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ヌカビラ岳〜北戸蔦別岳〜1967峰〜ピパイロ岳往復 
(2010/ 6/17〜19)


夜が明けて突然、幌尻岳が姿を現す


2010/ 6/18(2日目)

  風がバタバタとテントを揺るがせている。それでも前回2008年の幌尻岳往復時の暴風雨に比べれば子守唄のようなものです。気持ちが高ぶっているものとみえ何度か目覚め、換気口から外を見る。相変わらずのガスだ。午前1時30分、漆喰の色の世界に十勝平野の灯りが見える。「こりゃいい。」、そんな喜びも明け方の濃いガスで打ち砕かれる。乾いた衣類を着て下山すれば気持ちいいだろうな。でも何のための準備だったんだ。今日一日、ここで待ってみればいいんだ、という問答を繰り返していると、テントが少しずつ明るくなってくる。もしかして・・・。


ガスが徐々にとれていく

  さっそく簡便な朝食を摂る。これまでは、長時間歩くには炭水化物をたくさんとって、筋肉疲労の予防にアミノバイタルを飲んで、野菜も食べてなどと気にしていた。このごろは、食べないか食べてもほんの少しで、あとは歩いているときに少し休んでロールパンやくだものでもかじるだけというようなをことを繰り返している。シャリバテになりそうになったら秘密兵器のはちみつレモン原液が登場する。


1856mからの下りが始まる 北戸蔦別岳を振り返りながら

  日高の山は曇れば寒いだろう、スマートウールの長袖Tシャツと半袖のTシャツを重ね着してきた。昨日雨や発汗で、その二つがすっかりと濡れてしまっている。睡眠用の乾燥したウールの長袖のTシャツなどを脱いで、衣類を濡れたものに取替える。気の引き締まる瞬間だ。


ほかに結構なところもあるので気を引き締めて


 
サブザックに水2リットルと雨具、食料や万一テントがアクシデントに遭ってもいいように貴重品などを入れ、ピパイロ岳を往復する準備を始める。これから気持ちのいい稜線歩きと、高嶺の花々に出合う楽しみが待っている。午前6時、外に出ると、源頭からガスが徐々に晴れてくる。周囲の山が次第に姿を現す。戸蔦別岳が、幌尻岳が、神威岳が、エサオマントッタベツ岳が・・・。素晴らしい日高の山岳風景が広がっていく。これだ、これが求めていた日高の山の風景だ。


キタキツネも歩いています

 北戸蔦別岳から1856mへ向かう。稜線の高度をいったん下げると、十勝側にびっしりと雪が張り付いている。腐った雪であり慎重に歩くことで問題はないが、一度だけキックステップでも持たず数メートル流され、岩で停まる。雪渓のヘリ歩きと夏道をうまく使い分けないと雪渓から夏道に戻るのが困難となる。

  


北戸蔦別岳と1856mの鞍部を振り返る ここはハイマツ漕ぎが必要

 1856mから1967峰までは、ハイマツ交じりの岩稜であったり、岩場のよじ登りであったり快適な稜線歩きである。ピパイロ岳を目指しどんどんと歩く。1967峰頂上で我が身をカメラに収め、雪の斜面を滑り落ちるように歩く。


1920m付近から1967峰

  稜線上の水場を確かめようと、1856mの北、露岩の「1920m」と「1910m」のコルの日高側の二岐沢/4ノ沢源頭へ下るか所を探してみるが、そのようなところは見当たらない。たぶん沢屋さんの世界のことだろう。


1967峰日高側斜面

  伏美岳から幌尻岳への稜線は、「一級国道」と称されているとおり、ハイマツの藪はほんのわずかで、どこも歩きやすい。今回の山歩きの区間では北戸蔦別岳から1856mの下りと登りの間ぐらいがハイマツに多少苦労するだけだろう。それでもハイマツの枯れ枝で、スパッツは破れてしまった。


花開いたエゾノハクサンイチゲは、こことヌカビラ岳の稜線にわずか 神威岳方面を背景に

  1967峰へ向かうと2度ほど顕著な岩稜帯に出合う。最初のところを登るとわずかな水平道となって、たった今咲いたばかりというようなエゾノハクサンイチゲが出迎えてくれる。あれは神威岳だろうか、その奥はエサオマントッタベツ岳だろうか。もう何年も日高の山に通ったから、今年の夏山は日高以外のところかなとも思うが、このような素晴らしいロケーションからエサオマンを見てしまうと心がグラグラと揺れてしまう。


素晴らしかな1967峰 ピパイロ岳を従えて

 2005年、1967峰を目指しながらタイムアップで1911峰への途中で断念した苦い思い出があり、今も後悔している。それは自分が非力であったからなのだった。安全至上主義で、なにかあればすぐ撤退し、多少の無理は承知で歩くと言うような気持ちがこれっぽちもなかったときだった。だからそのときは、1967峰からの景色を見るという計画を反故にして伏美岳から下山してしまったのだった。


1967峰頂上から北戸蔦別岳

 

 大きな洗濯板状の岩を登り切るとそこは1967峰の頂上だ。もうこの稜線も1967峰も歩くことはないだろうな、リタイア後はおとなしく東北の山だろうな、との気持ちに反して、今もふつふつと日高の山への気持ちが湧き上がってくる。いいな、このミヤマハンノキの芳しい匂い、折れたハイマツの枝から発せられる揮発性の匂い・・・。
 頂上でしばし展望を楽しむ。ツクモグサが待っているというのに、ここまで少し時間を使ってしまった。

 


2010年のツクモグサ


まったく同じ場所の2005年のツクモグサ
(2005年の記録と画像はこちら

 雪で覆われた1967峰鞍部のテント場を過ぎると、雪の上とハイマツの中の登山道を交互に歩く。ある程度上るとツクモグサが顔を出すが、蕾はどれも茶変し、残念ながら綺麗な開花株はない。その先も同様でがっかりしながら、午前10時45分、ピパイロ岳頂上に着く。と、岩陰でご夫婦が休んでいる。午前4時半、伏美岳登山口を発ち着いたところだという。ご主人70歳、奥様と2人、6時間ほどでピパイロ岳の頂上に立つとは、本当に御見それしました。食事が済んで下山しますと言う。奥様はご主人に「それではよろしくお願いします。」と声を掛ける。その後姿は、多くの山を歩いているだろう、キリリとした清々しいスタイルであった。


エゾキスミレ 1967峰の岩場で

 ピパイロ岳からの展望を楽しんでいるうちに、テントを張っている北戸蔦別岳方向がガスで覆われていて、山を越えるガスの流れが激しそうだ。テントの中に岩石などを入れてきておらず、飛ばされるのではないかと気が気ではない。幸い、貴重品、車の鍵、ヘッドランプなどは持ってきている。テントが飛ばされてしまったというような最悪の場合は、夜になっても山を下りることにしよう。気温は急降下し、10度になっている。午前11時05分、頂上を離れる。


「新ハイキング」の表紙を飾ったミヤマダイコンソウは花がなかった

  午後0時50分、1967峰に戻る。いったん頂に出て岩にタッチし、すぐ登山道に戻る。1856mをやり過ごしてハイマツを漕ぎ、午後2時20分鞍部に出る。そこからの北戸蔦別岳への長い登りと稜線のアップダウンをこなす。「あと一山か。」、人生もそんなものだな、簡単にはいかないな、などを考えていたら、午後3時10分、ポッと目の前に北戸蔦別岳の頂上標識に出会う。


伏美岳〜妙敷岳

  周囲はすっかりガスで覆われているが、身支度を解いている間にガスが少し晴れ、幌尻岳が姿を現す。テントから日本酒を持ち出し、岩に腰をかけ、風景を肴に飲む。これが我至福の時間、飽くことなく日高の山々を眺める。 


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ピパイロ〜1967mの間


@直下


A1911mの先

B水場のコル


C1967m


D1967m


E1967m


F北戸蔦岳寄り
END