くないこの身には午前中のエネルギー源を取り込んでやる必要があるので、1時間遅れで小屋を後にしました。小屋から犬ヶ岳の頂上はすぐです。そこから一気に谷底に下りて行く雰囲気となります。栂海山荘までの登山道と違って、まだ刈り払いは行われていませんが、それでも十分に手入れの行きとどいた登山道を進みます。昨日の疲れが十分に取れていません。というよりは昨日の疲れを引きづって歩きます。(他の方の記録を拝見すると、この日、サワガニ山岳会の方々が登山道整備に入った模様です。)


キスゲ

 どうにか黒岩山を過ぎ、黒岩平を目指します。黒岩「平」というのだから穏やかな平坦地を想像していたのですが、とんでもありません。長栂山までどんどん登って行かなければならないのです。このごろになってようやく、親不知を目指す人たちに会うようになります。ホテルでアドバイスされた通りのガスと雪渓の連続です。小屋を先に出た青年には、アイゼンを持ってこなかったから、急な傾斜の雪渓ではしっかりとステップを付けておいてくれるように頼んであります。


ミズバショウ

 数人のパーティが向かってきます。中の一人がアヤメ平の先の雪渓は急で危険だからと、回避するルートを教えてくれます。次にすれ違った単独の女性から、「たぶんあなたのためだと思いますが、先に行った人が雪渓で丁寧にステップを切っていましたよ。」と教えてくれます。その雪渓の端に着くと確かに急な傾斜となっていて、回避ルートを歩いた足跡もあります。ままよ、と雪渓に取り付きますが、ステップがしっかりと切られているし、ほどなく傾斜は緩み夏道に入って安心するのでした。Thanks!



アヤメ平のヒオウギアヤメ

 黒岩平も、アヤメ平の花は期待していたほどではありませんでした。というのも雪渓がほとんど融けていないので、日当たりのよい緩斜面にハクサンコザクラやチシマフウロ、オニユリ、ニッコウキスゲなどがほどほどに咲いているだけでした。(黒岩平はかつて、テン場として利用されていましたが、今は幕営禁止となっています。コース取りの必要から黒岩平でテン泊する際は、環境にダメージを与えないようにと、朝日小屋のホームページでは注意を呼びかけています。)


長栂山へ向かう登山道脇のオオサクラソウ

 アヤメ平の雪渓をやり過ごすといったん急斜面を登ります。コースがやや緩斜面になると登山道脇には花々が咲きます。まだ天候が悪かったので、花を愛でる余裕はなかったのですが、このコースで初めて出合ったオオサクラソウには慰められました。(この後、猿倉に下山するまで合計4か所でオオサクラソウを見ましたが、規模はそれこそ小さく、北アルプスでは希少な花です。ところがこの北方種であるエゾオオサクラソウは、北海道ではそこいら中にいくらでもあるのですから、生育環境の違いというものはこれほど顕著ということでしょう。)


照葉ノ池

 長栂山の蛇紋岩の植生を楽しみにしていましたが、ムシトリスミレ、タカネバラ、ミヤマムラサキ、ミヤマアズマギクなどは見られたのですが、楽しみにしていたユキワリコザクラを見ることはできませんでした。タテヤマチングルマもあるそうですが、そのことはすっかり忘れていてあっさりと照葉ノ池に向かいます。途中草原の中をトラバースします。学生のパーティが休んでいます。この時間にこんなところにいて「栂池山荘に向かいます。」とは言うものの、そこは阿吽の呼吸です。黒岩平の状況を教えてあげます。道は左に五輪尾根からのルートに接近するようになると、待望の吹上ノコルです。(照葉ノ池は雪渓の溶けた水で木道が浮き上がり、フローティングブリッジ状態となっています。きわめて危険で、最後の雪渓はいつ割れるともしれない状態ですが、落ちても溺れることはなさそうです。)


千代ノ吹き上げのミヤマアズマギク

 ようやく着いた吹上ノコルは、風が強く吹き抜けて行きます。ハイマツの周縁にはクロユリも見られました。ここからの朝日岳東斜面は蛇紋岩で覆われています。ということは、蛇紋岩に特有の花が見られることになります。ウルップソウにミヤマムラサキにタカネスミレにミヤマアズマギクにタカネバラにイブキジャコウソウにタカネナデシコに・・・。慰められます。


栂海新道完走

 朝日岳の頂上には、(いつものように)多くの登山者が休憩しています。わざわざ栂海新道を昇ってくるような酔狂な人たちはおらず、フラワーロードを歩いてきた、和気あいあいと楽しそうなパーティばかりです。頂上から朝日小屋に向かいます。計画では明日は、千代の吹上に戻って五輪尾根を花園三角点まで進み、お花見の予定です。しかし、オオサクラソウは見たし、ハクサンコザクラは遅れているし、チングルマに至ってはまだ先のようなので、ここでのテン泊は1泊として、雄大な北アルプスの山岳風景を楽しむこととしました。


雨に打たれてきた人たち

 小屋の周辺では、多くの人が夕食の時間を待ちながら歓談しています。栂海山荘を先に発った青年は、6時間半で着いたと言います。急いでテントを設営し、ビールと日本酒を入手して疲れた体を慰めます。(こののルートの所要時間は8時間50分です。私の所要時間は9時間30分ですから、雨と風とガスと雪渓の中、有森さんのように「自分をほめてやっていい」がんばりといいっていいのでしょう。)


日本海

 朝日小屋の2階ベランダに登ると神通川、富山平野、富山湾、そしてその先に能登半島が見えます。まだ日も高いうちから、いつまでもいつまでも夕日を眺めます。多くの人がベランダに集まって山の話、花の話に花を咲かせます。夜の帳が下りようとしています。もうテントに戻って寝なくては・・・。テント場の喧騒はなかなか収まりようもなく、女性の一喝で静かになった夜が更けて行ったのでした。


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