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ハクサンフウロ ハクサンイチゲ ハクサンコザクラ 
ゴゼンタチバナ オヤマリンドウの白山


2005/7/16〜18


 7月18日 (3日目) 


ハクサンコザクラ トンビ岩コース

 夜の9時を過ぎても騒がしい隣人,他人のテントをライトで照らしながら徘徊する隣人になすすべもなく,寝ては醒め寝ては醒め夢うつつと目を覚まされたのが4時過ぎであった。元気な隣人は,朝食を摂り,テントを残したまま濃霧の中を出ていく。御前峰へでも行くのであろうか。このまま濃霧が続けば,ロングコースでの下山はやめようかなと,またシュラフにもぐってひと寝入りすると,外が明るくなってきた様子である。


ハクサンコザクラ 天池

 今回の登山のもう一つの目的は,北海道の中日高単独5日間縦走へ向かっての体力作りであり,一向に重量の減らないザックを担いで別山に登り,チブリ尾根を下って市ノ瀬に下りる耐久コースをたどることとする。


南竜ヶ馬場からいったん赤谷に下り正面の御舎利山に登る 右奥に別山

 南竜ヶ馬場からニッコウキスゲの咲く油坂,ハクサンイチゲやハクサンコザクラが周囲を彩るまさに天上の池である天池を通り,一歩間違えば滑落間違いなしの御舎利山への厳しいジグザグなルートを経て別山の頂にたどり着く。白山の谷底から別山山頂には,心地よいというより寒さを感じる風が吹き付けてきて,この風が南竜ヶ馬場からの3時間分の汗をさっと拭きとってくれる。


ニッコウキスゲ 別山谷

 別山からいったん御舎利山に登り返して,北アルプスのガレ場のような,あるいは日高の楽古岳のようなハイマツを縫って急激な下り坂をチブリ尾根避難小屋へと向かう。


ハクサンイチゲとハクサンコザクラが咲く天池

 仕事が終わってからの500キロ近くに及ぶ運転,厳しかった雨の中の登り,うるさかった隣人へのストレスなど雑多な疲労が入り混じった体は,快晴の今日の天気を受け止めきれずにいる。いったん登り返してチブリ尾根避難小屋にたどり着こうとした寸前,目の前に数輪のササユリを見たとき,すべての苦労が苦労でなくなったようだった。


別山尾根のササユリ街道

 市ノ瀬から別山までのチブリ尾根コースは,標高差が約1650mあり,宿泊(幕営)可能な南竜ヶ馬場まではさらにいくどかのアップダウウンを繰り返してさらに2時間歩かなければならない。

 これを下るのもトータル6時間20分という,気力,体力を十分に備えている必要がある。このようなコース上にあるチブリ尾根避難小屋は,格好の休憩場所であって,そこで待ち受けて咲いているササユリは清純な山の乙女である。


ササユリとニッコウキスゲが沿道を飾る別山尾根

 避難小屋では強い日差しを避けて昔の乙女を中心に同年代のグループが昼食を摂っている。もう子供も巣立って時間もお金も自由になる団塊の世代は皆元気で,今の登山ブームを支えている。

 山での若者といえば,急に年代が下がって大学生か若い女性が主体で中間層が少なく,山にも2007年問題や少子化の影響が出ているのかもしれないが,それはそれ,これからは落ち着いた山歩きができる時代の到来と歓迎すべきことかもしれない。

 避難小屋から先は,潅木の中を通る特徴のない登山道であったが,少し行くと稜線に出て,ニッコウキスゲが山肌を黄色く染めている。ニッコウキスゲもこれだけ密生していると見事なものだ,稜線に吹く風も気持ちいいし,いやぁ,なんと素晴らしい日だなどと浮かれて歩いていると,ニッコウキスゲの中にピンクの花が見える。もしやササユリではと大急ぎで近づいて見ると,そこはササユリ街道であった。避難小屋での感激に数倍する興奮が沸き起こった。

 あ〜,本当に神様も仏様もこの世にいるのだ。苦しんで苦しんで歩いていた稜線に天上の花園が現出した。雨の日に予定どおりここを登っていれば,ササユリどころの話しではなく,幕営地にたどり着けるかどうかの瀬戸際だったはずだ。

花の百名山,白山の花々を撮ろうと荷物の中に重い一眼レフや三脚をしのばせてきたが,被写体となる花は少なく,また,スケールも北海道の高山植物に到底及ばないものの,クロユリに続いて,ササユリは初めて見た花ということもあって,デジカメでも十分過ぎるほどの枚数を撮影した。


コバイケイソウ

 いやはや,時間が経つのは早いものである。この天上の花園に長居し過ぎてしまった。神のご加護も仏の慈悲にもいつまでも浸っているわけにはゆかない。1000m,まだ3時間下らなければならない。


池沼とハクサンコザクラ ハクサンイチゲ

 無風快晴の中では水をどんどん摂っても体温が上昇するばかりで,しまいには太ももが発熱しているように感じる。ブナ林の登山道に座りこんで肌を露出して熱を逃してやり,熱中症の危険を排除する。筋肉にも違和感があり,頭もぼんやりしてくる。今日2袋目のアミノ酸を飲み,ブドウ糖を摂取して最後の水場まで歩く。最後の水場の水で清涼飲料水のパッケージを冷やすと,生ぬるかったジュースがあっという間に飲みごろとなって,一息つく。

疲労回復は登山後の温泉に限る。白山天望の湯で体中の乳酸を代謝し,休憩をたっぷりとって車を走らせると,3日間の疲れもなんのその,途中のわずかな仮眠だけで500キロの道を戻ることができた。今回の「やま旅 はな旅」は,苦闘の中に一瞬の喜びを見出す,こころに強く残るものとなった。


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