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北岳を嶺朋ルートから登る/1日目(2013)
1日目の前半(広河原〜八本歯ノコル)
(2013/ 8/ 9〜10)


嶺崩ルート標識


 8月 9日(金) 


絶滅したという花が咲きそうな雰囲気

 7月の夏山縦走が終わって暫し呆然としていたが、毎年3〜4回は登っていた北岳にここ2年ほどごぶさたしていたことを思い出した。北岳と言えば花の山である。平成9(1997)年、環境省が希少種に指定した紅い花や、森の妖精と言われるピンクの花が咲くところはどこだろうと、これまで目を皿のようにして一般登山道を歩いた。しかし、富士山に次ぐ本邦第二の高峰の山で、多くの人が登る北岳にそのような希少種が生き残る余地はない。しかし、今は亡き花々はどのようなところに咲いていたのかを見るのも一興だ。ということで、昭和47(1975)年に、嶺崩クラブにより開削された嶺朋ルートを登ってみることにした。(過去に希少種が咲いていたところであったかというと、残念ながらそのような可能性のある植生地はなく、あるいは咲き終わった希少種の葉などはなかった。)

 今回登った嶺朋ルートを知ったのは、2011年9月9日に南御室小屋にテント泊で登るとき、夜叉神峠で休憩していた人から「ボーコンの沢の頭からの「霊峰ルート」がいいですよ。」とお薦めのルートを教えてくれたからだった。「霊峰ルート」と勝手に思っていたが、山梨県の山岳会「嶺朋クラブ」が開削したルートであるということは、のちに知ったのだった。


北岳

 北岳・嶺朋ルートをネット検索しても山行記録は少ない。しかし、ヤマレコに最近の記録がありGPSログを拝借して山行計画を立てる。ここは取付き口からの急登で、ボーコン沢ノ頭まで約1,300mを直登することとなるが、どのルートを採ろうと北岳に登るに、当たり前のことながら同じ標高差なので、いつものようにテントを担いで行くことにする。装備品は最小限度にし、ザックカバーなど不要不急の物は持たない。替えの電池も持ったのは携帯電話用とカメラ用だけとする。食料は一応自炊の予定なのである程度は持ち上げるが、北岳山荘で夕食を摂ることも念頭に置く。


北岳バットレスと大樺沢

 前日未明、芦安の駐車場に到着する。複数の駐車場には満車の看板が立てられているが、バス乗り場・タクシー乗り場に一番近い駐車場に突っ込むと、空きスペースがあった。タクシーが予定より早く出ることも考えながら寝たが、午前4時20分ころには、係の人が駐車中の車にいる人たちに「午前5時10分に出るよ。」と呼びかけている。身支度も何もしていなかったので慌てて着替え、7番目のタクシーの客となる。


ボーコン沢の頭から北岳

 いつもは、水は広河原のビジターセンター前の湧水を組むのだが、ミネラルウォーター2リットルとポカリスェットを0.5リットルをザックに入れておいた。身支度を整えていつものように湧水を飲もうとしたらわずかに流れているといった状態であったので、ザックに水がたっぷりあることに安堵感を覚える。(この日の甲府市の最高気温は38.7℃と猛暑であったし、稜線も焼き付けるような熱波が覆っていた。北岳山荘までの9時間の行程で水1リットル、ポカリ0.5リットルを消費した。下山し甲府市内を走行中、気温が40.7℃を記録したとラジオが言っている。コンビニへ入るまでのわずかな距離なのに灼熱地獄とはこのことであった。)


タカネビランジ 八本歯ノコルで

 野呂川に掛かる大吊橋を渡って、すべての登山者が右に行くところを左手に折れ、大樺沢に掛かる吊橋を渡って少し進み、赤テープを頼りにいよいよ嶺崩ルートに取り付く。最初からとんでもない急登である。池山吊尾根の分岐点までの所要時間を5時間15分、北岳山荘までの総所要時間を八本歯界隈と南東斜面での花見タイムを含め8時間15分と見て計画を立てたので、のんびりとしながら登ることにする。(というより、過去も今も能力的に早く歩くことはできないのが真実である。)


北岳南東斜面分岐下から池山吊尾根

 登り始めからしばらくは、カニコウモリがおびただしいほど繁茂して樹林下を覆っている。太陽が時たま射し込む樹林下は大変な暑さである。惰性で2枚重ねしている厚めのウールのTシャツが暑さを倍加させる。いつもは2日かけて飲むポカリスェットを、今回は2度で空にしてしまった。普段はあまり腰を落ち着けて休まないが、30分ほど歩くとザックを下ろして息を整える。徐々に高度が上がっているのを励みに、歩みを進める。

 途中、白根御池小屋や草スベリが俯瞰でき、苔むした雰囲気のいい樹林下を登り詰めて標高2400m内外のロックガーデンに出ると迫力ある北岳が、バットレスが、大樺沢の急登が眼下に広がる。ロックガーデンを構成する高みを巻いてさらに高度を上げていくと、ハイマツやシャクナゲなどの灌木が踏み跡を覆うようになってくるが、歩くのに支障はない。ただ、ハイマツの枝を頼りにこれに手を掛けると松脂がたっぷり付いてきて始末に困るし、ズボンは数か所汚れる程度の我慢は必要となる。(こんなところでは軍手が重宝するのだろうし、汚れてもいいズボンで臨むのも一考だが、気にしなければ済程度のことではある。)


八本歯ノ頭〜池山吊尾根と嶺崩ルート(嶺崩尾根〜ボーコン沢ノ頭)

 ロックガーデンからのミニ藪を抜けると視界が一気に広がりボーコン沢ノ頭に出る。ジュラルミンの看板に嶺朋ルートであることと水場がないことが記されている。ここから池山吊尾根の分岐点まで登り続け、池山吊尾根の方向を示す標識の先にあるケルンで休憩を入れる。到着は、出発から3時間50分というハイペースでのことだった。もうそのころは炎天下に晒されて茹だった状態だったので、適当な日陰はないかと先に進みながら、体半分を隠すことができるミヤマハンノキの日陰を探し、午睡を貪る。(夏場の日高、エサオマン〜カムエクの稜線も隠れるところがなく、今回の北岳かそれより強い日射を浴びることになる。日高でもたった1本の小さな木陰で休んだり、ハイマツに潜り込んで寝たっけなぁと、昔話。)

 この幸せな昼寝で体力を回復し、八本歯ノ頭へと向かう。ここでの楽しみはタカネビランジとの再会である。時期的には遅いが咲き残りはあるだろう。八本歯ノ頭から垂直に下るとそこいらにいっぱいタカネビランジが咲き残っていた。大樺沢からは次々と人が登ってくる。閑散としたというより、登ってきた嶺朋ルートは、踏み跡の石を覆う苔が踏み付けによってもまだ頑張って残っていて、石が丸裸にはなっていないというのに(つまりここを歩くという奇特な人は年に数えるほどだろうに)・・・。
(嶺朋ルートを使ったというネット上の記録も少ない。テープとペンキでのマークが導いてくれるが、踏み跡を見失ったときはすぐさま四囲を確認するか、いったん戻って丁寧・確実に踏み跡を探すこと。大樺沢側に切れ落ちた崩壊斜面があり、踏み跡自体もその近くを通るところがあるので、安全を第一に!)


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